262 ___________________ ‐3rd part‐

文字数 1,321文字

「それも、それ以上を語らないのも、真実ボクなりの楯クンへの友情の発露なんだ。少なくともボクが約束の遵守を続ける限り、今後ボクらが原因で、楯クンがショックを受けるような事件は起こさない」

「……ホント? 絶対に?」

「絶対と断言しては、ウソになるかもだから、そうなるようにボクが全力で努め続ける。だから、この件については、以上をもって楯クンには納得していただくよ。これ以後、蒸し返しは一切ナシだ、いいよねっ」

「…………」
 オレは小刻みに二回頷いて、それを返事とした。

 別に不服はないんだけれど、唇を尖らせていたら、なぜか大きく首が動かせなかったから。

 まぁ確かにこれでいいんだけれど、土台これでいいと踏んぎっていいような話ではなく、根本的に悖狂(はいきょう)している上での、和談成立なもんだから、唇も無意識の内に尖るというもの。

 しかし、そんなオレのリアクションは、葉植さんの気には召さなかったらしい。
「わかったね楯クンッ」と、語気強くダメ押しをされちまう始末。

「……わかってる、得心させていただきましたっ……」

「よかったー。も~ボク疲れちゃった。今宵はホントに、このくらいにしとこーよ楯ク~ン。ボクは逃げずに済むわけだしー、スマホももつことにするからさー」

「……うん、そうだね。はぁ~、オレもなんか疲れたぁ。なのにこの現実感のなさは何なんだろ? いや、得心は勿論、納得の上でしてるんだけれど……」

 どうにも、まるで信じきれていないんだろう。
 葉植さん自体や、話してくれた内容がではなく、聞いた全てが始めっから終わりまで。オレの受容限度をブッ超えてるもんだから。

 わずかに受容した分さえも、頭ん中でモタレてモタレて、もう消化する気も起こらずに、そっくりそのまま、ただあるってカンジ。

「それでいーよ。悪い夢でも見たと思えばいー。それじゃーみなさん、こんな遅くに御足労様でしたー。下まで、階段から逸れたり落っこちないで帰ってねー」

 葉植さんはデスクからぴょんと下りると、それでも早くここから立ち去れってことなんだろう、胸の前でゆっくり手を振りだした。
でも、葉植さんはやっぱり、そのしゃべり方でこそ葉植さんだ。

「……じゃぁ帰ろうミラノ、トリノさん」

「うんうん。でも今ここを出たら、階段の途中でセイレーンたちが唄いだしちゃうんだよ。そしたら、トリノのピアスが勝手に発射したりして、面倒が増えるから、もう暫く待った方がいいのいいの」

「え、唄うって? 唄うと何でそんなことになるの? って言うか、あれってもう作動してるんだ?」

「それも、詳しくは葉植木春菊に聞くといいんだよ。葉植木春菊も、ホントはまだ、楯に確かめたいことがあるんだから」

 そう言うと、ミラノは膝の上で抱えていたカップを口へと運ぶ。その、悠長とさえカンジられる動作が、俄然オレをまた意味もなく焦らせる……。

「どう言うこと葉植さん? まだ何かあるわけ?」

 葉植さんは振る手の数を増やし、何やら両手で、パラパラか炭坑節でも踊るみたいに、意味不明な仕種を始めていた。

 バイバイが敢えなく却下されたのを、そうしてごまかしているのかもしれないけれど、また顔色一つ変わらない無表情ときているので、笑うに笑ってあげられない。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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