___ _______ ‐3rd part‐

文字数 1,592文字

 緑内のキラ星、ユールは、フラッシュライトの光束がシャッターに当って広がるぼんやりとした返照の中、緑内の頭部へ視線を落とすと、目を細めて言う。

「やれやれだな。こんな物を、普段からもち歩いているのか貴様は?」

「勿論。そのスジでは人気アイテムだし。……大体ここは建設工事現場だろ、そもそもこの都会はコンクリートジャングル、もち歩いてても結構オシャレじゃないかな? 生憎、ユールみたいな高出力パワーは、もち合わせちゃいないんでね」

 緑内を急襲した者は、そう答えつつ、小型ながらも遠くまで届くビームを売りにしているフラッシュライトのスイッチをきった。

 二人の足元で、緑内は静かに、完全に息絶える。
 彼の網膜には最期の一刹那まで、こと座のリング星雲メシエ57にも似たペリドットとオパールに耀(かがや)く、残光がちらめいていた──。

「珍しい人物に会わせると言うから来てみれば、また今晩も、パーティーと(てい)よく換言された宴会だそうではないか? この男も参加者の一人らしい。貴様も途中、それで花を買い求めに寄ったのではなかったのか?」

「あぁ買った、その隅に置いてある。手が塞がってちゃどうにもならないだろ? てっきり店の外で待っててくれると思ってたし」

「悪いな。花は、好きではないのだ……」

「それにしたって、歩くの速すぎ。こっちは急ぐ一方で息もコロさなくちゃならないし、花束なんて嵩張る荷物も抱えてもう大変。大体、何でこんな暗がりに入ったんだ? こいつから逃げようとしてたとしか見えなかったけど」

「……何かが突然、私に纏わりついて来たのだ。不快なことを思い出させる言葉まで囁いてくれた」

「なんだ、それこそ驚くまでもないことじゃないか」

「貴様、あの正体を知っているのか?」

「当然。それは、セイレーンたちの歌声だ」

「セイレーン?」

「そう。このシャッターの奥にいるんだ、四体ばかり。きっとザ・レルム・オブ・ザ・シェイズの最新作だ。こんな所に、ホント驚きさ」

「……以前、聞いてもいないのに独り口に語っていた現代アートとやらか? 人工物がいて、唄うとああなるのか?」

「そう。ある意味キミと同じく最高傑作、人を眩惑(まど)わす絶世の歌い手だ。何なら、チョット見に行ってみるかい?」

「……しかし、鍵がかかっているだろ?」 

「任せときな。実はこれまで何度も侵入してるんだ、彼女たちの、蠱惑(こわく)的で危険な怨み歌を聴くために。ここの工事、順調なのか苦情を出さないためなのか知らないけど、この時間にはもう、誰も作業していないから、心置きなく鑑賞できる」

「怪態な奴だな貴様は、毎度毎度」

「ま、色色と細工もさせてもらっているんで、中から別の場所へ出ておいた方が安全だ、キミはただでさえ目立つし。だから誘っておいて悪いけど、今日はこれで帰った方がいい。警察に目をつけられたくはないだろ?」

「どこから入れる?」

「今シャッターを開ける。ここのは静かなんだ、また幸いにも……ところで、花屋の先からここまでだけど、教えたとおりに来てるんだろうね?」

「あぁ無論だ。防犯カメラなんぞにも、できれば映りたくはないからな」

「なら問題ナシだ。この辺は裏道に入れば、あったとしても機能してない。長く暮らす高齢者ばかりでリニューアルされていないんだ。逸早く導入されたのが裏目に出てる。大使館なんかのは、自分の敷地側だけがよく撮れるアングルだし」

「……知りたくもないが、この辺りで何をしているのだ貴様は? まったく、いいから早く開けろ」

「だから、ザ・レルム・オブ・ザ・シェイズ作品の追っかけさ。あるのは海外ばかりで、ほとんど行けてないけど……おっと、チョイ待ち、こいつのドタマから得物を回収しないと。それに、とり敢えず、カネ目の物も奪っておいた方がいい」

攪乱(かくらん)か? 相変わらず姑息な奴だ。さっさと済ませてしまえ」

「はいはい……けどまぁ、ちょうどよかったよホント、ユール様様だ」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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