113 ______________________ ‐2nd part‐

文字数 1,295文字

 自室があれば心置きなく引き籠れるのに、オレの居場所は、来る人全員と顔を合わさなければいけないLDのみ。
 セイレネスの公聴会も、安全を考慮してリモートで行われるようになったのに、ミラノさんもトリノさんも、ホテルへ住み替える気はないらしくって、オレはこの先もガチでルームレス生活だ。
 プレハブにも、事件以来泊まれなくなっただけでなく、独りで行くことも居座ることも禁止されてしまった。
 まぁ、昼間でも行く気にさえならないけれど。

 だからと言っては何だけれど、この二日ばかり、家でのオレは操り人形みたいに課題レポートを書くしかない無様さだ。
 事情聴取が済んだ事件翌日の午後から、容赦ない熱血・ド・トリオの必勝セミナーを受けつつ、書いて書いて書きまくっていると言えるほどは書けてないけれど、書くだけの時間を過ごしている。ミラノさんのラップトップを借りっ放しで……。
 
 勉強がこんなに楽だとは知らなかった。
 教わっている内容を理解する。理解できない箇所をわかるまで質問する。理解してしまえば記憶にも自然と蓄積される。

 レポートに書くべき事柄が、書くべき順番にインプットされていくから、実にシステマティックに、アルゴリズミックに、記憶を文字へと変換して並べるだけでいい。

 オレには、同じ理路整然でも、在栖川のクールで上品すぎる教師たちより、厚かましいくらいに、手とり足とりやってくれる方が向いているみたい。
 頭に知識が満ちていれば、なぜか自然とアウトプットしたくもなる。

 今は話したくない、動けない、だからとにかく書く。
 (つたな)いところは、ヴィーのためのたたき台みたいに、ド・トリオからこれでもかとダメ出しされて、書きなおしてはまたダメ出され、それを延延と繰り返していれば時間が過ぎてくれる。

 明るくふるまって見せるのは、休憩や食事中だけで済む。

 ド・トリオが帰ったあとも、寝落ち寸前まで書き続け、その日もらった必勝プリントをPDFファイルにして、一緒にブログへあげる間に朦朧となって、もう緑内のことも、余計なことも考えることなく眠りに沈溺してしまえる。
 夢の中でも、レポートを書き続けてはダメ出しを喰らう。

 だから、緑内の葬儀がプログラムどおりに終わってしまった今、オレは一とき本当の自分を取り戻し、そのどうしようもなさ、やり場のなさに途方に暮れて、思わずくっちゃべってしまっているような気がする。

 厳密には緑内のためではないんだ。
 だって、まだオレは、ここまで来ているにもかかわらず、みんなへオレのありったけを吐き出しておきながらも、緑内がもうこの世にいないなんてことを、全然受け容れられてはいないから──。

 たぶん、オレは、その辺の感情が壊れてるんだ。
 母さんの死で、親父の父親らしさが壊滅しちまったように。オレも、人の死から生じる悲しみをカンジる部位が壊爛(かいらん)しているんだろう。

 緑内には、本当に申しわけないと思う。でも、死さえ認識できなければ、会えないだけなのと一緒だ。
 その悲しさ加減は、生き別れでも全く同じ。離れた距離が、あの世でも、隣町でも、変わりはしない……オレの中では実感としてマジガチに。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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