180 ______________ ‐2nd part‐
文字数 1,996文字
「作中、探偵少女と調査活動に同行した財閥令嬢は、途中で、見解の相違から仲が険悪になるんですが、休憩に立ち寄ったJR黔磯駅前のマックで、財閥令嬢は初めて口にしたアップルパイが甚く気に入って、三つも平らげてしまう。そうして二人の関係が修復される、くらいですか」
「それで、そんな合言葉なわけね?」
「作品内で唯一微笑ましい場面ですし、それから事件解決に向けての急展開へと突入するために、彼女が薦めた時に読んでくれた者なら、ピンとくると言うわけです」
「読んでたわけねぇ、根上クンは……」
「それで勝庫織莉奈も、アップルパイを三つトレーに並べて、『誰も来やしなかった』のページを捲りながら、指定した集合までの時間を潰していた」
「そっか。紙書籍派と言うより、スマホが持ち出せないからでしょうけど」
「でも、さすがに独りで三つは平らげられなかった。二つはテイクアウトにして、その後も、食べる気にはならなかったんでしょうか、それが根上のクルマに残されたことから、待ち合わせ場所の特定に至ったと言う次第です」
つまりは、そんな勝庫織莉奈の謎かけに応じた、物好きの中の物好きが根上だった。
マックの片隅の席で、小説を読んでいた勝庫織莉奈の正体に喫驚しつつも、スグにニコニコとして、明るく声をかける根上の姿が思い浮かぶね……。
その根上の笑顔には、何の下心もなかったように思うんだけれどなぁ、それが初対面だったとすれば尚のこと。
「根上のクルマは、事件現場から直線距離で二〇〇メートルほど離れた、建ち家も疎らな一応住居地域内で発見されましたが、車内の状況から、勝庫織莉奈はフツウに乗って来ていたことがわかっています」
「え、フツウって?」
「フツウに助手席や後部座席に乗っていた。自由を奪われてだとか、トランクに押し込められていたのではなかった」
「そう言うことね? チョット深読みしちゃって」
「後部座席には、飲食物が買い込んであったので、夜を徹する覚悟で、張り込みの真似事でもしていたんじゃないかと考えられるんですが、何を目的に張り込んでいたのかは不明です」
「その、呪いの因果律ってヤツの正体でしょう?」
「おめでたいわねぇ美夏ってば、張り込みで、呪いの決定的瞬間が押さえられるわけがないでしょ。そんなの、やっぱりその子のウソに決まってるわ。初めから誰も来やしないって想定していたことは、撒き餌に選んだ小説からして明白だし」
「なら、正真正銘<Root'N>である根上クンが、待ち合わせに現れた時には、喜びながらも勝庫織莉奈の方が焦ったんじゃない? 根上クンはまんまと一杯喰わされただけなのよ」
「だから、さっきまでの話は、きっちり御破算 にしてよ美夏。正真正銘もなく、この話に緑内クンとの間違い説を絡めないでっ」
「……そうでした。本当にゴメンなさい、紛らわしく、話を前後させるようなことを言ってしまって……」
な~ぜ、主にオレへ向けるように頭を下げたんだ上婾さん? もう間違いなくオレ一人を混乱させたと決めつけていやがるなっ。
「いや、根上のことだからなぁ。自分が行かないと誰も行きやしないとか、全部承知の上でつき合いに行ったのかも」
──っと、ついつい口を出しちまったぁ。アホかオレはっ、いや上婾さんが察したとおりのアホだからなんだけれど……。
「ありそう……物見高さで行ってることは間違いないでしょうし、相手が一三歳の女の子だってわかった時点で、これから何をやらかそうとしてるのか、別の好奇心がくすぐられるはずだし」
「でしょうね、根上ならば。ましてや放ってなんかおけなくなるに決まっています。とり敢えずは、言われるまま従ってあげるのではないでしょうか? そこは、勝庫織莉奈を以前から知っていようとも、いなかろうとも」
そう剣橋は、上婾さんへと微笑みかけやがる。
ったく。またも剣橋に透かさずソツもなく話を戻されちまった。
こんな人類の最高峰が隣にいるから、オレのアホがダダ雪崩 れるんだっ。
「捜査本部もそんなカンジには捉えてますね。クルマが駐められていた場所の付近には、確かにお年寄りが住んでいるお宅が集まってはいましたが、いずれも息子夫婦との同居などであって、独り暮らしではないんです」
「……きっちり呪いの条件に合致する地域は、さすがに勝庫織莉奈も見つけられなかったようねぇ」
「住居地域と言っても何ぶん片田舎ですから、一軒一軒の間隔は広いですし、雑草が生え伸びるがままの空き地も多い。夜更けともなればもう、本当に寝静まって、人っ子一人通らないような一帯なので、根上たちが張り込みごっこをしているところを、目にした人も皆無です」
「……ウチの実家周辺を、想像すればいいのかも」
そっか~、筌松は片田舎の出身かぁ。
ま、別に育った環境だけが、オレの羨む性格へと成長させる要因ではないんだけれど、憧れちゃうよなぁ片田舎……。
「それで、そんな合言葉なわけね?」
「作品内で唯一微笑ましい場面ですし、それから事件解決に向けての急展開へと突入するために、彼女が薦めた時に読んでくれた者なら、ピンとくると言うわけです」
「読んでたわけねぇ、根上クンは……」
「それで勝庫織莉奈も、アップルパイを三つトレーに並べて、『誰も来やしなかった』のページを捲りながら、指定した集合までの時間を潰していた」
「そっか。紙書籍派と言うより、スマホが持ち出せないからでしょうけど」
「でも、さすがに独りで三つは平らげられなかった。二つはテイクアウトにして、その後も、食べる気にはならなかったんでしょうか、それが根上のクルマに残されたことから、待ち合わせ場所の特定に至ったと言う次第です」
つまりは、そんな勝庫織莉奈の謎かけに応じた、物好きの中の物好きが根上だった。
マックの片隅の席で、小説を読んでいた勝庫織莉奈の正体に喫驚しつつも、スグにニコニコとして、明るく声をかける根上の姿が思い浮かぶね……。
その根上の笑顔には、何の下心もなかったように思うんだけれどなぁ、それが初対面だったとすれば尚のこと。
「根上のクルマは、事件現場から直線距離で二〇〇メートルほど離れた、建ち家も疎らな一応住居地域内で発見されましたが、車内の状況から、勝庫織莉奈はフツウに乗って来ていたことがわかっています」
「え、フツウって?」
「フツウに助手席や後部座席に乗っていた。自由を奪われてだとか、トランクに押し込められていたのではなかった」
「そう言うことね? チョット深読みしちゃって」
「後部座席には、飲食物が買い込んであったので、夜を徹する覚悟で、張り込みの真似事でもしていたんじゃないかと考えられるんですが、何を目的に張り込んでいたのかは不明です」
「その、呪いの因果律ってヤツの正体でしょう?」
「おめでたいわねぇ美夏ってば、張り込みで、呪いの決定的瞬間が押さえられるわけがないでしょ。そんなの、やっぱりその子のウソに決まってるわ。初めから誰も来やしないって想定していたことは、撒き餌に選んだ小説からして明白だし」
「なら、正真正銘<Root'N>である根上クンが、待ち合わせに現れた時には、喜びながらも勝庫織莉奈の方が焦ったんじゃない? 根上クンはまんまと一杯喰わされただけなのよ」
「だから、さっきまでの話は、きっちり
「……そうでした。本当にゴメンなさい、紛らわしく、話を前後させるようなことを言ってしまって……」
な~ぜ、主にオレへ向けるように頭を下げたんだ上婾さん? もう間違いなくオレ一人を混乱させたと決めつけていやがるなっ。
「いや、根上のことだからなぁ。自分が行かないと誰も行きやしないとか、全部承知の上でつき合いに行ったのかも」
──っと、ついつい口を出しちまったぁ。アホかオレはっ、いや上婾さんが察したとおりのアホだからなんだけれど……。
「ありそう……物見高さで行ってることは間違いないでしょうし、相手が一三歳の女の子だってわかった時点で、これから何をやらかそうとしてるのか、別の好奇心がくすぐられるはずだし」
「でしょうね、根上ならば。ましてや放ってなんかおけなくなるに決まっています。とり敢えずは、言われるまま従ってあげるのではないでしょうか? そこは、勝庫織莉奈を以前から知っていようとも、いなかろうとも」
そう剣橋は、上婾さんへと微笑みかけやがる。
ったく。またも剣橋に透かさずソツもなく話を戻されちまった。
こんな人類の最高峰が隣にいるから、オレのアホがダダ
「捜査本部もそんなカンジには捉えてますね。クルマが駐められていた場所の付近には、確かにお年寄りが住んでいるお宅が集まってはいましたが、いずれも息子夫婦との同居などであって、独り暮らしではないんです」
「……きっちり呪いの条件に合致する地域は、さすがに勝庫織莉奈も見つけられなかったようねぇ」
「住居地域と言っても何ぶん片田舎ですから、一軒一軒の間隔は広いですし、雑草が生え伸びるがままの空き地も多い。夜更けともなればもう、本当に寝静まって、人っ子一人通らないような一帯なので、根上たちが張り込みごっこをしているところを、目にした人も皆無です」
「……ウチの実家周辺を、想像すればいいのかも」
そっか~、筌松は片田舎の出身かぁ。
ま、別に育った環境だけが、オレの羨む性格へと成長させる要因ではないんだけれど、憧れちゃうよなぁ片田舎……。