223 ______________________ ‐3rd part‐

文字数 1,189文字

 「とにかく手が込んでることは確か。さすが、僊河青蓮の長女ってだけのことはあるワ。セイレネスで売るとしたら、二〇万は超えそうだわね」

「まぁ完全な一点物なんだし。こう言うことにも詳しいんだね。おハルも、さすが工芸技術短大出身ってトコ?」

「まぁね~。けど、ホントいいわよねぇ楯は。こんな何でもスグに手に入る都会で、色んな才能に囲まれて暮らせて」

「う~ん、そうなのかなぁ? なら、おハルも、仲間ごとこっちへ出て来ればいいじゃん。もう立派なオトナなんだし」

「嫌味なら、頭ヒネってもっとマシなこと言いな。こう見えても私は、持病にゼンソクがあるんだワ。空気と風が汚れた場所になんか、精精三日が限界」

「そうなんだ? なんか意外。健康の塊っぽいのに」

「ぽいだけだから、明日の午後には、また海と山に囲まれた野母崎に帰って、便秘もできない激務の日日よ。楯のデザインの商品化でね」

「でもまぁ、前の追加分はともかく、新しいシリーズの方は、儲けられそうだって言ってたじゃん?」

「まぁ、ねっ」

「それで、また上京することがあったら遊びに寄りなよ、置き鍵の場所は変えないから。休みが終わって、田舎に帰ってる連中が戻って来れば、ここにはいつでも誰かしらがいると思うしさ」

「それはどうも、お言葉に甘えさせてもらっとく。次は朝に()れた魚でももって来てやるワ、刺身に捌いて、腹一杯喰わしてやるわよ」

「いいなぁ、新鮮な刺身にホカホカ御飯……あ~、なんか腹減って来ちゃった。何か残ってないかな?」

 オレがキッチンの方へ視線を向けると、おハルが、鍋の残りにうどんを入れて、鴨南蛮ができることを教えてくれた。

 やっぱりオレは、治部煮を食べていなかったんだ。里衣さんが夜中にオレが空腹で目覚めることを見越して、ちゃんと用意して置いてくれていた。

「おハルもどう? 半分コできそうだよ」

「アンタ私をブタにする気? 一応これでも心若き女なんだワ、こんな時間に食べたり飲んだりするか」

「そだね。横に増えたら、走るより、(ころ)げた方が早くなりそう」

「フン、言ってな六フィート足らずめが。特待生にも、もうあと一歩ってトコでなり損ねたんだって? 初中終、少し足んなくて失敗してるらしいじゃない? 今日も、私に不意を衝かれなければ、ポールから、躱閃術ってヤツのお墨付きがもらえたのにねぇ」

 チッ、センパイかよ。別にいいけれど、黙っててくれたっていいのにっ。

「そうそう、ホント申しわけ御座いませんねぇ、オレの間のぬけたデザインで、命まで削っていただいちゃって」

「どう致しまして。私のヴァイタリティーは、太く短く生きる仕様でね。今のところ、ムダにあり余ってるもんだから、マヌケと一緒に仕事するくらいが、ちょうどいいんだワ」

 ……ったく。何で、オレの周りにいる女性は、どいつもこいつも減らず口なんだ?

 どうせなら、物腰から優しいおネエさんが欲しいよなっ。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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