245 ドラレコの死角 ‐1st part‐

文字数 1,527文字

 葉植さんは、緊張をほぐすと言うよりは、バツの悪さをとり繕うカンジに、エスプレッソを一気飲みにした。
 やはり、本場の流儀を知っているってことなんだろう。
 でも、なんだかチョット違和感、と言うより、しっかりと飲み頃をのがしていないカンジがして、ヤケにムカついてくる……今はどうにも。

「ウへ~、やっぱり苦いや。それでは話を続けよう、大丈夫かい楯クン? ちゃんと聞いてくれているかな?」 

「……ぇえ? うん、大丈夫」

「ホントに? ちゃんと聞いてくれていたら、今までで既に、気になるところがあったはずなんだけどな」

「……だとしても、大丈夫……」

「ボクは楯クンを納得させるために、必要ではないと思うこまごましたことを省略して話しているんだ、実況みたく全てを逐一話していては夜が明けてしまうから。でも気になったことはその都度、遠慮なく尋ねてくれないと」

「わかってる……」

「楯クンも、もっと声を出せば、もっと落ち着けるだろうし、何よりどんどん納得していってもらわなくちゃ困る。こうして話す意味がないし、ホントはボクだって、口が裂けるくらいで済むのなら、黙っていたいことなんだから」

 「……まぁ、確かにね」

 ん~、そうだな、根上のクルマが向かった先をどうやって突き止めたんだ?
 そもそも葉植さんは、どんな罠を仕掛けて、勝庫織莉奈をそこへ誘き寄せたんだろうか。
 オレは、自分を落ち着かせるためにも、その辺から質問してみることにした──。

「ウン、大丈夫そうだね。二人を乗せたクルマの行き先は、ボクには初めからわかっていたんだ、それも罠の内だもの」

「罠? だったの……」

「だから、罠にかかったのは二人だけと確認したあと、二人用の手順を確認しながら、徒歩で跡を追った。二キロくらいなら造作もないし、途中で変装もしなおす必要がある」

「…………」

「二人が張り込んでいた家は、万が一の尾行を巻くために、ボクが用意しておいたフェイントのためのモノなんだ」

「フェ……」

「そこの家族は、同じ敷地内の奥に新しく建てた家で暮らしていて、手前の古い家は、楯クンの所のように、御隠居さんの道楽仲間や、孫息子の遊び仲間が集う溜まり場になっている。戸締りもテキトーな集会場さ」

「……ウチ、って集会場? か……」

「しかも古い家の裏まで廻らなければ、二軒は完全に別個の家にしか見えない。オマケに少し行った先には、宅地開発をし損ねた雑木林と、そのほぼ中央を貫く地元民でもほとんど知らない、なので使うこともない舗装道路まであった」

「……それは、知ってるよ」

「二人の殺害現場へと続くあの細い道路、たぶん、雑木林から伐採した木を運び出したりする作業用として、とり敢えず通されたんだろうけど、その事業そのものが、一頓挫を来たしてしまったらしい」

「…………」

「不景気と、不景気ゆえに拙劣さが酷くなる地域振興計画が、至る所に犯罪にお(あつら)え向きな場所をつくってくれる、ホントにね」

 なぜか葉植さん、そこで軽く溜息を吐いた。
 
「……で?」

「現地へ初めてお邪魔したのは去年のことでね、これは使えると、全てはその時に掌握して、完全犯罪の舞台にするために、こまかな所を整えさせてもらった。万が一でも、可能性は見過ごせないし、そんな舞台もあちらこちらに用意しているんだ」

「…………」

「そして、とうとう万が一が出現しちゃった。なので、まずは勝庫織莉奈一人に、そこまで跡をつけさせれば、ボクの罠のスタートだ」

「…………」

「恰も我が家のように、その古い家の玄関から入って、電灯なんかを点けたところまでを目撃させたら、とり敢えず尾行が成功したと思わせることができる。あとは裏から出て、庭を廻れば、バレずにどうとでも通りぬけられる」

「…………」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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