217 ________________ ‐3rd part‐
文字数 1,379文字
「仕事に不可欠なその繊細な指を、自ら傷つけるよおな真似は、これ以上しないでっ。水埜クンも、次作も組んでやるんだから、今ので全部御破算。もお、後腐れもナシにしてちょうだいねっ」
有勅水さんは、オレにまで言いつけ終えると、ヴェランダには、早くも姿がないセンパイに面喰らって、それをごまかすカンジで家の中へ入って行ってしまった──。
ったくぅ。御破算とか後腐れとか、やられっ放しのオレに、一体どこまでの言いぐさだか?
「キミも、大丈夫? 爪が割れて、血が出ているみたいだけど」
トリノさんが、ハルポコの服に付いた汚れを払いながら、オレの方も気づかってくれる。
見れば、ホント、右手の親指の爪が二つに割れて、内側に喰い込んでいた。見るからに痛そう、そう思った途端に痛みを覚える。
……選りに選って利き手の親指だなんて、何をするにも痛そうだし、不便そうだよなぁ。ホント、果てしなくツイてない。
「何、親指の爪って、利き手の方?」
ハルポコは、ズレた流星眼鏡のかけ具合をなおしつつ、自分でも、体の土埃をはたきながら問いかけてきた。
「うん、まぁ大丈夫。オレは、ホント臑齧りのクソガキなもんで、繊細な仕事なんかもしてないからね」
「……悪かったワ。でも、これでなんかすっきりしたわよ。野母崎 から、出て来た甲斐はあったってもんだワ」
「野母崎? それって長崎の? 高校バスケの強豪、野母崎工芸技術短大附属がある所から来てたわけ?」
「へぇ~、こんな東京タワーがはっきり見えるようなトコに住んでるクセして、よく知ってたわね? それ私の母校よ。女子は男子ほど強くはなかったけど、私もバスケ部員だったワ」
「でも、女子だって全国大会の常連だよね? やっぱポジションはポイントガード?」
「え? うん、まぁそうだけど。この背丈なもんだから、ほとんどベンチスターターだったけどね……もしかして、アンタのそのAJは、ファッションじゃなくバスケ部だったってこと? その体格だと、やっぱりガード? サブのサブぐらいで」
「まぁ、全国レヴェルで見られたらそうかもね、一応スモールフォワード。サブのサブもスタメンも何も、男子部員は中高合わせて七名しかいなかったし、練習も女子と合同だったしさ。結局、公式戦になんか、エントリーすらできないあり様だったんで」
「……ん~、東京のド真ん中って、そこまで少子化が進んでたわけ?」
「それより、シュンさんの……どうも変だな? おハルさんの、全国大会歴戦のこぼれ話でも聞かせてよ」
「……いいけどさ、まぁ……」
「これも逆縁奇縁、お近づきの印しに特上のさらに上、本来なら、上得意の客が来店した時にしか出さないって言う、本日限りの高級ネタが使われるスペシャル寿司を、昼食にお出し致しますから。それでも抓みながらさ」
「……ふーん。アンタって、落ち着いて話してみると、結構よさげな男なんだ? いろんな意味で」
「どんな意味かは知りませんけれど、あんなに罵られるほど悪い人間じゃないと思いますよ。それに言ったじゃないですか、話せばわかるって」
オレは出前を頼むため、ポケットからスマホを抜き出す。
よかったぁ、壊れたトコはどこもないみたい。
今回は、完璧にセンパイ命令、なので、宝婁の名前を出して、スベシャルも出前でオーダーできる。
店側の出方次第では、宝婁総合病院のツケにできちゃうかも~。
有勅水さんは、オレにまで言いつけ終えると、ヴェランダには、早くも姿がないセンパイに面喰らって、それをごまかすカンジで家の中へ入って行ってしまった──。
ったくぅ。御破算とか後腐れとか、やられっ放しのオレに、一体どこまでの言いぐさだか?
「キミも、大丈夫? 爪が割れて、血が出ているみたいだけど」
トリノさんが、ハルポコの服に付いた汚れを払いながら、オレの方も気づかってくれる。
見れば、ホント、右手の親指の爪が二つに割れて、内側に喰い込んでいた。見るからに痛そう、そう思った途端に痛みを覚える。
……選りに選って利き手の親指だなんて、何をするにも痛そうだし、不便そうだよなぁ。ホント、果てしなくツイてない。
「何、親指の爪って、利き手の方?」
ハルポコは、ズレた流星眼鏡のかけ具合をなおしつつ、自分でも、体の土埃をはたきながら問いかけてきた。
「うん、まぁ大丈夫。オレは、ホント臑齧りのクソガキなもんで、繊細な仕事なんかもしてないからね」
「……悪かったワ。でも、これでなんかすっきりしたわよ。
「野母崎? それって長崎の? 高校バスケの強豪、野母崎工芸技術短大附属がある所から来てたわけ?」
「へぇ~、こんな東京タワーがはっきり見えるようなトコに住んでるクセして、よく知ってたわね? それ私の母校よ。女子は男子ほど強くはなかったけど、私もバスケ部員だったワ」
「でも、女子だって全国大会の常連だよね? やっぱポジションはポイントガード?」
「え? うん、まぁそうだけど。この背丈なもんだから、ほとんどベンチスターターだったけどね……もしかして、アンタのそのAJは、ファッションじゃなくバスケ部だったってこと? その体格だと、やっぱりガード? サブのサブぐらいで」
「まぁ、全国レヴェルで見られたらそうかもね、一応スモールフォワード。サブのサブもスタメンも何も、男子部員は中高合わせて七名しかいなかったし、練習も女子と合同だったしさ。結局、公式戦になんか、エントリーすらできないあり様だったんで」
「……ん~、東京のド真ん中って、そこまで少子化が進んでたわけ?」
「それより、シュンさんの……どうも変だな? おハルさんの、全国大会歴戦のこぼれ話でも聞かせてよ」
「……いいけどさ、まぁ……」
「これも逆縁奇縁、お近づきの印しに特上のさらに上、本来なら、上得意の客が来店した時にしか出さないって言う、本日限りの高級ネタが使われるスペシャル寿司を、昼食にお出し致しますから。それでも抓みながらさ」
「……ふーん。アンタって、落ち着いて話してみると、結構よさげな男なんだ? いろんな意味で」
「どんな意味かは知りませんけれど、あんなに罵られるほど悪い人間じゃないと思いますよ。それに言ったじゃないですか、話せばわかるって」
オレは出前を頼むため、ポケットからスマホを抜き出す。
よかったぁ、壊れたトコはどこもないみたい。
今回は、完璧にセンパイ命令、なので、宝婁の名前を出して、スベシャルも出前でオーダーできる。
店側の出方次第では、宝婁総合病院のツケにできちゃうかも~。