238 _________ ‐3rd part‐
文字数 1,381文字
「チョット面倒でも、あのコと一緒に日本から出してくれるのなら、喜んで引き受けるよ。ほら、あのコには戸籍とか一切ないから、密航まで手伝ってもらうことになるけどさ」
「あのコは、この国を離れられないんだよ。だから、葉植木春菊には、日本でガンバってもらうしかないない。でも、そんなことも知らないのに、ワタシと約束しちゃっていいの?」
「……そっちこそ、心が読めたところで、ボクなんか信用できる? 無差別大量殺人者だよ」
「だった、だよもう。信用するとかしないとか、ワタシたちには関係ないないの」
「……ま、そうだったよね……」
「取り引きしたいって、もちかけてきたのは葉植木春菊の方だし、ワタシたちには、取り引きすることなんか、それくらいしかないんだもん」
「ン~、ホントかなぁそれ?」
「葉植木春菊が、約束を破ろうとしたらスグわかるし、ワタシたちも、協力するのをやめるだけだけ。葉植木春菊の頭は、随分と小難しい勉強に向いてそうだから、今の内に大外刈りってことだよ」
「それを言うなら青田刈り、正しくは青田買いだけど。それとも、こうして帰順したボクは、このまま固めワザにもち込まれて、一生あなたたちに隷従させられるって隠喩なのかな?」
「そんなに長くはならないない、女がフツウに妊娠できる年齢までなんて。葉植木春菊が間に合わなかったら、この約束も自然消滅だよ。その前に、誰かほかの医者にお願いしちゃうかもしれないし」
「……まぁガンバってみるよ。うん、そうだねツいてたみたいだ。こんな簡単に、あなたたちを敵にまわさずに済むなんて」
「そうだよ。前に遇った時、ワタシそう言ったじゃん。人間なら、誰だって自分の敵を殺せば味方、自分の味方を殺せば敵、どっちでもない人を殺しただけじゃ、まだどっちでもないんだよ」
「いきなりイタリア語で言われてもね、これまで余計に混乱してたよ……でもなるほど、僊婆は、まだどっちでもなかったわけだ?」
「だよ。日本におバァちゃんがいることは気づいてたけど、青蓮が、世界中で一番ホントに怖がってる人だもん、私たちの味方にもならないない。それに、あのコが怪物だってことを、自分から確かめたから、殺される順番を早められた自業自得なのなの」
「そうだったのか……」
「でも葉植木春菊は、ワタシの言葉をしっかり憶えてて、こうして話し合ってみようって考えられたじゃん。だからそのエプロンスカートのポッケに隠してる包丁と、リュックから、いつでも抜き出せるようにしてあるバールは、ワタシたちに使う必要なんかないないの」
「……わかってるよ、もう。まだボクの意識のどこかに残っているんだとしたら、それは単なる負け惜しみだろうし」
「うんうん。いざと言う時のために施した色んな仕掛けも、きちんと片づけて帰ってよね。それでまた人が死んだら契約違反だよ、当然もうケーサツに言うしかなくなるなる」
……なぜなんだろう?
中の会話を、まぁ全集中してはいるんだろうけれど、ただ聞いているだけのオレなのに、葉植さんの一切を見透かし終えたかのように、ミラノが満足そうに目を細め、薄笑みを浮かべているのがわかる……。
その隣でトリノさんも、葉植さんの顔面へと定めた狙いを、決してはずすことのないようなカンジで、わずかな身動ぎどころか瞬きの一つもなく、ミラノと同じ瞳を向け続けているってこともだ。どうしてか──。
「あのコは、この国を離れられないんだよ。だから、葉植木春菊には、日本でガンバってもらうしかないない。でも、そんなことも知らないのに、ワタシと約束しちゃっていいの?」
「……そっちこそ、心が読めたところで、ボクなんか信用できる? 無差別大量殺人者だよ」
「だった、だよもう。信用するとかしないとか、ワタシたちには関係ないないの」
「……ま、そうだったよね……」
「取り引きしたいって、もちかけてきたのは葉植木春菊の方だし、ワタシたちには、取り引きすることなんか、それくらいしかないんだもん」
「ン~、ホントかなぁそれ?」
「葉植木春菊が、約束を破ろうとしたらスグわかるし、ワタシたちも、協力するのをやめるだけだけ。葉植木春菊の頭は、随分と小難しい勉強に向いてそうだから、今の内に大外刈りってことだよ」
「それを言うなら青田刈り、正しくは青田買いだけど。それとも、こうして帰順したボクは、このまま固めワザにもち込まれて、一生あなたたちに隷従させられるって隠喩なのかな?」
「そんなに長くはならないない、女がフツウに妊娠できる年齢までなんて。葉植木春菊が間に合わなかったら、この約束も自然消滅だよ。その前に、誰かほかの医者にお願いしちゃうかもしれないし」
「……まぁガンバってみるよ。うん、そうだねツいてたみたいだ。こんな簡単に、あなたたちを敵にまわさずに済むなんて」
「そうだよ。前に遇った時、ワタシそう言ったじゃん。人間なら、誰だって自分の敵を殺せば味方、自分の味方を殺せば敵、どっちでもない人を殺しただけじゃ、まだどっちでもないんだよ」
「いきなりイタリア語で言われてもね、これまで余計に混乱してたよ……でもなるほど、僊婆は、まだどっちでもなかったわけだ?」
「だよ。日本におバァちゃんがいることは気づいてたけど、青蓮が、世界中で一番ホントに怖がってる人だもん、私たちの味方にもならないない。それに、あのコが怪物だってことを、自分から確かめたから、殺される順番を早められた自業自得なのなの」
「そうだったのか……」
「でも葉植木春菊は、ワタシの言葉をしっかり憶えてて、こうして話し合ってみようって考えられたじゃん。だからそのエプロンスカートのポッケに隠してる包丁と、リュックから、いつでも抜き出せるようにしてあるバールは、ワタシたちに使う必要なんかないないの」
「……わかってるよ、もう。まだボクの意識のどこかに残っているんだとしたら、それは単なる負け惜しみだろうし」
「うんうん。いざと言う時のために施した色んな仕掛けも、きちんと片づけて帰ってよね。それでまた人が死んだら契約違反だよ、当然もうケーサツに言うしかなくなるなる」
……なぜなんだろう?
中の会話を、まぁ全集中してはいるんだろうけれど、ただ聞いているだけのオレなのに、葉植さんの一切を見透かし終えたかのように、ミラノが満足そうに目を細め、薄笑みを浮かべているのがわかる……。
その隣でトリノさんも、葉植さんの顔面へと定めた狙いを、決してはずすことのないようなカンジで、わずかな身動ぎどころか瞬きの一つもなく、ミラノと同じ瞳を向け続けているってこともだ。どうしてか──。