103 腐朽の冥作『スタンド・バイ・ミー?』 ‐1st part‐

文字数 1,521文字

 玄関の外では、川溜と江陣原が、会話もなく待っていた。

 川溜がしゃべりたくないのはわかるけれど、江陣原はホント絶望的、と言うより、こっちが絶望感に襲われるくらい、自分からはムダ口を叩かない奴だ。
 ある意味、剣橋や草豪よりも、あつかい難いったらありゃしない……。

「あれっ、葉植さんは?」

「……一人で先に帰ったみたい。私たちも行こうとしたら、彼女が、水埜を待っててあげてと言うから……葉植って、もしかして?」

 立っているのも危うそうな川溜の代わりに、ようやっと江陣原が口を開けば、これまたムダのない物言いをしやがる。

「そっか、紹介するの忘れてたな、葉植教授のお孫さんだよ。さすがに、オレと彼女とのつながりまでは、草豪がネットワークを駆使したところで、キャッチできやしなかっただろ?」

「…………」

 江陣原は早くもダンマリ。
 ま、不利になりそうなことには

を貫くだけだしなコイツは、顔色一つ変えずに。

 これで、プロも一流所が認める写真や文章表現センスの持主だなんて、この世界は上も上、頂上の方から、人として壊れていやがるよなっ、つくづく……。

 仕方がない、結構寒いのでオレは門の外へと歩き出す。川溜の寡黙さが幾分気にはなるけれど。

「リフラフのプレブスにだって、人間性って言うあやふやなモノで、人脈は幾らでも広げられるんだよな。まぁ何よりは、宝婁センパイと出会ったことが大きいかな? 凄い人は、やっぱ凄い人を呼び寄せるから」

「…………」

「そのおこぼれで、色んな人と知り合いになってさ、有勅水さんとも結局はそう。お蔭で、バイトにも困らず、そこそこ学生らしい生活ができてる。人間ってのは、成績だけじゃないってトコだろうな」

「……水埜だって、今回の特待生候補でしょ」

 おや意外。ま、それだけオレのことも意外なんだろうけれど。

「ン~、江陣原も受けたろ? あのお節介ド・トリオのセミナー。ヴィーがウチに居つくようになったら、奴らも一緒について来たってわけ」

「…………」

「やっぱオレも強引に誘われて、ウザいから温和しく受けてやったら、後期の成績オールAだとさ。オレの柄じゃないし、意味もないって」

「…………」

「ただ。なんだか、イケ好かない気がしちまうあのド・トリオや、ああしてカネと権力で育ってきたヴィーなんかを、このまま、のさばり返らせておきたくないみたいなんだよなぁ、これが」

「…………」

 ──ウゥ寒っ。
 日中は暖かかったのに、まだまだやっぱり、Tシャツの上に安フリース一枚じゃ無謀だったぁ~。江陣原のフローズンさも拍車をかけていやがるし。
 
「だから江陣原たちもさ、よかったら、明日以降も必勝セミナーを受けに来いよ。オレ一人じゃ御存知のとおり、太刀打ちなんかできないから」

「…………」

「晩メシあとの二〇時くらいからなんで、全員そろってはムリかもだけれど、剣橋たちと(きゅう)首凝議(しゅぎょうぎ)してさ? でなけりゃ、ミラノさんのSNSでも、忘れられてるブログを見てくれよ。オレがお邪魔して、進捗状況をあげとくから」

「…………」

「まぁオレの手なんか借りなくたって、江陣原たち五人が特待生を続けることは間違いないんだろうけれど。でも高をくくってると、ガチで、あのオレよりも見るからにバカげたヴィーの奴が五人とも蹴落とすことになるぞ。あいつには、あの熱血・ド・トリオが、ガッチリついていやがるんだから」

「…………」

「これまで、存在する可能性でしかなかったライヴァルの正体が、明らかになっちまった今度こそ、江陣原たちをブッちぎって、ヴィーをダントツの特待生にしようとするに決まってるんだから。レヴェル差が明確についちまったら、特待生に選ばれるのはヴィーだけだってこと、わかってるよなっ?」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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