251 パチン、パチン ‐1st part‐
文字数 1,694文字
葉植さんは、薄く小さな唇をわずかに尖らせる。
時たま見せる目慣れた仕草ではあるんだけれど、今にして気づいた。軽そうながら、心底からの溜め息を吐いたってことなんだ、たぶん。
「ウン。話すよ、順序だから。緑内昴一郎がボクに接触して来たのは、楯クンが広場の仲間に加わったからだと思う。彼が在栖川の学生だってことは、雰囲気で察していたんだ。でもまさか、楯クンの、小学校からの同級生とは思いも寄らなかった」
「……接触? なんかそれって……」
よくわからないけれど、葉植さんの口調だと、それ以前から緑内のことを知っていて、オレが広場の仲間に加わったのをきっかけに、緑内が葉植さんへ接触してきた、ってカンジに受け取れてしまう。
「そうだね。ちゃんと言うと、楯クンが、ボクの隣で商売を始める前のことさ。ボクは彼に、冷蔵庫を運ぶのを手伝ってもらったし、渋谷の道玄坂でも鉢合わせしていた」
「……それじゃ、やっぱり……あの晩、四人で緑内が倒れてるのを見つけた時からして、全部お芝居、って言うより企みの内だったんだねっ」
「勿論そう。緑内昴一郎から奪いとった品品は、楯クンの家までの道筋に隠しておいたから。とり敢えず一足先に、無事かをチェックして合流したら、楯クンが、ここへ立ち寄るなんて言いだしたからね」
「そうだったんだ? あの自販機のトコ……」
「楯クンたちと遺体の発見者になれば、珂児也クンや有勅水さんが、巧いこと動いてくれるに決まってる。第一発見者は楯クン一人に任せて、容疑者候補にすらならずに済むんじゃないかと期待もできる。そのためには、フツウに警察なんかに通報されてはマズかったんだ」
「…………」やられてた、まんまと──。
だのに、オレは英断だなんて思って……確かに葉植さんにとっては、大英断だったのかもしれないけれど。
「楯クンに、冷蔵庫や道玄坂でのことを指摘された時も、やはりボクは、偽言を吐くしかなかったよ。あの頃にはもう、ボクは緑内昴一郎に、しっかりと殺意だけは懐いていたもんだからね」
「……どして……」
「彼はね、そのボクとの二度の際会をネタに、ボクへ言い寄って来たんだ。所謂ナンパさ、彼もボクを完全に女のコだと思い込んでた」
「ガチにっ?」
あの星変態めが、女性なら、って言うか、好みの範囲内なら誰でもいいのかマジガチで!
……ま、まぁ、会話さえしなければ、うち解けて長いこと一緒にいなければだけれど、清楚で可憐な少女には、緑内にも見えはしちゃうかぁ、この葉植さんは。
「実にアブな趣味してるよね。まぁナンパと言っても、この近辺で出交すたびに、挨拶がてら寸話をして来て、最後に、今度プラネタリウムへ行こうとか、博物館を案内してあげると誘って来るだけとゆう、実に他愛のないモノだった」
「…………」なんだぁ、やっぱりかよ。
「それも毎度、挨拶からデートの勧誘までを、二〇秒前後の早口で済まして、足を止めないボクの横からスタコラと離脱して行く」
「…………」あ~、なんか目に浮かぶなぁ。器用すぎて不器用になるから緑内は。
「彼も彼なりに、爽やかさでもアピールしたかったのか、それとも、ボクに怒りだされたくなかったのかな? でも悪いけど、ボクは天文学や宇宙論が嫌いなんだよね」
「……へ~」そうなんだ? わからないけれど、葉植さんにしては意外。
「おもしろさは理解できるんだけど、人間が扱うにはあまりにも時間尺が合わないからね。ボクは、一生を懸けても答えが出ないことに、全てを費やせるような、おめでたい人種も好みじゃない。だから無視し続けていたんだ」
「…………」
「そして彼は、ボクが葉植鳳彦 の孫だってことを、どこかから知ったのを境に態度を変えた」
「…………」ゲッ。それおそらく、教えちゃったのオレじゃん──。
「偶然を装っての待ち伏せがなくなってよかったけど、今度は、偶然に出交すたび、ボクのプライヴェートに、ズケズケと立ち入るようになったんだ。話して離れる時間も、さらに短縮されたものの、その一言がウザッたらしいたらありゃしない」
「…………」
本当にウザかったみたいだ葉植さん。チョット首を傾けただけでも、妙にわかる。
時たま見せる目慣れた仕草ではあるんだけれど、今にして気づいた。軽そうながら、心底からの溜め息を吐いたってことなんだ、たぶん。
「ウン。話すよ、順序だから。緑内昴一郎がボクに接触して来たのは、楯クンが広場の仲間に加わったからだと思う。彼が在栖川の学生だってことは、雰囲気で察していたんだ。でもまさか、楯クンの、小学校からの同級生とは思いも寄らなかった」
「……接触? なんかそれって……」
よくわからないけれど、葉植さんの口調だと、それ以前から緑内のことを知っていて、オレが広場の仲間に加わったのをきっかけに、緑内が葉植さんへ接触してきた、ってカンジに受け取れてしまう。
「そうだね。ちゃんと言うと、楯クンが、ボクの隣で商売を始める前のことさ。ボクは彼に、冷蔵庫を運ぶのを手伝ってもらったし、渋谷の道玄坂でも鉢合わせしていた」
「……それじゃ、やっぱり……あの晩、四人で緑内が倒れてるのを見つけた時からして、全部お芝居、って言うより企みの内だったんだねっ」
「勿論そう。緑内昴一郎から奪いとった品品は、楯クンの家までの道筋に隠しておいたから。とり敢えず一足先に、無事かをチェックして合流したら、楯クンが、ここへ立ち寄るなんて言いだしたからね」
「そうだったんだ? あの自販機のトコ……」
「楯クンたちと遺体の発見者になれば、珂児也クンや有勅水さんが、巧いこと動いてくれるに決まってる。第一発見者は楯クン一人に任せて、容疑者候補にすらならずに済むんじゃないかと期待もできる。そのためには、フツウに警察なんかに通報されてはマズかったんだ」
「…………」やられてた、まんまと──。
だのに、オレは英断だなんて思って……確かに葉植さんにとっては、大英断だったのかもしれないけれど。
「楯クンに、冷蔵庫や道玄坂でのことを指摘された時も、やはりボクは、偽言を吐くしかなかったよ。あの頃にはもう、ボクは緑内昴一郎に、しっかりと殺意だけは懐いていたもんだからね」
「……どして……」
「彼はね、そのボクとの二度の際会をネタに、ボクへ言い寄って来たんだ。所謂ナンパさ、彼もボクを完全に女のコだと思い込んでた」
「ガチにっ?」
あの星変態めが、女性なら、って言うか、好みの範囲内なら誰でもいいのかマジガチで!
……ま、まぁ、会話さえしなければ、うち解けて長いこと一緒にいなければだけれど、清楚で可憐な少女には、緑内にも見えはしちゃうかぁ、この葉植さんは。
「実にアブな趣味してるよね。まぁナンパと言っても、この近辺で出交すたびに、挨拶がてら寸話をして来て、最後に、今度プラネタリウムへ行こうとか、博物館を案内してあげると誘って来るだけとゆう、実に他愛のないモノだった」
「…………」なんだぁ、やっぱりかよ。
「それも毎度、挨拶からデートの勧誘までを、二〇秒前後の早口で済まして、足を止めないボクの横からスタコラと離脱して行く」
「…………」あ~、なんか目に浮かぶなぁ。器用すぎて不器用になるから緑内は。
「彼も彼なりに、爽やかさでもアピールしたかったのか、それとも、ボクに怒りだされたくなかったのかな? でも悪いけど、ボクは天文学や宇宙論が嫌いなんだよね」
「……へ~」そうなんだ? わからないけれど、葉植さんにしては意外。
「おもしろさは理解できるんだけど、人間が扱うにはあまりにも時間尺が合わないからね。ボクは、一生を懸けても答えが出ないことに、全てを費やせるような、おめでたい人種も好みじゃない。だから無視し続けていたんだ」
「…………」
「そして彼は、ボクが
「…………」ゲッ。それおそらく、教えちゃったのオレじゃん──。
「偶然を装っての待ち伏せがなくなってよかったけど、今度は、偶然に出交すたび、ボクのプライヴェートに、ズケズケと立ち入るようになったんだ。話して離れる時間も、さらに短縮されたものの、その一言がウザッたらしいたらありゃしない」
「…………」
本当にウザかったみたいだ葉植さん。チョット首を傾けただけでも、妙にわかる。