115 エレガンスファンシーコーデの片鱗 ‐1st part‐

文字数 1,722文字

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 景色は明るい方がいいという理由から、都バスを使うことにしたオレは、目黒駅で山手線を使う同級生たちと別れ、同じ路線を利用する三人と、だらりだらりロータリー内の乗り場へと向かう。

 オレの前を行く三人の会話を、ぼんや~り聞いていると、だしぬけにオレの腕へ誰かが飛びついて来たっ──ミラノさんだったぁ。
 一拍遅れで、もう片方の腕へもヴィーが力任せに組みついて、肘の関節がゴキッと鳴る。

 そして、問答無用の回れ右! オレは拉致状態のまま、同級生たちに別れを告げなければならなかった。

 ミラノさんは、今日も、全身セイレネスだとわかるからこそ許せるファンシーさ。 

 ヴィーの、サイケでパンクなファッションに至っては、もはや、知り合いだと思われるだけでも恥かしい。
 目の周りギラギラな化粧もコワすぎるけれど、真っ赤なエナメルのミニスカに、ピンクと紫のゼブラ柄ストッキングなんかを合わせるなんてのは、迷惑防止条例違反以外の何モノでもないと思うっ。

 同級生たちにせめて一言、弁解というか、軽くでも紹介というか、とんでもない誤解を招く醜聞だけにはならないように、この二人との関係を釈明する時間が欲しかったぁ──。

 が、本来のオレならいざ知らず、早くも今日一日分の気力を使い果たしているオレには、ヴィーの女鬼(めっき)パワーを振り払おうだなんて気も起こらない。

 来た道をズンズン引き戻され、オレよりも、ミラノさんがついて来れずに泡を喰っているあり様だ。

「何だか知らんけれど、逃げやしないからもう腕を放せよ。でなけりゃ、もっとゆっくり歩けって、ミラノさんがコケちまうだろが」

「ダメッ。逃げてるのはアタシたちなんだもん、もっと安全なトコに紛れ込まない内は、絶対油断できないのっ。だよね~っミラン?」

「だよね~っ。今日はね、長病みの生き血抜きなんだよ」

 何を言っているのかわらんけれどミラノさん、ここ二日ばかり、オレがかまってあげられなかったせいで、すっかりヴィーに手懐けられちまったみたいだ。

「それを言うなら、中休みの息ぬきでしょミラン。もう限界ブチギレなのアタシはっ、楯がマジメになるからあの三人、調子ブッコいちゃって。今日なんか、一五時どころかお昼前に来れるだなんてメッセしてくるのよっ。オシャレもそこそこに脱走だわよ」

「そうそう、脱腸なんだよ」

「あいつら、短期間にレポート書きあげさせて、早く秘書の仕事に戻ろうって魂胆なんだわ。一日八時間以上も勉強なんかしてらんないわっ。世の中春休みだってのに、春が過ぎたらアタシは少女とお別れなんだからっ」

「アハハハ~、ヴィー焦ってるんだよ。来月になったらまた水埜楯と二つ離れちゃうからぁ、それもオトナになっちゃうしぃ」

「うるさいのミラン! 余計な口利いてると、その辺に置き去りにしちゃうよっ。もう、内緒で連れ出してもあげないんだから」

「じゃあ私も、ヴィーの言いわけになってあげないんだよ。あとで、PSトリオやV&Mのスタッフにつべこべと叱られちゃえっ」

 ちょうどエスカレーターに乗り込んだから、二人は、上と下でオレ越しに睨み合いを始めてしまった──。

 ミラノさんも意外と強気。
 まぁ彼女も、事件以来ボディーガードこそつかずに済んだけれど、出かける際には必ずV&Mに連絡して、アテンドに社員を呼ぶという面倒な取り決めが追加されたもんだから。
 有勅水さん以外だと、融通が利かないみたいなので、とうとうその取り決めを破約してしまったようだ。

 そしてヴィーも、プロダクションに所属した甲斐あって、仕事のオファーが複数きている。
 レポートのために待ってもらっているところを、前倒しになれば、ロケに出発する日程も早まる。
 行き先は、地元栃木のサファリパークやら温泉地のほか三件。
 結構売れてきたように言ってはいるが、いずれも親のコネのニオイがプンプンの、局地的で一過性な観光用ポスターやパンフレットだ。

 学業優先という契約なので、休み中に仕事が立て込むのは当然だってのに、初夏の格好をしての撮影ときてるから、ギリギリまで遅らせてなるべく気温を上げたいってだけ。
 予定どおりならば、ヴィーは毎日、熱血・ド・トリオが来るまでの半日は遊べるわけだし。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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