246 _______ ‐2nd part‐
文字数 1,336文字
「それも真夜中のことだから、寝静まっている本当の住人たちに気づかれることはないし、まだ零下近い深深とした寒さも手伝って、勝庫織莉奈もそれ以上の長居は無用だ」
「…………」
「居座りそうなら、
「…………」
「ま、居座られずに済んだから、フェイントはすんなり成功。満足げに立ち去る彼女を尾行した、今度はボクがね」
「…………」
「ボクが、実際に御厄介になっていたのは隣町、雑木林の向こうの地区にあるお宅だ」
「……御厄介?」
「そうなった経緯は、事件とは関係のないことだけど。ボクはボクで野暮用があって、暫くの間、そちらの御隠居さんに、将棋の相手として引き止められていたんだ。初対面の勝ち逃げは許さないってことでね」
「…………」
「それで、納得してもらえるまで、心置きなく滞在させてもらった」
「…………」
「まぁ滞在と言っても、夜間は、勝庫織莉奈のような邪魔者を罠に嵌める目的で、ボクも沿線の町を彷徨っていたんだけど。そんな御隠居さんの相手なんか容易いから、朝の一番でささっと詰め将棋状態にしてあげれば、あとはひねもす長考なもんで、ボクもぐっすり休むことができたんだ」
「……野暮用って、何?」
「エ~、そんな野暮なことまで聞いちゃうわけ? 楯クンには無関係だし、これ以上巻き込んでもいけないことだから、そこまで話を広げたくないんだけどなぁ。第一、ボクは最初から、野暮には触れないよう避けて話しているのにさ」
「……話せないわけ?」
「でもまあ、こんな結果になった成因なので、少し触れておくと、去年の秋からの老人たちの死亡事故の幾つか、つまり勝庫織莉奈が言いだした演歌の呪いには、ボクが関与していたってことだよ」
「…………」
「やはり、ボクが張った別の罠にかかって、家へ招き入れてくれた黔磯の御隠居さんは、独り暮らしではなかったために、そう簡単には殺してあげられなかったんだ。これでいいよね?」
「いいよねって、そんな──」いいわけがないじゃないか!
「そこは全く別の話だから、納得いかなくてもいいってことを納得してよ。詳しく知りたかったら、あとで、勝庫織莉奈がしたように関連情報でも検索すればいい」
「…………」ま、そんな情報なんか、索ったりはしないけれど絶対。
「楯クンだって、見ず知らずの老人たちが、どんな具合に殺されたかなんてことまで、今ここで聞いても仕方がないでしょう? 正直ボクも何で彼らを殺したのか、勢いみたいなモノで、なんだかよくわかっていないんだよね」
「……勢いぃ?」
快楽殺人女への恋慕から、そこまで入れ揚げたとしても、人殺しまでやっちまう激情ってのは果たして……。
この葉植さんにしては、あまりにもらしくなくって、オレも、なんだかよくわからない。
「それよりも、話しておきたいのは、演歌の呪いがリアルに炎上する決定的現場を、高みの見物気分で目撃していた勝庫織莉奈さ」
「って……」
「それを、陰でボクが見ていことに気づけてないわ、そのあとも、家に着くまでをボクから見届けられていることに気づきやしないわで。まったく、ミステリーマニアが聞いて呆れる」
「…………」
「…………」
「居座りそうなら、
ドロボー
とでも騒いで、追い払ってから、そこから離れればフェイントは完了さ。彼女の様子は、ボクがこっそりしっかりチェックしているんだからね」「…………」
「ま、居座られずに済んだから、フェイントはすんなり成功。満足げに立ち去る彼女を尾行した、今度はボクがね」
「…………」
「ボクが、実際に御厄介になっていたのは隣町、雑木林の向こうの地区にあるお宅だ」
「……御厄介?」
「そうなった経緯は、事件とは関係のないことだけど。ボクはボクで野暮用があって、暫くの間、そちらの御隠居さんに、将棋の相手として引き止められていたんだ。初対面の勝ち逃げは許さないってことでね」
「…………」
「それで、納得してもらえるまで、心置きなく滞在させてもらった」
「…………」
「まぁ滞在と言っても、夜間は、勝庫織莉奈のような邪魔者を罠に嵌める目的で、ボクも沿線の町を彷徨っていたんだけど。そんな御隠居さんの相手なんか容易いから、朝の一番でささっと詰め将棋状態にしてあげれば、あとはひねもす長考なもんで、ボクもぐっすり休むことができたんだ」
「……野暮用って、何?」
「エ~、そんな野暮なことまで聞いちゃうわけ? 楯クンには無関係だし、これ以上巻き込んでもいけないことだから、そこまで話を広げたくないんだけどなぁ。第一、ボクは最初から、野暮には触れないよう避けて話しているのにさ」
「……話せないわけ?」
「でもまあ、こんな結果になった成因なので、少し触れておくと、去年の秋からの老人たちの死亡事故の幾つか、つまり勝庫織莉奈が言いだした演歌の呪いには、ボクが関与していたってことだよ」
「…………」
「やはり、ボクが張った別の罠にかかって、家へ招き入れてくれた黔磯の御隠居さんは、独り暮らしではなかったために、そう簡単には殺してあげられなかったんだ。これでいいよね?」
「いいよねって、そんな──」いいわけがないじゃないか!
「そこは全く別の話だから、納得いかなくてもいいってことを納得してよ。詳しく知りたかったら、あとで、勝庫織莉奈がしたように関連情報でも検索すればいい」
「…………」ま、そんな情報なんか、索ったりはしないけれど絶対。
「楯クンだって、見ず知らずの老人たちが、どんな具合に殺されたかなんてことまで、今ここで聞いても仕方がないでしょう? 正直ボクも何で彼らを殺したのか、勢いみたいなモノで、なんだかよくわかっていないんだよね」
「……勢いぃ?」
快楽殺人女への恋慕から、そこまで入れ揚げたとしても、人殺しまでやっちまう激情ってのは果たして……。
この葉植さんにしては、あまりにもらしくなくって、オレも、なんだかよくわからない。
「それよりも、話しておきたいのは、演歌の呪いがリアルに炎上する決定的現場を、高みの見物気分で目撃していた勝庫織莉奈さ」
「って……」
「それを、陰でボクが見ていことに気づけてないわ、そのあとも、家に着くまでをボクから見届けられていることに気づきやしないわで。まったく、ミステリーマニアが聞いて呆れる」
「…………」