184 ________________________ ‐3rd part‐
文字数 1,728文字
そんなトコに引っかかってるなんてことを、オレをも、しっかり視界に入れている剣橋にだけは見ぬかられていませんようにっ。くわばらくわばら……。
「現に、回収されたカメラの設定はそうなっていました。それに、そんな風にカメラをチェックしている間、根上は縛りつけてあるとは言え、勝庫織莉奈に背を向けるでしょうか? 私なら絶対にそんなことはしませんね」
「勝庫織莉奈を緊縛した画像は、偶然に撮られた。彼女の下腹部の傷も、根上クンは、何も倒錯趣味でつけたんじゃないって言うわけね?」
「はい。私たちは、そうであると信じたい、いえ、信じることに決めたんです。根上は、私たちがこれまで一緒に学んで来た同級生の中でも、最もジェントルな男でしたから」
剣橋‐不動明王様、久久の御開口だぁ──しかも、オレへと目配せまでするから敵わない。
「……だよな。事実から、ムリなくそんな可能性が導けるなら、根上に猟奇的な物事への興味はあっても、世間で騒がれているような変態でも性倒錯者でもなく、当然のことをしただけの被害者だよな」
とりあえず、どうにか無難なことが吐き出せたけれど、筌松と上婾さんの反応も悪くないカンジ。
「そうねぇ、少女を陵辱して愉しむような男が、包丁を奪い返された上に、メッタ刺しになって殺されるなんて考え難いわ。勝庫織莉奈から緑内クンの殺害を白状させるまでは、衝動的な行動だったけど、全てを赤裸裸に告白されてしまったあとは、ショックの余り、怒りも何も消し飛んで、ただただ愕然となるでしょうし」
「そうなると、握っていた包丁だって、無意識の内に手放してたかもしれないしね」
草豪もゆっくり大きく頷いている。実に満足げ、その流れで口まで開く。
「乱暴でしょうが、ミステリーとホラーの愛好者を、謎の解明による、事件解決を主体として愉しむ正道派と、描かれる犯罪や怪現象の猟奇性‐凶虐性を主体に求める、横道派とでも大別すれば、根上の性根は間違いなく正道派でしょう」
「……それはどうでしょ? 正道派が、ゾンビやらヴィランキャラのフィギュアまで集めるかしらね」
「あくまで、好みの作品を通じてカンジられる考え方と言うことです。私もミステリー小説は嫌いじゃないので、根上が読んでいたモノのタイトルやお薦めの作品を尋ねたことがあって、それでわかるんですけどね……ですから、根上は必ず、勝庫織莉奈に自首を勧めると思うんですよ」
「あぁ、そう言う意味での正道派ってことね」
「はい。しかし、勝庫織莉奈はそれに応じなかった。と言うより、結果的に拷問を行った根上がとにかく恐ろしかったか、説得のために近寄って来る根上を拒むために包丁で刺した。心臓なんて致命的な一箇所を、メッタ突きと言うことからも、勝庫織莉奈が精神的に追いつめられていたことは明白です」
「所謂オーヴァーキルだもんねぇ」
「根上が息絶えたあと、今度は身の危険がなくなった勝庫織莉奈が茫然自失となり、そして我に返る番でしょう。けれども、そこで緑内を殺害した時と同じように、手速く証拠湮滅や偽装工作を図って逃げ出せますか?」
「……ウ~ン、どうだろう? その場から逃げ出すだけならともかく」
「下腹部の数箇所に浅い切り傷と聞くと、大して問題がなさそうですが、ブッチャケてしまえば、股間を何度も包丁で切り細裂 かれているんですよ。そんなケガで動けますか?」
「ムリ、私なら絶対ムリだわ……まともに歩けないんじゃないの、そんな傷じゃ?」
「もう、危急反応による興奮状態でもないですし。それに、その傷からの出血は致死量には程遠いにしろ、両足を真っ赤に染めるには充分でしたから。一〇キロ以上離れた自宅まで、何喰わぬわぬ顔をして歩いて帰る気力など、やはり出なかったのではないでしょうか。そして、手にはまだ、包丁が握られているとしたら……」
その草豪の問いかけには、筌松も、上婾さんも、当然オレも、沈黙で答えるしかなかった。
草豪も続きを話しださない。
剣橋は目を閉じている。
金樟なんか、もはやいないも同然。
なんか、痛いくらいの静けさだ……。
勝庫織莉奈が、自刃に走った真夜中の雑木林も、このくらい闃寂 としていたのではないだろうか……オレには、そう思えてならなかった。
「現に、回収されたカメラの設定はそうなっていました。それに、そんな風にカメラをチェックしている間、根上は縛りつけてあるとは言え、勝庫織莉奈に背を向けるでしょうか? 私なら絶対にそんなことはしませんね」
「勝庫織莉奈を緊縛した画像は、偶然に撮られた。彼女の下腹部の傷も、根上クンは、何も倒錯趣味でつけたんじゃないって言うわけね?」
「はい。私たちは、そうであると信じたい、いえ、信じることに決めたんです。根上は、私たちがこれまで一緒に学んで来た同級生の中でも、最もジェントルな男でしたから」
剣橋‐不動明王様、久久の御開口だぁ──しかも、オレへと目配せまでするから敵わない。
「……だよな。事実から、ムリなくそんな可能性が導けるなら、根上に猟奇的な物事への興味はあっても、世間で騒がれているような変態でも性倒錯者でもなく、当然のことをしただけの被害者だよな」
とりあえず、どうにか無難なことが吐き出せたけれど、筌松と上婾さんの反応も悪くないカンジ。
「そうねぇ、少女を陵辱して愉しむような男が、包丁を奪い返された上に、メッタ刺しになって殺されるなんて考え難いわ。勝庫織莉奈から緑内クンの殺害を白状させるまでは、衝動的な行動だったけど、全てを赤裸裸に告白されてしまったあとは、ショックの余り、怒りも何も消し飛んで、ただただ愕然となるでしょうし」
「そうなると、握っていた包丁だって、無意識の内に手放してたかもしれないしね」
草豪もゆっくり大きく頷いている。実に満足げ、その流れで口まで開く。
「乱暴でしょうが、ミステリーとホラーの愛好者を、謎の解明による、事件解決を主体として愉しむ正道派と、描かれる犯罪や怪現象の猟奇性‐凶虐性を主体に求める、横道派とでも大別すれば、根上の性根は間違いなく正道派でしょう」
「……それはどうでしょ? 正道派が、ゾンビやらヴィランキャラのフィギュアまで集めるかしらね」
「あくまで、好みの作品を通じてカンジられる考え方と言うことです。私もミステリー小説は嫌いじゃないので、根上が読んでいたモノのタイトルやお薦めの作品を尋ねたことがあって、それでわかるんですけどね……ですから、根上は必ず、勝庫織莉奈に自首を勧めると思うんですよ」
「あぁ、そう言う意味での正道派ってことね」
「はい。しかし、勝庫織莉奈はそれに応じなかった。と言うより、結果的に拷問を行った根上がとにかく恐ろしかったか、説得のために近寄って来る根上を拒むために包丁で刺した。心臓なんて致命的な一箇所を、メッタ突きと言うことからも、勝庫織莉奈が精神的に追いつめられていたことは明白です」
「所謂オーヴァーキルだもんねぇ」
「根上が息絶えたあと、今度は身の危険がなくなった勝庫織莉奈が茫然自失となり、そして我に返る番でしょう。けれども、そこで緑内を殺害した時と同じように、手速く証拠湮滅や偽装工作を図って逃げ出せますか?」
「……ウ~ン、どうだろう? その場から逃げ出すだけならともかく」
「下腹部の数箇所に浅い切り傷と聞くと、大して問題がなさそうですが、ブッチャケてしまえば、股間を何度も包丁で切り
「ムリ、私なら絶対ムリだわ……まともに歩けないんじゃないの、そんな傷じゃ?」
「もう、危急反応による興奮状態でもないですし。それに、その傷からの出血は致死量には程遠いにしろ、両足を真っ赤に染めるには充分でしたから。一〇キロ以上離れた自宅まで、何喰わぬわぬ顔をして歩いて帰る気力など、やはり出なかったのではないでしょうか。そして、手にはまだ、包丁が握られているとしたら……」
その草豪の問いかけには、筌松も、上婾さんも、当然オレも、沈黙で答えるしかなかった。
草豪も続きを話しださない。
剣橋は目を閉じている。
金樟なんか、もはやいないも同然。
なんか、痛いくらいの静けさだ……。
勝庫織莉奈が、自刃に走った真夜中の雑木林も、このくらい