183 ________________________ ‐2nd part‐
文字数 1,850文字
「形勢も完全に逆転して、根上は、彼女に騒がれないよう、一時的に口を塞ぐ必要もある」
「うんうん……」
「そしてカメラは、緑内の物と同一機種だった。いえ、彼女の手首を縛る際に、そこにされていた、中学生の女子には分不相応な、限定ウォッチに気づく方が先だったかもしれません」
「……あぁ、一〇〇万近くするとか聞いたけど」
「附属校の時分、男子連中の間では高級ウォッチを身につけて、そのレア度を戦わせるのが流行っていましたから。根上ならば、話題から一人とり残されていた誰かと違って、緑内の物だってことは即座にわかったと思うんです」
ふん、言ってろ。ホント、草豪はエグすぎだよなっ。
「それで、尋問から拷問へと変わっっちゃったかぁ。とうとうブチギレちゃったんだね根上クン? 日頃穏健な人がそうなると、もう前後どころか、全部の見境がなくなるんだろうから」
そう筌松に顔を向けられて、同意を求められたカンジの上婾さん。こっちも、筌松に劣らずのミステリー好きっぷりを披露しだしてくれちまう。
「体の大事な部分って、急所でもあるわけだから、直情的に攻撃しちゃうのは当然なのかも。ましてや、責めつけながら白状させなくちゃならないから、勝庫織莉奈の口をテープで塞いだままにはできないし。根上クンが片手で押さえつつ、もう片方の手では脅すために、包丁を持たなくちゃならないわけだし」
「だけど美夏、そんな体勢って、結構相手に密着しないとダメだよね? 勝庫織莉奈だって、ムダな抵抗だとしても、身をよじらないはずがないし」
「それは勿論だけど、私が思ったのは別のこと。やっぱり特別な日だからこそ、勝庫織莉奈もジーンズじゃなく、スカートを穿いて行ったんだろうから。『誰も来やしなかった』の、探偵少女のスタイルがそうだったんじゃありません?」
上婾さんへ草豪は、薄っすらと笑みを浮かべて頷いて見せる……オゾ~ッ。
「その事件当日の服装は、どちらかと言えば財閥令嬢のイメージです。探偵少女は、普段の勝庫織莉奈の格好に近かったはずです」
「やっぱり、どっちにしろ作品を意識しての、寒さも何のそのでナマ足だったのねぇ。根上クンは片手で彼女の口を封じつつ、暴れないように自分の体重もかけて押さえつける。そして包丁の存在を彼女に伝えるためには、刃先の冷たさを素肌に当ててカンジ取らせるのが効果的よね?」
「効果的ではあるでしょうけれど……あぁ、はいはい。ですね上婾さん」
「そうなの。彼女のホッペのスグ近くには、根上クンの手もあるから、あとは太腿ってことになるわけだけど、足でジタバタされないためにも、包丁は外側じゃなく、内側へ押し当てるわよねっ?」
突とした上婾さんの暴走とも言えそうな熱の入れように、草豪も一瞬、唖然としたリアクション。
その猛禽類を思わせるキッツい角立ち眼 までもを、幾分円くして見せやがるから、オレにはどちらも傑作だ。何せその眼が、オレに向いてはいないんで。
「あんたは、どこぞのヘボ警部カブレか~い? もうその発作的な喰いつきはやめなって、ノンフィクションでは迷惑なの。すみませんねぇ、やっぱり半端に眠って、まだ寝足りていないみたいだから」
「いえ、でも上婾さんの言うとおりかもしれません。都合の好すぎる解釈でしょうけど、勝庫織莉奈の下腹部の傷は、根上がそうしている間に、勝庫織莉奈が抵抗による動きから、自身でつけたとも考えられますよ充分」
「……んん? どう動けば自分で傷つけられるんだろ? ムリっぽくない結構?」
「いえ。勝庫織莉奈の動き以前に、根上が偶偶、包丁の刃をフツウに下ではなく、上に向けて握っていた。そう言いたいわけです」
「あ~、なるほどね。フツウじゃない興奮状態なら刃の向きとか関係なく、握れていれば、それでОKってカンジだろうし」
「勝庫織莉奈を、自分の体重も使って樹の幹に押さえつけていたなら、もう、ほとんど二人は密着状態です。スカートの中どころか、自分の手元すら見えてはいなかった」
「うんうん。その推測には、飛躍も破綻もないわねっ」
「さらに牽強付会させていただけば、緑内のカメラは、フル対応のストロボもセットされていて、暗所でも秒間数コマの高速連写が可能です。根上が、そのカメラを緑内のモノかチェックしている内に、シャッターを押してしまったんではないでしょうか?」
「そうね。そんなカメラは、多少強めにシャッタへ触れれば、数カットぐらい勝手に撮影してしまうもんね」
……筌松はやっぱ理系だなぁ、らしくシャッタと伸ばさずに言いやがる。
「うんうん……」
「そしてカメラは、緑内の物と同一機種だった。いえ、彼女の手首を縛る際に、そこにされていた、中学生の女子には分不相応な、限定ウォッチに気づく方が先だったかもしれません」
「……あぁ、一〇〇万近くするとか聞いたけど」
「附属校の時分、男子連中の間では高級ウォッチを身につけて、そのレア度を戦わせるのが流行っていましたから。根上ならば、話題から一人とり残されていた誰かと違って、緑内の物だってことは即座にわかったと思うんです」
ふん、言ってろ。ホント、草豪はエグすぎだよなっ。
「それで、尋問から拷問へと変わっっちゃったかぁ。とうとうブチギレちゃったんだね根上クン? 日頃穏健な人がそうなると、もう前後どころか、全部の見境がなくなるんだろうから」
そう筌松に顔を向けられて、同意を求められたカンジの上婾さん。こっちも、筌松に劣らずのミステリー好きっぷりを披露しだしてくれちまう。
「体の大事な部分って、急所でもあるわけだから、直情的に攻撃しちゃうのは当然なのかも。ましてや、責めつけながら白状させなくちゃならないから、勝庫織莉奈の口をテープで塞いだままにはできないし。根上クンが片手で押さえつつ、もう片方の手では脅すために、包丁を持たなくちゃならないわけだし」
「だけど美夏、そんな体勢って、結構相手に密着しないとダメだよね? 勝庫織莉奈だって、ムダな抵抗だとしても、身をよじらないはずがないし」
「それは勿論だけど、私が思ったのは別のこと。やっぱり特別な日だからこそ、勝庫織莉奈もジーンズじゃなく、スカートを穿いて行ったんだろうから。『誰も来やしなかった』の、探偵少女のスタイルがそうだったんじゃありません?」
上婾さんへ草豪は、薄っすらと笑みを浮かべて頷いて見せる……オゾ~ッ。
「その事件当日の服装は、どちらかと言えば財閥令嬢のイメージです。探偵少女は、普段の勝庫織莉奈の格好に近かったはずです」
「やっぱり、どっちにしろ作品を意識しての、寒さも何のそのでナマ足だったのねぇ。根上クンは片手で彼女の口を封じつつ、暴れないように自分の体重もかけて押さえつける。そして包丁の存在を彼女に伝えるためには、刃先の冷たさを素肌に当ててカンジ取らせるのが効果的よね?」
「効果的ではあるでしょうけれど……あぁ、はいはい。ですね上婾さん」
「そうなの。彼女のホッペのスグ近くには、根上クンの手もあるから、あとは太腿ってことになるわけだけど、足でジタバタされないためにも、包丁は外側じゃなく、内側へ押し当てるわよねっ?」
突とした上婾さんの暴走とも言えそうな熱の入れように、草豪も一瞬、唖然としたリアクション。
その猛禽類を思わせるキッツい角立ち
「あんたは、どこぞのヘボ警部カブレか~い? もうその発作的な喰いつきはやめなって、ノンフィクションでは迷惑なの。すみませんねぇ、やっぱり半端に眠って、まだ寝足りていないみたいだから」
「いえ、でも上婾さんの言うとおりかもしれません。都合の好すぎる解釈でしょうけど、勝庫織莉奈の下腹部の傷は、根上がそうしている間に、勝庫織莉奈が抵抗による動きから、自身でつけたとも考えられますよ充分」
「……んん? どう動けば自分で傷つけられるんだろ? ムリっぽくない結構?」
「いえ。勝庫織莉奈の動き以前に、根上が偶偶、包丁の刃をフツウに下ではなく、上に向けて握っていた。そう言いたいわけです」
「あ~、なるほどね。フツウじゃない興奮状態なら刃の向きとか関係なく、握れていれば、それでОKってカンジだろうし」
「勝庫織莉奈を、自分の体重も使って樹の幹に押さえつけていたなら、もう、ほとんど二人は密着状態です。スカートの中どころか、自分の手元すら見えてはいなかった」
「うんうん。その推測には、飛躍も破綻もないわねっ」
「さらに牽強付会させていただけば、緑内のカメラは、フル対応のストロボもセットされていて、暗所でも秒間数コマの高速連写が可能です。根上が、そのカメラを緑内のモノかチェックしている内に、シャッターを押してしまったんではないでしょうか?」
「そうね。そんなカメラは、多少強めにシャッタへ触れれば、数カットぐらい勝手に撮影してしまうもんね」
……筌松はやっぱ理系だなぁ、らしくシャッタと伸ばさずに言いやがる。