213 ________ ‐2nd part‐

文字数 1,642文字

 それも拾って、よく見てみる……。

 ストーンヘンジの巨石柱かと思ったけれど、違った。どこかの公園か、それとも、大金持が所有する庭園の風景なのか?

 広い一面の芝生の上に、黒い岩か、ゴムの塊みたいなモノでできた、歪な直方体を組み上げて、大きな人の形がつくられている。
 たぶん、広大な庭を引き立てるオブジェ、それも数えると六体。

 ……その巨人たちの、やはり黒くて角張った頭部には顔がなく、当然、表情なんかもないんだけれど、なぜかチラ見の応酬で、それぞれが牽制し合っているような印象。
 互いの等距離にあるであろう、その中心点を巡って、今にもその武張った巨躯でもって、激烈なブチカマし合戦を繰り広げようとしている、そんな緊張感が伝わってきちまうから、なんだか妙なカンジだ。

 でも、なんか好きになりそう。一体誰の作品なのか? 今度葉植さんに会ったら、聞いておかなくちゃ。
 
 そして、その写真を引っ繰り返すと、見憶えのある丸っこいアルファベットが、コロコロと並んでいた。
 でも、これがミラノに宛てられていること以外は全く読めないので、英語でもフランス語でもない。
 ってことは、これ、葉植さんがもう、ある程度、イタリア語をマスターしちまった証拠になるのか?
 む~、オレも会話集を買って、ちょこちょこガンバってはいるものの、まだまださっぱりだってのに。

 新聞紙に包まれた中身も案の定、葉植さんの新作キャンドルだった。
 さすが、ミラノに贈っただけあって、セイレネスアッズッロを思わせる青が、中心から巧妙に透明に近い水色へと変化させてある。

 どうやってこんな風に着色したのかは、皆目見当がつかない。きっと今回の最大のセールスポイントはそこなんだ、形は極めてシンプルな横潰れの球体だから。

 ……作品テーマは、たぶん宇宙に関係しているんじゃないかな?
 球体の中には、微細にカッティングされた紙片が、星みたいに散り交わされていて、その黒っぽい紙片自体にも、星星らしき白い点が描かれているという手の込みよう。

 いや、どこかの銀河でも撮った写真が使われているみたいだ。紙片の裏側は、白くて艶もないから。

 ──キャンドルを包みなおしながら、庭へと移動しては来てみたものの、一階は果然、ガラス戸の全てがきっちりとロックしてあった。

 和室側のガラス戸の一つに張りついて、レースのカーテン越しから室内を確認。
 押し入れの鴨居に、ハンガーで引っ掛けてある、もう一本のセイレネスジーンズを思わず凝視してしまう──。

 クソ~。右前のポケットから、キーホルダーの電子鈴部分が、顔を出していやがる……。

 いつまでも、手の届かない鍵束を悔やんで、入れない室内を、恨めしく見まわしていてもしょうがない。
 こうなりゃ一丁、ヴェランダを攀じ登ってやりますかぁ。

 荷物を縁側に置いて、いざ久方ぶりの垂直ジャンプだ。四角いけれど、ツルツルで掴み難そうな支柱を登攀(とうはん)するよりは確実。
 バスケットゴールのリングまでの高さはないから、庭が許す限りの助走をとれば、片手の先くらい欄干部分に届いてくれるだろう。
 あとは、懸垂の要領で体を上げるだけ、今のオレなら楽勝だし。

 それではやってみましょうかぁ。助走のために、庭の奥まで目一杯行って……んん? 

「おまえかおまえかっ、水埜楯とか言う、紛らわしいクソガキはぁ!」

 ──あわわわっ???
 痛っ……チョット痛いって! 何この女? 何なんだ突然、一体全体? 

「コノヤロコノヤロッ! 楽してピンはねし腐りやがって。おまえのせいで何人倒れかけたと思ってるっ、こちとら命削ってやってんのに、一人で一三パァ踏んだくってるなんて、どこまでエゲツねぇ根性してやがんだっ。死ね死ね死に腐りやがれぇっ、この業突張りが!」

「チョ、待って、痛いっ痛いです、何かの間違いですって──」

「問答無用じゃあ! こいつはワッスの分だっ、こいつはラタ坊の分っ、こいつとこいつは團さんと谷木の分だ」

 って、誰それっ? そもそもこの女は何なんだぁ!
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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