150 ____________________ ‐3rd part‐

文字数 1,565文字

 さらには、愛犬の中にはなんと、主人が勤め先で

と意識した途端、そそくさと、玄関のお出迎えポジションへ移動するモノまでいることが観察されていた。

 実験的に帰宅時間をズラしたり、家路につく場所を会社以外にしても、そのイヌは間違えることなく反応して見せる。
  主人が到着するまでの間、呼んでかまったり、エサをあげたりしても、それが済んだあとは必ずそのポジションに戻って待つ。
 仕事の途中で自宅の前を通り過ぎたのでは、決して玄関まで出迎えには行かない。
 そんな驚くべき観察記録が実際にあった。
 
 人間がTV電波よりも強い電磁波を発信するために、数十キロ離れた会社からでもイヌは主人の状況を受信できて、仕事を終えて家に帰るという大きくも微妙な動作変化から、その電磁波が示す意味までを読み取っている。
 ……なんだか、かなりビミョ~なものの、それはもう主人の人間としての意識、思考や意志が一緒になって、発信されているのも等しいというわけだ。

 大体が、人間のみならず、動物の意識は脳内の微弱な電気活動。
 その活動の様子は、外設装置である脳磁計や光トポグラフィーで事こまかに捉えられるように、頭蓋の外へと電磁気となって洩れ出てしまっている。
 現在それは、電磁図やトポグラフなどにより、単純な表現方式で処理されているだけであって、そこには感情や思考といったモノまでが、垂れ流しになっているとも言い立てられそう。

 となれば、必然的に、本来人間の感覚は五感だけでは足りなくなってしまう。
 誰かとコミュニケーションを図るたび、主に相手の、表情や口調‐声調を視覚と聴覚で把握する以外に、相手の頭部から洩れ出てくる電磁刺激を知覚する第六の感覚と、その受容器官が存在しなくては、逆におかしいことになる。

 仏教では六根と言って、人間の知覚作用の素となるモノには目、耳、鼻、舌、身、意、の六つがあることを、紀元前から説いていた。
 まだ、脳の働きに関する知識がなかった時代の解釈とは言え、五感と同列に並べられるくらい、他人の意思を受容していたことが追慮できる。
 それに、地磁気を感知するアンテナ器官ならば、サケやミツバチなどからだけでなく、哺乳類のクジラからも発見されているらしいから。

 有史以前の大昔に、人間とともに生きることで繁栄する道を選んだイヌの体には、人間に対するより高度なアンテナとなる特殊な器官が存在して、そこでキャッチした電磁波を、知覚信号に変換しているのではないか?
 人間の場合には、特殊なアンテナ器官として副腎皮質が挙げられているようだけれど、やはり、発達した脳全体を、微弱電波を送受信する精巧なセンサーであると、認識しておくべきみたいだ。

 筌松さんも、「脳は刺激毎に反応する部分が決まっているから、一つの外的刺激に対してあらゆる箇所が反応させられたなら、人間は何ができるようになるかわかんないよ」と、共感覚者を例に挙げてまで熱弁を揮っていたし……。

 根上たちから話を聞いたオレにはもう、人から洩れ出している電磁気を、直接刺激として受容し知覚信号に変えるメカニズムが脳に眠っているんだとしても、何ら、不思議ではなくなってしまった。

 ミラノさんは、きっと、脳のスイッチングが、しっかりと自己制御できていないんだ。
 脳ミソが、刺激の種類に区別なく、不随意に機能してしまっているような気がする。

 脳のあらゆる部位が活発に働いて知覚された情報なので、音声とも映像とも截然(せつぜん)とは区別できない。ミラノさんがうち明けたような

とか

と、

ことになるんじゃないのかな?

 そうだからミラノさん、通常の脳の働きまでが部分的でも頻繁に混乱して、フツウの人がフツウにできることが、まともにできなかったりするのかもしれない……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み