229 _____________ ‐3rd part‐

文字数 1,096文字

 葉植さんが絵ハガキ代わりにした写真の風景、それは、巨石遺跡へ向かう起点となるイギリスのソールズベリーで、ナショナルトラストにより管理されている、一八世紀に造られたという貴族の邸宅の一つだった。

 アン王朝様式建築の傑作である、ウイルトシャーの名門モンペッソン家の邸宅が、有名らしいけれど、その別宅になる現在は建物自体は残っていない庭園に、ムッシューのシベルネティゼは、こちら同様に野外展示されていた。

 その、無骨な巨像たちには『ジィオン』とタイトルが付けられている。
 つまりは、ギリシア‐ローマ神話のギガントマキア、巨人族とオリュムポス山の神神との戦いをテーマとした作品というわけだ。

 ──最初の神‐大地ガイアは、引っきりなしに子供を産ませようとする夫、天ウラノスにガマンがならなくなり、末息子のクロノスにウラノスの睾丸を切断させた。
 それで天と地が別れ、クロノスの時代が始まるけれど、その際にウラノスから滴り落ちた血でガイアが受胎し、生まれたのが巨人族のギガンテス。『ジィオン』も、ギガンテスのフランス語訳。
 ギガンテスは複数形で、巨人の一人一人はギガスと呼ばれる。
 無敵のパワーを有して、髪と髭も伸ばし放題、足の代わりに、二本の蛇の尾が伸びているという姿。
 ガイアは最初に産んだ子供たちティタン神族が、クロノスの末息子ゼウスにより、冥界の一角タルタロスに幽閉された報復として、ギガンテスを差し向ける。
 ギガンテスは、まずウラノスを攻撃し、さらにガイアの命令で、クロノスの子供たちオリュムポスの神神にも戦いを挑む。
 最強のギガンテスも、人間とともに戦えば殺せることを知っていたゼウスは、人間の女性との間に英雄ヘラクレスをもうけ、娘アテナと先陣をきらせる。

 要は、天と地を分ける夫婦喧嘩が高じての、骨肉相食(こつにくあいは)む、壮絶な代理戦争が繰り広げられるっていう、神話じゃなかったらもう、凄まじくバカバカしいお話……。

「写真の中で広がっている蒼蒼とした芝生は、ギガンテス誕生の地であり力の源で、プレグラと呼ばれる、燃える野が見立ててあるんだワ。ガイアは、ギガンテスのために、不死の薬草を生やしたけど、ゼウスは全てを引き抜いて、まず彼らの弱体化を図った」

「そうなんだ? フ~ン……」

「でも、この写真の庭園には、最高神ゼウスの手さえ及ばない守られた大地、地球上で、最も清浄な土地であるとの、メタファー(暗喩)になっているわけだワ」
 
「へ~、なるほどねぇ……」

 ここまでの滔滔たる語りっぷりから、それこそオレにはもう、おハルが、実はタダ者じゃなかったって暗喩を、ヒッシヒシ……痛感させられちまっているんだけれど。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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