___ ______________ ‐2nd part‐

文字数 1,471文字

 加えて緑内は、理数科目の成績だけは、過去一度として草豪にぬかれることがなかった上、草豪が、男子顔負けの記録をもつ短距離走でも、性差歴然のタイムで水をあけていた。

 つまりは、草豪にとって緑内は、存在そのモノが癇に障る特段な相手。久久となる挨拶代わりの一声にも、その辺の情実が多分に反映されるに違いない。

 そして、緑内の方からしてみても草豪は、痛い目を見続けていた呪わしいバリケード。
 常に草豪と一緒にいる江陣原梓が、緑内に密心(みそかごころ)を懐かせる一人であったから。

 草豪越しに江陣原へコクることなど、緑内には造作もないが、おそらく告白された江陣原よりも草豪の反応の方が激しく、江陣原が否応を決める前から、あることないことまくし立てて大騒ぎにするのは必至。
 だからこそ緑内も、江陣原にこれまで一切腹を割らずにやってきた。

 既に、江陣原のことは九分九厘まで諦めている緑内ではあるものの、その理由がまた江陣原当人によるモノではなく、草豪に起因するという点が、緑内を完全には諦めきれなくさせている。
 それは当然、草豪への憤怨となって積もり固まっていくものだから、草豪とは、今宵のような偶然で避匿不能な接点をもつたび、緑内の意思に反して暴発するのが毎度のパターン。

 草豪相手に、舌戦を交えることはまず避けられない。なので、如何に戦渦を小さく済ませるかに、思考をきり替え始める緑内だった。

 要は一撃必殺、草豪への挨拶返しで、どれだけ壊滅的ダメージを与える罵詈讒謗(ばりざんぼう)が込められるかにかかっている。
 あとから二の句を継がなくとも、草豪の猛反撃に、フラストレーションが溜まらないくらいにドギツい毒舌を浴びせてしまえばいい。
 それができれば泥仕合にはならずに済むし、有勅水にも、没義道(もぎどう)なのは、最後までつべこべと絡み文句を吐き続けるだろう草豪の方であることを認識してもらえる。

 有勅水の最上の笑顔を撮るためにも、草豪のみにクリティカルヒットする悪罵を仕上げる、それが、この遠廻りの中で果たさなくてはならない難題というわけだ。

 緑内は、毒言を一つ完成させては、その破壊力から推算される場のなりゆきを、脳裏でシミュレーション。
 それを繰り返し、不案内ながらも足どり軽く水埜の家への道順を辿る。

 ──緑内の行く先が、幾分明るくなってくる。
 ほぼ三角形をした記念公園の一辺に接している広めの通りとぶつかるためだ。

 歩道へと入ったことで、緑内は心持歩くペースを遅らせた。
 そして、公園の手前で曲がるか、公園の駐車スペースのある方から廻り込むか、その分岐点に差しかかる。

 正面にある南門から、公園内を突っきれれば一番なのだが、ここはしっかりと管理されている庭園公園なので、一七時以降は立ち入ることができない。
 門扉も、既に固く閉ざされていた。

 緑内は再度腕時計をチェックして、曲がらずに、道なりをさらに先へと進むことに決めた。
 曲がろうかと目を向けた先から、一方通行にもかかわらず、傲慢なハイビームで逆走するバイクがあったせいだが、歩調をまた速めれば、充分間に合う距離が追加されるだけ。
 なので緑内は、別段躊躇もなく、わずかな眩しさを右眼の端にカンジつつ道路を横切った。

 緑内は、強い光線が眼に入るのを殊のほか嫌う。
 スマートグラスのモニターに飛びついたのも、わかりきった内容を絮説(じょせつ)する講義中に、ネットやデジタル放送が堂堂と愉しめるからでもあるが、天体観測者にとって、視力は生命と等価値。
 新開発のスマグラが備える高い制光機能で、角膜から網膜までの視覚伝達路を、保護する意図が大きかった。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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