197 万事9999端が整う ‐1st part‐

文字数 1,702文字

 意気込みついでに、その勢いでセンパイへも献言してみる。

「センパイ、オレを、リアルファイトでテストしてもらえませんか? それこそ二週間経ったんだし、一度区切りをつける意味でも」
 
 一応オレとしては意を決してのことなのに、そのセンパイの背後、LDから襖を開けて和室へと入って来る人影によって、センパイが一思案しようという表情を見せた段階で、全てが遮られてしまった。

 やって来たのはミラノさん。そのまま窓辺まで寄ると、遠慮なくガラス戸を開ける。

「唏が来た来たポール。出張のお土産はショーチューだって。早く行かないと、ほったらかしの友達と一緒に、全部飲まれちゃうんだよ」
 
「そいつはいいね、行く行く。じゃあ楯、おまえはこれまでを踏まえて、シャドードッヂ三ラウンドなっ。今の件は、飲みながら考えといてやる」

 オレにそう言いつけるとセンパイは、新聞紙の棒をオレの顔へと投げつけてきた。

 思わずそれを、キャッチしてしまったオレに、センパイは、目も当てられないと言ったカンジの呆れ顔。

「今日のそれな、里衣の柳刃包丁にサイズを合わせて丸めたんだぜ。それを鷲掴みしちまっちゃ、おまえの右手はもう使えんな。シャドーはそれを意識してやるようにっ」

 そう言い残しセンパイは、サンダルを足から(こそ)げ落とすように脱いで、家の中へ急き込んで行ってしまった──。

 またも生半だった。投げつけられた物も、躱しておくのが正解なのに。

 シャドードッヂを始める前に、新聞紙の柳刃包丁とティッシュボックスを、ミラノさんが佇んでいる足元、縁側へと置きに粛粛と向かうものの……。
 外気は結構肌寒いのに、まだ戸を閉めずにいるってことは、ミラノさんもやっぱりオレに何か一言あるんだろうなぁ。

「水埜楯っ」

 ほらきたっ。「はい。すみません、何でしょう?」

「ジャジャ~ン、ウチで開発したスパイダーシルク製のニットだよ。唏の会社に届いたのを、一着もって来てもらったの。どうせ日本でも品質チェックに合格するから、これがあれば一安心なんだよ」

 ミラノさんは、なんとも妙な乳白色でも、光の当たり具合で黄色っぽくも見える、薄手の丸首セーターを広げて見せた。
 どうやら、オレにお小言をしたかったわけではないみたい……。

「スパイダーシルクって、遺伝子操作したカイコに、クモの糸を吐かせてつくるってヤツ?」

「それそれぇ。引っ張った時の強さはナイロンの次だけど、総合力ではナイロンより優れてるんだよ。その原糸を、さらにウチの紡織技術で加工して、強度は、バリスティックナイロン製の防弾ヴェスト以上あるのに、軽い着心地で、通気性もバッツグ~ンなニットに仕上げてあるんだよ」

「へぇ~……」

「これの内側に、クッションの役目をする厚めのニットと合わせて着てれば、ステルス攻撃ヘリ搭載の、MⅩ301ガトリングガンで撃たれたってヘッチャラこん、包丁なんか、この一枚でも充分充分」

「ステルスゥ? 充分ってそんな……なんか、物凄くない?」

「物凄いに決まってるじゃん。まだどこの国の軍隊にも、どんな特務機関にも卸していない、最先端技術の結晶のニットだもん」

「……セイレネスの運営会社も、そんなのまでやってたんだ?」

「セイレネスなら、ゴルフ向けに衝撃緩和ジェルシートが入った帽子がいろいろ、カーボン繊維を使った乗馬用のグアーンティも、日本にも入ってたはずはず」

 ミラノさんは、ツバをもって野球帽を被ったり、手袋をハメるジェスチャーをしながら言ってくる。

「……キャップや乗馬グローブってこと?」

「全部着ちゃえば、もうチョットした鎧だよ。バールで脳天をたたかれたって、一発くらいなら全然ヘッチャラこんだし、投げてきた包丁を今みたいに掴んじゃっても、大丈夫になるなるぅ」

「鎧って……」
 意を決した途端、とんでもないことになってやしないかぁ?

「このニット、私が、水埜楯に似合うようにしてあげるからっ。あとはポールが言ってたように、水埜楯の意識次第なのなの。私とトリノが、もうスグ帰っちゃうとか考えて、焦ったらダメダメなんだよ」

 ……まいるよなぁ。オレの全てが、ローマならぬミラノさんに通じちゃってるもんだから。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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