174 ____________________ ‐2nd part‐
文字数 1,620文字
「それらは不明なんですよね。BBS上だけでなく、個人的にやり取りをする仲だったのかもわかっていません。はっきりしているのは、事件が発生する以前の通信に関する履歴は、どこをどう調べても、二人の間にはメッセージやメールを交わした記録さえも、全く出てこないってことなんです」
「…………」
筌松も上婾さんも、この事実には返す言葉がないみたい。
「なので、捜査本部の見解では、マスコミやら世間の認識とは全く違って、事件の当日まで、二人に直接の面識はなかったとされています。捜査員たちの中には、そう割りきっていない人もいるみたいなんですけどね」
「それはそうでしょう? 会ったその日って言っても、数時間の内ですよね、それで拷問したり殺しちゃったりになるフツウ?」
先に口を開いたのは上婾さんだった。同意を求められて筌松も、小首を傾げつつの発言をする。
「けどまぁ、警察が調べて出てこないんじゃねぇ? それに、フツウじゃないから騒ぎになってるわけだし」
「やっぱりその点は不自然ですよね。まあDGはDGでも、ミステリーとホラーのスレッド仲間ですから、メンバー同士、メルアドさえまともには教え合わなかったのは、確然とした事実なんですけどね」
「なら、まともじゃなければ教え合ってたの?」
「何それぇ?」
「えぇ、暗号化してとか、謎解きしていくと最後に辿り着く、プライズ(褒美)のような形にされていたみたいですね。もしも解けて連絡してみたところで、しらばっくれられたらそれまででしょうが」
「まったく、どこまでもらしいのね~」
「ただ根上は、自分をとり巻く環境を、あまり隠さずに書き込んでいたようですから、それを信じて多少の手間を惜しまなければ、麻布キャンパスに通う在栖川の学生であることは、察しがついたんじゃないかと思うんです。それも附属あがりしか知らないような、この近辺の裏ネタも書き込んでいましたので、根上を割り出すことは可能です」
「……なんでまた、そんなサーヴィスを?」
「根上もそうして、見知らぬ誰かが声をかけて来るのを、愉しみにしていたのかも、ですね」
「あ~、ありそう確かに」
「勝庫織莉奈の方も、バスケ部でいざこざを起こしてから、それまでなかった病欠を五回もしています。根上に直接の連絡こそしなかったものの、親の目が届ききらないのをいいことに、仮病を使ってこちらへ出て来て、この近辺で根上と直接会っていたとも考えられなくはないんです」
「いえ、あり得るんじゃない充分?」
「まぁ、勝庫織莉奈がキャンパス内へ入るために、ヴィジター申請をした記録もありませんから。緑内とも学外で偶偶一緒になって、根上に紹介された可能性がないとは言いきれない、そんなところじゃないでしょうか?」
「そう……それだわおそらく」
「何しろ緑内も附属あがりなわけで、空いた時間を大学から独り離れて過ごすそうとすれば、同じ学部セクションの附属あがり同士が鉢合わせする確率は高いでしょう。そこに勝庫織莉奈も居合わせていたかも。一年目は講義の時間割もほぼ同じですし、休講があった日と、勝庫織莉奈の欠席日が重なっていたと言う事実もあるんです」
う~ん。普段は行動をともにしたがらない二人でも、キャンパスの外で、根上と見慣れない女の子が一緒にいるところを目撃すれば、緑内なら、冷やかしの一つも言いに、自ら近づいて行きそうだ。
根上は根上で、何の途惑いもなく、平然と紹介するだろうし……。
「仮にそうだとして、長くても五箇月足らずの間に、勝庫織莉奈から、殺されるまでの鬼ウザいことをしちゃったわけだ、緑内クンは?」
「それも何とも言えません。勝庫織莉奈と根上には、ミステリーとホラーという、親交を深めるだけの共通の趣味がありましたけど、緑内は筋金入りの天文マニアでしたから」
「そっかぁ……」
溜息まで吐くように言ったところを見ると、筌松に思い浮かんでいた何らかの仮説が、脆くも崩れたってことなんだろうな、知らんけど。
「…………」
筌松も上婾さんも、この事実には返す言葉がないみたい。
「なので、捜査本部の見解では、マスコミやら世間の認識とは全く違って、事件の当日まで、二人に直接の面識はなかったとされています。捜査員たちの中には、そう割りきっていない人もいるみたいなんですけどね」
「それはそうでしょう? 会ったその日って言っても、数時間の内ですよね、それで拷問したり殺しちゃったりになるフツウ?」
先に口を開いたのは上婾さんだった。同意を求められて筌松も、小首を傾げつつの発言をする。
「けどまぁ、警察が調べて出てこないんじゃねぇ? それに、フツウじゃないから騒ぎになってるわけだし」
「やっぱりその点は不自然ですよね。まあDGはDGでも、ミステリーとホラーのスレッド仲間ですから、メンバー同士、メルアドさえまともには教え合わなかったのは、確然とした事実なんですけどね」
「なら、まともじゃなければ教え合ってたの?」
「何それぇ?」
「えぇ、暗号化してとか、謎解きしていくと最後に辿り着く、プライズ(褒美)のような形にされていたみたいですね。もしも解けて連絡してみたところで、しらばっくれられたらそれまででしょうが」
「まったく、どこまでもらしいのね~」
「ただ根上は、自分をとり巻く環境を、あまり隠さずに書き込んでいたようですから、それを信じて多少の手間を惜しまなければ、麻布キャンパスに通う在栖川の学生であることは、察しがついたんじゃないかと思うんです。それも附属あがりしか知らないような、この近辺の裏ネタも書き込んでいましたので、根上を割り出すことは可能です」
「……なんでまた、そんなサーヴィスを?」
「根上もそうして、見知らぬ誰かが声をかけて来るのを、愉しみにしていたのかも、ですね」
「あ~、ありそう確かに」
「勝庫織莉奈の方も、バスケ部でいざこざを起こしてから、それまでなかった病欠を五回もしています。根上に直接の連絡こそしなかったものの、親の目が届ききらないのをいいことに、仮病を使ってこちらへ出て来て、この近辺で根上と直接会っていたとも考えられなくはないんです」
「いえ、あり得るんじゃない充分?」
「まぁ、勝庫織莉奈がキャンパス内へ入るために、ヴィジター申請をした記録もありませんから。緑内とも学外で偶偶一緒になって、根上に紹介された可能性がないとは言いきれない、そんなところじゃないでしょうか?」
「そう……それだわおそらく」
「何しろ緑内も附属あがりなわけで、空いた時間を大学から独り離れて過ごすそうとすれば、同じ学部セクションの附属あがり同士が鉢合わせする確率は高いでしょう。そこに勝庫織莉奈も居合わせていたかも。一年目は講義の時間割もほぼ同じですし、休講があった日と、勝庫織莉奈の欠席日が重なっていたと言う事実もあるんです」
う~ん。普段は行動をともにしたがらない二人でも、キャンパスの外で、根上と見慣れない女の子が一緒にいるところを目撃すれば、緑内なら、冷やかしの一つも言いに、自ら近づいて行きそうだ。
根上は根上で、何の途惑いもなく、平然と紹介するだろうし……。
「仮にそうだとして、長くても五箇月足らずの間に、勝庫織莉奈から、殺されるまでの鬼ウザいことをしちゃったわけだ、緑内クンは?」
「それも何とも言えません。勝庫織莉奈と根上には、ミステリーとホラーという、親交を深めるだけの共通の趣味がありましたけど、緑内は筋金入りの天文マニアでしたから」
「そっかぁ……」
溜息まで吐くように言ったところを見ると、筌松に思い浮かんでいた何らかの仮説が、脆くも崩れたってことなんだろうな、知らんけど。