295 ___________ ‐3rd part‐

文字数 1,266文字

「それに~、この前の続きと新推理、僊河青蓮は植物状態で生き続けていてー、彼女が夢想するデザインを、ミラノ嬢だからこそ読み取れるってゆー駁説(ばくせつ)も、きっち~り披露させていただけるー」

「……第一、何です新推理って? それもこんな所で自分から。スマホを自腹にした意味がなくなるじゃないですかっ」

「こんなトコで直接しゃべる分には問題なーい。単なる人気デザイナーのゴシップだものー」

「でしょうけれど……」

「それに免許は海外なら一六でとれるー、ペーパーでもないから安心おしー、このあとも、お祖父ちゃんを、浜田山キャンパスまで送り届ける運転手だからー。お祖父ちゃんは正装だと、運転できなくなっちゃうんだー」

「モォ~……じゃぁ入学式、教授も出てたんですか?」

「祝辞を述べにねー。ボクのせいでーお鉢がまわっちゃったみたいだ。お祖父ちゃんは、期待を裏切らない人だからねー、お偉いさん方の苦笑までもが、新入生には爆ウケだったー」

「…………」
 なんだか、その時の講堂内の様子が目にありありと浮かんじゃうんですけれど。

「じゃぁまた今晩ねー。王道の英知を叩き込んで差しあげるー」

 ……呆れ果てちゃって、まったくモォ~。返す言葉も出てくれなけりゃ、ムカついてもきやしない。

 葉植さんの後ろ姿を目で追うのも止めて回れ右。オレも、とっとと学生証の更新を済ませて走りに行こうっと。

 がしかし。現下、前門に奇童を防ぎ後門に明王どもを進む、の状態にハマっていたらしい。
 葉植さんのお次は剣橋たちが、中庭を両断する通路を六号館の方からやって来やがる。
 しかも、既にオレは、草豪に見つかっちまっていた。明らかにオレを指差して、剣橋に何かを告げている。
 そのあとを歩く、川溜や江陣原も目を向けた。金樟みたく、スマホ画面にでも専心していればいいものを。

 この時間、イタリアはまだ夜中。ミラノはグッスラこんと眠っているはずだから、学生証は後まわしにして逃げ出したいところ。

 けれど、それをやったらダメダメ。どの道こうして疚しさをカンジていては、あとから絶対にバレるし。
 ミラノは、オレの心の中にある後ろ暗い蟠りだけは、決して見のがしてくれないからねぇ。
 悪いことなら尚更、覚悟を決めて正正堂堂とやるんだよ、って……。

 えぇい! 逃げも隠れもするもんか。アハ‐ムーヴィーの要領で、平均的な瞬きのタイミング毎に歩速を上げれば、避けていることを、明王どもから気づかれないようにできるかもだ。
 あの五人の仲なら、常日頃から同調もしてて、瞬くタイミングも、無意識に合わせている可能性は高いしっ。
 オッシ。この手で、明王どもより先に、通路の合流地点を通過しちまおう。

 それなら、特に言葉なんかを交わさずに、軽い目配せ程度で挨拶を済ませてしまえる。
 大体、あんな事件さえなかったら、草豪がオレに目を留めて、剣橋たちもが目を向けてくるなんて、こんな状況は絶対にあり得なかったんだし。

 さ、新年度早早の気張りどころだっ。事務局が混雑しだす前に学生証を更新しないと、裏ワザを使った意味もなくなっちまう──。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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