226 _____________ ‐3rd part‐

文字数 1,296文字

 ちょうどよく煮立ってきた鍋に、うどんを入れて二階へ向かう。

 トリノさんには、失礼になるかもしれないけれど、オレは食べながらの方が、話がし易いもんだから。
 チョット下りて来てもらうまでに、うどんが食べ頃になってくれれば、トリノさんとの、いろんな間を埋めることにも使えて助かるし。

 ──階段を昇りきり、トイレのドアの先を左に曲がった一番奥が、ミラノたちに貸している本来はオレの八畳間。
 きっと、まだ寝入ってはいないおハルがいる里衣さんの部屋の前を、静か~に通過して、これまた、響かないようにドアをノック。

 ──しかし、トリノさんの反応はない。

 さらにドアへ近づき、耳を(そばだ)ててみるも、なんか、完全に寝静まっているかのような気配しかしない。
 ……けれど、ドアと枠のわずかな隙間からは、室内の灯りが洩れているような?

 う~ん、どうしよう。
 でも、このタイミングをのがしてはダメなんじゃないだろか? センパイにも感づかれずに済むなら、それに越したことはないんだし。

 自分の部屋だとは言え、オレがドアを開けては差し障りがある。
 ここはおハルにお願いして、中の様子を見てもらい、トリノさんが転寝(うたたね)ではなく、完全に寝入ってしまっているようなら諦めよう。

 そろそろと引き返し、里衣さんの部屋のドアを、爪で弾くみたいに二回ばかりノックする。
 ……こっちは、スグに布団から起き出す音が聞こえた。

 ──「何ぃ? 夜這いなら、日をあらためな」

 開いたドアから、顔を出すなりこれだもの。ったく人聞きが悪いったら。

 慌てて、おハルを廊下へ引っ張り出して、手速く静かにドアを閉じる。
 そして小声で事情を説明──。

「用があるのはトリノさん。悪いんだけれど、奥の部屋チョット覘いてくれない? いつもはまだ起きてる時間なのに、返事がないんだ。中は明るいみたいなのに」

「あれ? アンタと懇ろなのは、長女の方じゃなかった?」

 ……懇ろって、そんな生生しい関係じゃないっ。オレたちは、まだ。

「だから、そのミラノのことで、話しておくことがあったんだ。今夜はまだまだ眠れそうにないからさ」

「ま、ジェントルなのはいい心懸けだワ。ヨッシャ覘いたろ」

 ──おハルも一応ノックして、中のリアクションがないことを確かめてからドアを開く。

 やっぱり、部屋の照明は点いていた。同じLEDなのに、蛍光灯型の白い光が大きく洩れ出して、なんだか廊下の電球型を暗くカンジさせる。

「いないワ、二人とも」おハルは、勿怪顔までオレに向けてきた。

「へ?」

 部屋のドアを開け放したおハルのあとから、オレも一歩踏み入る──。

 左右の壁際に、それぞれ置かれたベッドはどちらも空。
 ほかもキレイに片づいていて、これと言って目を惹かせるのは、唯一、ドア正面奥の小さなテーブルの上だけだ。

 そのガラス製の盤面に、トリノさんがピアスを仕舞っているヴァニティケースが、口を開けたままの状態である。
 それだけでも、なんか由由しげな事態を予感させた。

 さらに近寄って、よく見てみるものの、見憶えのある高価なピアスたちはいずれも、こまかい仕切りの中で、トリノさん同様に凛呼(りんこ)と納まってくれていた。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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