逝っとけ緑内! ‐1st part‐

文字数 1,507文字

      
「しばらく待ってみよう、今にまた何か起こるかもしれない」

「ヒュ~ドロドロって、シャッターをすりぬけるってかぁ、しゃべって触って来る実体のないモノが? ほぉ~なるほどねぇ」

「貴様、相当にバカにしているだろ。もう、ムリしてつき合ってくれなくてもいいんだぞ。こうして、物理的に危険なモノがないことは確認できたのだから。それとも、そんなにヒマなのか貴様は?」

「それはお互い様だろ? 興味があるんだよ色色。それに、物理学的にはまだ安全確実とは言いきれないんだ。その辺の素材が何なのか知らんけど、シャッターや塀を通過できる恐ろしいモノは、怨霊以外にもあるんだから」

「……それは、一体何なのだ?」    

 キラ星から、喰いつき気味に真正面から顔を向けられて、その、端麗に決まっている表情はよく見えないながら、らしくもなく自ら顔を逸らす緑内だった。

「オッ? なんだドアがあるじゃん。開いてたりしないもんかな」

 緑内は、右側の塀に見つけたドアへと、救いを求めるかのように近寄って、そのノブに手を伸ばす──。

「開くのか?」

「いや~、ダメだやっぱ。暗証番号だけじゃなく、カードキーも必要みたいだし、結構きっちりしてやがんの。作業している気配はないから、適当な理由をつけて、開けてもらうこともできないしなぁ」

「この内側に何があると言うのだ? 目に見えないモノを、見て探そうとしてどうする?」

「そう急くなって、俺の推考を仮説にするには、まだまだキミからの情報が足りないね。軽口は多いけど、思考様式までは軽率じゃないんだ、俺は」

「私の知ったことではないな。軽くでかまわんから、早く話せ」

「あっそ。……それで? キミがこの路地が怪しいと目をつけたのは、キミを襲った何かが、左前方から来たようにカンジたからじゃないか?」

「それに何の関係がある?」

「大いに関係あるんだなこれが。どうなんだよ? 何かそうさせる根拠があったから、ここだと判断したわけなんだろ?」

「……いや。本当に、そこまではっきりとした根拠があったわけではない、なんとなくが大半を占める直感に近い」

「襲われる前に、目の前で光をカンジなかったか? それも、実際に目で見えてるのか、頭の中が、直接照らされているのかわからないような光を? でなければ、無性に胸騒ぎがして恐怖を覚えたとか? それまで考えていたことと全く違うことが、勝手に割り込んできて、意識が混乱しただとか?」

「私は恐怖も混乱もしていない、光など見なかった。聞こえた呻き声が女のモノだと思ったから、右肩から首筋へ腕をまわしてきたのも、そうだろうと判断しただけだ」

「腕をまわされたような感覚ねぇ、なるほどな……呻き声ってのは、婆さんだったのか?」

「……あぁ、私も、ここの地主の老婦が亡くなったことは知っていた。だが、怨霊なんて存在は信じないし恐れない。そうでなければ、端からこの土地に接した道路など歩くものか」

「ほお~。別に俺は、キミが臆病だなんて言ってるつもりはないぜ。イエローモンキーの俺からすれば、キミはむしろ無鉄砲なくらい勇ましい。遺伝子的にドーパミンの作用が弱いのか、セロトニン分泌がいいのか知らんけど」

「何が言いたいんだ貴様は?」

「ただの軽口だっての。でも、突然不気味な声が聞こえて、首や肩を圧迫される感覚にまで襲われれば、まともな人間なら誰だって、ブッ魂消て反射的に自己防衛反応を示すもんさ。その反射機能そのものの成り立ちが、既に恐怖心からなんだから、恐怖はしてるんだよ、否定したって」

「……フン。本当に貴様は、その軽口をどうにかしないと、間違いなく損をするぞ。できれば軽口を省いて先を続けてくれ」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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