108 ________________________ ‐3rd part‐

文字数 1,322文字

 パーティー開始には、間に合うよう、緑内が家を出ていることが、やはり妹の証言により確認されたけれど、普段どおりに私鉄と地下鉄は利用せず、バスを乗り継いだことが判明していた。

 ちょうど帰宅ラッシュが始まる時間帯なので、プレゼントとデジカメを気づかい、混雑を避ける思惑でのバス利用だろうけれど、途中で寄り道さえしなければ、約束の一八時半を過ぎた時刻から現場に向かったとは、考えられないとの見立てもされている。
 
 緑内は、何か事件性のある出来事に遭遇し、その瞬間を、所持していたデジカメで撮影したために殺害されたのではないか?
 と言うことなのだけれど、その推察から考えられるのは、見張り役を含めた複数犯。地域的に、外国人グループによる凶行である可能性を念頭に置いた捜査が展開されている。

 でも、それでは抵抗した形跡がないという検死結果が不自然だし、奪われた物品の総額が一〇〇万円以上になることにも引っかかる。
 一〇〇万ならば、始めから強盗目的だった可能性も捨てきれないのでは? この御時世、生活に困窮した奴が、思い余って急撃したとも充分考えられるんじゃないのかな?

 息絶えた緑内から剥ぎとって行った品品は、世界的にも充分に換金価値がある。
 私物を装って、海外へもち出されてしまえば、足がつくこともなく当面の生活費ぐらいにはなるし、そこが捜査協力の得られない国なら、そのまま逃げきれてしまう。

 とにかく、真実味ある犯人像をつくれるだけの目撃情報がないために、得体の知れなさからの恐怖も、区内を中心に広がっている。
 恐ろしいのは、緑内が奪われたくらいの物を所有する人なんて、この界隈にはザラにいるってことだ。
 殺害現場から、大きな通りを数本隔てた六本木や広尾、白金には、普段からそんな人しか歩いていないと言えるんじゃないだろか?
 キャンヴァス素材のトートショルダーバッグだけでも、一〇万以上もするって事実。
 緑内ですら、何気に母親の持物からサイズ感だけで借りていたくらいなんだから、近辺の女子学生なんかは、格好の餌食になってしまう。

 もしも、ガチに、金品目当ての強盗殺人だとすれば、とんでもない大混乱になる。
 犯人が本当に、日本へ歴史的な遺恨をもつ外国人グループだったならば、何の躊躇いも罪悪感もないんだろう。
 生活苦を脱するための強盗ならば、それは一時凌ぎにしかならず、味を占めて、再び凶行に及ぶかもしれない……。

 それゆえだろうけれど、マスコミの報道は、殺害後に、緑内から主だった金品を持ち去った理由として、

との見解に、右へ倣えのムードがある。
 緑内への個人的な怨恨の線で、捜査に当たるべきとまで(うそぶ)いていた。緑内が、無抵抗で殺されたことが根拠になっているんだけれど、どうにも歯痒い。

 いずれにせよ、地域住民は、怯えて警戒心を強めているんだから、無難な意識誘導なんかせずに、

っていう、最悪の犯人像でいいんじゃないの?

 日本も、もう、平和なんかじゃ全然ないっ。
 とにかく、高価な物品をこれ見よがしに持ち歩かない方が身のためだって、言い広めてしまうべきなんだと、オレは叫びたくって堪らない──。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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