___ _____________ ‐2nd part‐

文字数 1,358文字

 そこは、建設現場の囲いが続く狭間で、大型車のための搬入路となっているらしく、入口は広めだが、次第に幅員が減少している暗い路地。

 左右両脇の高い塀が、街灯の光などを完全に遮断してしまっていて、奥に何があるのかまるで見えない。周囲の暗さよりも一段と濃い闇が()し固めていた。
 夜空とのコントラストにより、辛うじて行き止まりになっていそうなことがわかるくらい。

 なのに、彼女には何かが見えるのか、それとも何かを見つけようというのか? 訝しそうに軽く顎を上げて、奥の暗がりを凝視し始めている。

「……まぁ、見るからに怪しいっちゃ、怪しいけど。だから何がだよ?」

「だから、私もわからないから貴様に聞いたのだ」

 真っ暗なドンづまり。もし何か潜んでいるのだとしたら、それは間違いなくそこにいることになる──。
 しかし彼女は、その深い闇へと踏み込んで行こうと、緑内に背を向ける。 

「チョッ、待ちなって。全然わからんけど、怪しいなら迂闊に行っちゃダメだろ。俺も手を貸すから、その前にもっと安全な、街灯の下にでも行ってちゃんと説明してくれよ」
 
「説明? むしろそれをできるようにするために、確かめに行くのではないか。暗闇が怖いのなら貴様はそこにいればいい、私は平気だ」
 彼女は片笑みを浮かべて暗黒へと向きなおる。

 緑内には、それが嘲笑に映ったから黙ってなどいられない。

「ったく。とびきりキレイな顔して、一体どこの時代錯誤野郎から日本語習ったんだか?」

 そう独り言に呟いた緑内は、暴勇に路地の奥へと踏み入って行く彼女に、とにかく大慌てで追っ着き、ギターを背負っていない方の肩へ手を掛けて制した。
 それで緑内は、彼女が、自分の身長よりも高かったという事実に気づき、急激に冷静さを取り戻す。

「何だ? 止めてもムダだぞ、確認しなければ私の気が済まない」

「……だから待ちなって。そんな両腕が塞がってるような状態で襲われたら、相手が誰だろうが、まんまと餌食になるだけだろが」

「餌食だと? 貴様には、あれの姿形が見えたのか──」彼女は肩にある緑内の手を掴むと、勢いそのままに体を反転させて緑内へ正対する──「確かか? どんなだったかを私に話せ」

「チョッ──」
 緑内は、逆に彼女から掴まれている腕に、結構な力を込められ声を呑む。

「さぁ、話してみろ」

「何言ってんだ、全然わかんないって。日本語ホントに通じてるのかよ? そっちこそ、ちゃんと話してくれ」

「貴様こそごまかすな。この奥に、私を喰らう者がいると言ったのは貴様だぞ、実体がなければ餌食になどできまい。それとも何か、脚がなく透けて見えたとでも言うのか貴様は?」

 緑内は、そこでようやく感づいた。
 先ほど彼女が見せた異変、それは、砂埃や羽虫の類が、目の前を絡み飛んだといったわけではない。
 何か特異な、言わば、心霊的としか表現のしようのないモノに、遭遇したためだったのではないか? ということを──。

「俺が言ったのは、単なる一般論だって。前を歩いてたキミが突然不穏な動きを見せたから、何か身の危険をカンジたことでもあったじゃないかと想像しただけだ。別に俺は、幽霊なんか見ちゃいない、ホントにいるなら是非見てみたいもんだ」

 それを聞いた彼女は、投げ出すように掴んでいた緑内の腕を放す。

「なんだ、紛らわしい」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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