172 ________________ ‐3rd part‐

文字数 1,436文字

「根上と勝庫織莉奈、それぞれの私室を中心に、家宅捜索が行われたところ、勝庫織莉奈のクローゼットから、緑内が奪われたバッグも発見されています」

「……もう決まりじゃないの、そこまでなら」

 筌松の呟き気味の返答に、上婾さんばかりか剣橋もが頷く。
 なので、オレも遅ればせながら、二人以上の大きさで頷き返しておくしかない。

「やはり、物とりの犯行を装う目的で、諸諸の所持品を奪ったんだろうと思われてはいるんですが、緑内の所持品は、勝庫織莉奈自身にも、使う気にさせるだけの魅力があったんだとも推察されています」

「まぁ、どれもチョイと索れば、価格がわかる代物ばっかだしねぇ……」

 筌松が口マメでホント助かるぅ。頷きさえ怠らなければ、とりあえずオレのつなぎ役は熟せそうだ。

「しかしまだ、そのバッグに入っていたはずの写真やスマホ、凶器に使われたと思われるバールは、根上の方からも出てきていません。事件についての真相も、根上と勝庫織莉奈のスマホとPCのテキストファイルにあるとして、徹底的に調べられたみたいですね」

 そう。でも根上の自作PC三台には、全てセキュリティーシステムが機能していたために、解除前に設定時間がきて、手懸がりになりそうなファイルはSSDやHDDごと、無意味な文字の羅列で潰されてしまった。
 そんな根上が、クラウドになんて、ヤバげなモノをあげておく道理がないし。
 二人のスマホからも当然ながら、事件に関係しそうな情報は、何一つ出てはこなかった。
 
 そもそも勝庫織莉奈は、親から離れる時にだけ、スマホをもち歩くことが許されていたために、夕食後に家をこっそりぬけ出した事件当夜に所持はしていなかったし、DGメンバーの間でも、お互いに個人的なやり取りをしないというのが不文律とされていた。

 それに、根上の部屋から見顕(みあらわ)すことができたのは、(おびただ)しい量のミステリーとホラーに関する書籍やディスク類、エログロチックなフィギュアのコレクションのみときている。
 その、目に余るほどの猟奇趣味には、根上の家族が一番大きな衝撃を受けてしまったみたいで、忌み嫌いたくなる気持はわかるけれど、取材の目が光っているのもかまわずに、残らず家庭ゴミとして廃棄しちゃったもんだから……。

 また根上の家族は、そうしたことから捏ちあげられた、オドロオドロしいだけの記事や雑報へ、

を表明することもなく、伏し沈んでしまったきりで、今に至ってしまっている。
 身内だけの葬式さえ、行っていないあり様だ。

 勝庫織莉奈の方からも、新たに罪証となるようなモノは出てきていない。
 彼女は両親が小学校の教員をしているために、スマホの使用やネットへのアクセスは、結構厳しく制限されていたことが大きな理由だろう。

 それでも、凶悪犯罪やミステリー関連のサイトに顔を出していたわけだから、普段から、バレるような痕跡は、絶対に残さないように注意していたに決まってる。

 こづかいもキッチリと管理されていたせいで、勝庫織莉奈には、根上のようなコレクションはなかった。小説も映画も、図書館とレンタルで味得していたようだ。
 それが辛うじて幸いしたのか、全ての非は、根上にあるという短見でしか、事件は語られていない。

 しかし。どうやら、二人の家庭それぞれの行き届いた躾が、根上と勝庫織莉奈を几帳面でソツのない性格に育てあげてくれちゃったから、事件をさらなる混迷へと追い込んでしまうという、皮肉な結果となっているとも言えそうだよな……。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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