215 春風のイタズラ、なわけないっしょ ‐1st part‐

文字数 1,338文字

「まぁそう言うこった楯。文句のつけようもない、見事なまでに判然とした不合格だからな。殺人犯を追っ駆けるなんてことは、潔く諦めろ、おまえにはムリだよ。手間と時間と、カネと命が勿体ない」

 ……やっぱり。センパイにも、チカラとか関係なくお見通しだったかぁ──。

「だぁって。てっきり今夜だと思ってましたし……センパイこそ、何でこんな時間にいるんですっ? センパイが仕事をサボってまで、罠を張ってるとは思いも寄りませんよフツウ。しかもその上、見ず知らずの人まで関わって来るなんて、いくら何でもズルすぎますって」

 このテストの性質上、ズルいもヘッタクレもないことは承知している。全ては、オレの意識の甘さゆえの結果、完敗だ──。
 それでも、グチは不随意に口を衝いて出てしまう。意味はなくたって、吐き出さないと感情の方が承知してくれない。

「その顔は、もうわかってるんだろ? 何を言ってもあとの祭りだ。やっぱり楯には意識が足りなかったな。置き鍵がなかった時点で、せめて臨戦モードで庭へ廻らなくちゃな。テストは今日だとは明言したが、今夜だなんて、一言も言ってやしないんだから」

「わ~ってますよっ……」

「全然だろ。俺がトリノを巻き込んでるのに、危険度が増す夜を選ぶ道理がないだろが? そもそもどうして俺がテストを今日にした? 昨日の今日で俺が決めるとでも思ったか? 俺にだってオフ日ぐらいあるんだよ。そういう意識からして、おまえは怠っていたわけだ」

「……まぁ、それはそうなんですけれど。でも、その失礼ですけれど、こちらの方は一体どなたです? なーんか、ガチで殺気をカンジちゃいましたよ。打撃の雨アラレと言い、まるで容赦ないんですもん」

 立ち上がってみれば、何てこたぁない。ポコちゃんはセンパイよりも遥かにチビ、仲間内で最も小さい葉植さんよりは幾分大きい、って身長でやんの。

 こんなちんまい、しかも女性に滅多打ちにされたとは……悔しいとかのレヴェルを通り越しちゃってて、モォ~今スグ布団を被って、三日三晩ほど寝込みたい気分だよなぁ。

「彼女はおハルよ。春美菫濃(しゅん・みずの)って言うの、驚いちゃうでしょ?」

「え。ガチにですか、それ?」オレとは苗字と名前が逆様だなんて……。

「水埜クンがデザインしたモノを、実際に商品化してくれた、アルティザン集団の代表が彼女なの」

「……でしたかぁ?」

「お蔭様で、出荷分は軒並み完売。追加オーダーとともに、新作への期待も高まってる状況だけど、あれを細工するのって、大変な作業になるそおなのよねぇ。その分、商品価格に反映しているから、契約上は、どちらが有利不利なんてないんだけどね」

「…………」

「彼女たちにしてみれば、つくればつくるだけ、身も削らなくちゃならなくなるから、水埜クンだけが、一人ボロ儲けしてるよおにカンジちゃうみたい。でも、これで、そんな蟠りも忘れてくれる約束だから、一挙両得、全て無事内に、お手打ちの円満解決ってことでお願いねっ」

「そう言うこと。けど、まだチョット足りない気分なんだワッ」

 ハルポコは、トリノさんから新聞紙を奪うと、またオレに連打を浴びせ始めた。

 ……だがしかし、一応事情を知ってしまった手前、躱した方がいいのやら、気が済むまでたたかせるのが得策なのやら?
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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