152 _____________________ ‐2nd part‐

文字数 1,574文字

 現に、大きな事件の真相解明ほど、あと一歩といった結果のままで番組は終了するし、身近なことを言い当てるくらいなら、マジックや詐欺の要領でできてしまう。
 誰もが驚きながらも、ヴァラエティーとして愉しんでいるにすぎないから、ESP能力者たちが、どんだけTVに露出したって、深刻な事態には発展せずに済んでいるって考えるべきなんだろうな。

 ESPが実在することが明らかでも、もたない者が大多数を占めている限りは、社会的に支障を来たす影響など出ないよう、必ず配慮がなされる。
 それが所謂、常識の妙用ってヤツだ。

 そして、オリンピック前に世界記録を更新したアスリートが、本番で金メダルをのがしてしまうのと同様に、常に自己ベストのESPが発揮できる保証はない。
 その日、その時の、肉体的‐精神的‐環境的といった、さまざまなコンディションに左右される。
 それでは本当に、フツウの人間の、フツウの能力のありようと変わりがない。
 特異体質、著しく発達した技能と認識されてしかるべきなんだ。

 そんなESPを売りにしたところで、大衆から求められるのは、やはりTV出演者としての器量や礼節。
 何でも、ズケズケ暴き立てたら、番組自体が成立しなくなる。

 ESPを使って稼げたとしても、それ以上稼ぐフツウの人間は大勢いるわけだし。
 何も凶悪犯に限らず、フツウの人がしてきたことや、しようとしていることまでわかるんだから、身近なフツウの人間関係では、フツウ以上に腐心しなければ、フツウの人間よりも、良好な関係を維持し続けるのは難しそうだ。

 極端な話、ESPがあるとバレれば、家族ですら敵か味方に二分する。
 まともな人間は、まず味方にはついてくれない。
 健全な人間は、ESPなんかに縋らなくても充分生きて行けるから。

 むしろ忌み嫌い、ひょんなことから足を掬われては敵わないと、駆逐にかかる。
 そうした迫害から生き延びるには、占術紛いの仕事をして半隠遁な生活を送るか、カルト集団の教祖にでもなって、不健全な信者たちから守られる生活を送るくらいしかなくて、ESP能力者としては、極フツウに表社会になんかいられない。

 もはやそれは、一介の人間として存生しているとは言えず、いてもいないのと一緒と言うことになってしまう。
 結局ESP自体からして、あろうが、なかろうが、どうでもいいってことになる。

 ……ミラノさんも、だから母国や家族を離れて、爺やとNY暮らしだったのかな?
 
 別段トリノさんからは、ミラノさんへの敵愾心は窺えないけれど、イタリアには疎ましく思っている連中がいるのかもしれない。
 テレパスだと知ったあとも、オレが嫌っていないことを知って、やたら喜んでたもんなぁミラノさん。
 ってことはだ、オレも、まともでも健全でもない人間ってことになっちまうのか? 

 むぅ……。やっぱ根上の話は正しいみたい。

 しかし。一つだけ疑問と言うか、問題なのは、ミラノさんが、緑内を殺した犯人を特定できる思念を捉えたのは、本当に偶然なのかという点だ。

 人一人が殺し殺されようとしていたのだから、緑内と犯人の思念は、かなり強烈なモノだったに違いない。
 けれど、ミラノさん、全く面識もない人物の思念を、その強さだけでイチイチ感受していたら、うかうか考え事もできないし、落ち着けやしない。
 それでなくても、脳のモードきり換えがうまくできないんだから、引っきりなしに誰かの思念が意識を駆け巡って、自我意識なんてモノがなくなってしまう。
 そんなでは、脳神経と言うか、精神が保たないと思えてならない。

 だからこそ、見ず知らずのターゲット相手に、特定情報を引き出そうとESP能力を発揮する際には、ターゲットの所持品や、個人データを記入したメモなどの誘導物が、その固有の周波数を捕捉するためのチューナーとして用いられる。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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