279 ___________ ‐2nd part‐
文字数 1,326文字
その手の話題で、よく教室の隅に屯っては盛り上がっていたオレたちに、緑内だけは冷めた態度で加わらなかった。
きっと、わかりきったことで何がそんなにおもしろいのか? そう思っていたに違いない。
なぜなら、
それで、オレは人一倍臆病なのにもかかわらず、心霊現象的なことだけは怖くないんだ。信じないというより、必ず科学で説明がつくことなんだと、割りきれてしまえる。
説明自体は完全に他人任せでありながら、あの時、実にアホクサそうに言い捨ててくれた緑内の方が、オバケなんかよりも、絶対に、リアルに、恐ろしいし──。
「ねぇ葉植さん、答えたくないなら、答えなくてもいいんだけれど。緑内が、暗い搬入路へ入って行くことになった直接の原因も、セイレーンの歌のせいだったの?」
「今更そんなこと聞く~、セイレーンたちのことはもーいーの?」
「ん~、ただ緑内なら、ここにこうした
「……まーそーだね。彼はー、行き止まり手前まで追いつめたコを、落ち着かせるよーに懸命に話してた。そのコが、暗い搬入路へ入り込んだのは、何かが左前方から襲って来たのを、確かめるためなんだろーってね」
「……左、ですか」
「彼はきっとー、そのコが自分から逃げたのは、磁場の乱れによって、側頭葉から空間認知を司っている右脳の機能に、支障をきたしたためだと推察したんだろー」
「空間認知が支障を……」
「実際の感覚と、認識している脳の左右は反転しているから、心霊スポットでの幽霊の目撃例も、そのほとんどが左から出現してるー」
「……ええ。でも、磁場を乱していたのは建設現場とは道路をはさんだ向かい側、記念公園を囲うフェンスが、帯磁しまくっていたってことですよね? セイレーンが発射する電磁波も、偶然のイタズラも、そう都合好く続くなんて思えませんし」
葉植さんは軽~く頷く。ニヤともしてくれないのが、オレとしては物凄~く物足りないぃ。
「だから彼は、磁場を乱す原因が存在するのはシャッターの向こー、この建設現場内が怪しーと思っていたに違いない。彼は、さらにそのコに目の前で光をカンジなかったー? とか、自分とは別の意識が割り込んでこなかったー? とか、一方的に質問してたしー」
「……らしいです、奴なら。如何にもってカンジ……」
「さらには、遺伝子的にドーパミンが弱いとかセロトニンが強いとか、自己防衛反応がどーとか、小難しくまくし立てて、何とか言い包めよーとしてた。ボクに近づいて来た時と同じしつこさでねー。思い出すとボク、今でも彼は大っ嫌いー。だからもー聞かないでー」
「んー、わかりました。でも、その件では本当に最後に一つだけ聞いてもいい? 緑内のことじゃないので」
「ダメー。変に鋭敏な楯クンには、もーこの件に関して一切答えないのー。楯クンはボクの親友でしょ、大学も一緒~って仲にもなる。ボクが、楯クンをー、行きたい学科へ進ませてあげてもいーよ、だから、しつこくしないでー」
きっと、わかりきったことで何がそんなにおもしろいのか? そう思っていたに違いない。
なぜなら、
何が怖いって
、無知ってことが一番怖いだろ
。それが、オレにとっては色褪せやしない、緑内が吐いた呪いの言葉だから。それで、オレは人一倍臆病なのにもかかわらず、心霊現象的なことだけは怖くないんだ。信じないというより、必ず科学で説明がつくことなんだと、割りきれてしまえる。
説明自体は完全に他人任せでありながら、あの時、実にアホクサそうに言い捨ててくれた緑内の方が、オバケなんかよりも、絶対に、リアルに、恐ろしいし──。
「ねぇ葉植さん、答えたくないなら、答えなくてもいいんだけれど。緑内が、暗い搬入路へ入って行くことになった直接の原因も、セイレーンの歌のせいだったの?」
「今更そんなこと聞く~、セイレーンたちのことはもーいーの?」
「ん~、ただ緑内なら、ここにこうした
からくり
が出来あがっていることを、スグに感づいたんじゃないかと思って。心霊スポットが人に及ぼす影響なら、あいつもよくわかってたはずだから」「……まーそーだね。彼はー、行き止まり手前まで追いつめたコを、落ち着かせるよーに懸命に話してた。そのコが、暗い搬入路へ入り込んだのは、何かが左前方から襲って来たのを、確かめるためなんだろーってね」
「……左、ですか」
「彼はきっとー、そのコが自分から逃げたのは、磁場の乱れによって、側頭葉から空間認知を司っている右脳の機能に、支障をきたしたためだと推察したんだろー」
「空間認知が支障を……」
「実際の感覚と、認識している脳の左右は反転しているから、心霊スポットでの幽霊の目撃例も、そのほとんどが左から出現してるー」
「……ええ。でも、磁場を乱していたのは建設現場とは道路をはさんだ向かい側、記念公園を囲うフェンスが、帯磁しまくっていたってことですよね? セイレーンが発射する電磁波も、偶然のイタズラも、そう都合好く続くなんて思えませんし」
葉植さんは軽~く頷く。ニヤともしてくれないのが、オレとしては物凄~く物足りないぃ。
「だから彼は、磁場を乱す原因が存在するのはシャッターの向こー、この建設現場内が怪しーと思っていたに違いない。彼は、さらにそのコに目の前で光をカンジなかったー? とか、自分とは別の意識が割り込んでこなかったー? とか、一方的に質問してたしー」
「……らしいです、奴なら。如何にもってカンジ……」
「さらには、遺伝子的にドーパミンが弱いとかセロトニンが強いとか、自己防衛反応がどーとか、小難しくまくし立てて、何とか言い包めよーとしてた。ボクに近づいて来た時と同じしつこさでねー。思い出すとボク、今でも彼は大っ嫌いー。だからもー聞かないでー」
「んー、わかりました。でも、その件では本当に最後に一つだけ聞いてもいい? 緑内のことじゃないので」
「ダメー。変に鋭敏な楯クンには、もーこの件に関して一切答えないのー。楯クンはボクの親友でしょ、大学も一緒~って仲にもなる。ボクが、楯クンをー、行きたい学科へ進ませてあげてもいーよ、だから、しつこくしないでー」