第220話 メルシーおばさん、ローズマリー公園で、シェイクスピアを学ぶ(後編)

文字数 2,278文字

今回は、ローズマリー公園のインフォメーション・ショップ(ニュープレイス)以外の建物を紹介しましょう。

ところで、シェイクスピアはとても人気がありますので、沢山の人が研究しています。シェイクスピアは、作品に比喩を多用していますので、比喩の謎解きの研究も沢山あって、シェイクスピアの花言葉を研究した分厚い専門書もあります。シェイクスピアの作品には、犬も沢山登場しますが、舞台に実際に犬が出演するというより、比喩に使われることが多いようです。

恐らく、一番有名な犬のフレーズは、ジュリアス・シーザー3幕1場273行のアントニーの次のセリフです。

"Cry 'Havoc!', and let slip the dogs of war."

直訳すると「戦闘と叫べ、そして、戦争の犬を解き放て」となります。

ここで、戦争の犬(the dogs of war)は、犬という生物ではなく、兵士の意味です。

こんな感じで、犬にとっては、迷惑千万ですが、犬(dog)は、下品で粗野な生き物の比喩として使われることが多いようです。

もっとも、シェイクスピアの影響は絶大で、”let slip the dogs of war.”は、既に、慣用句になってしまい、普通の人は犬を意識しないので、「戦いの火ぶたを切れ」と訳すのが普通です。

シェイクスピアは、本当は犬が嫌いだったという説を主張している人もいます。

16世紀のイングランドでは、上流階級の女性は、小型の愛玩犬を、男性は、狩猟犬を飼っていました。労働者階級は、牧羊犬や番犬などを使役目的で飼っていました。それ以外に、雑種の駄犬が、人が来たのを吠えて知らせ、台所で焼き串を回し、芸をするなど雑役をしました。この3種類の犬は、“gentle”、“homely”、“currish” と区別されていたようです。

シェイクスピアの作品に登場する犬は、雑種の駄犬(currish)が、ほとんどなので、作品だけでは、シェイクスピアが、3種類の犬を全て、嫌っていたとは言えないという人もいます。

メルシーおばさんは、小型の愛玩犬ですが、チワワは、1850年頃にメキシコのチワワという町で3頭が発見され、1904年にアメリカンケネルクラブに登録されています。つまり、シェイクスピアがいた16世紀のイングランドには、チワワはいなかったはずです。

ということで、この難しいお話は、メルシーおばさんには、関係なさそうです。おしまい。

話を、ニュープレイス以外の建物に戻します。


ニュープレイス以外の建物には、ストラトフォードアポンエイボンのシェイクスピア生家を模した「バースプレイス(Birth Place)」、16世紀の民家を再現した「パーマーズファーム」、教会風のローズマリーホールがあります。

英国では、今でも、シェイクスピアが活躍していた頃のチューダー様式の建築は人気があり、現在の建築のデザインにも部分的に採用されている例もあります。更に、新築住宅をあえてチューダー様式風にする人もいるようです。このため、英国には、チューダー様式を扱える職人さんが残っています。

ニュープレイス、バースプレイス、パーマーズファームの3棟は、木材、建具、石畳、レンガ、家具などは英国から輸入したものを用いています。建物は英国で職人さんが仮組みしたものを分解してコンテナで輸入、最終的には英国人監督のもと、日本の大工さんが組み立てたそうです。

ところで、「パーマーズファーム」って、変な名前ですね。メルシーおばさんは、最初は、これは、ファーマーズファーム(Farmer’s Farm)の間違いではないかと思いました。

この建物は、1997年に、シェイクスピア・カントリーパークがオープンした時には、メアリーアーデンズファーム(Mary Arden's Farm)と呼ばれていました。

メアリーアーデンとは、誰でしょうか?

メアリーアーデンは、シェイクスピアのお母さんです。つまり、シェイクスピア・カントリーパークは、ストラトフォードアポンエイボンにあるシェイクスピアのお母さんのお家を復元する計画だったのです。

ところが、2000年にストラトフォードアポンエイボンにあったメアリーアーデンズファームは、実は一家の友人で隣に住んでいたアダム・パーマー(Adam Palmer)さん家であったことがわかり、パーマーズファーム(Palmer's Farm)と改名されました。

本家が改名したので、ローズマリー公園のレプリカのメアリーアーデンズファームも、パーマーズファームに改名されました。なかなか数奇な運命の建物です。

ともあれ、細かいことにこだわらずに、ローズマリー公園をお散歩して、16世紀のシェイクスピアの世界へのタイムスリップを楽しみましょう。

ローズマリー公園には、ローズマリーはありますが、各段に多い訳ではありません。

でも、そのおかげで、色々な花を楽しむことができます。

はなまる市場の前でも、名前通り、色々なお花を売っていました。

お花畑のシーズンは、既に4月に終わっていましたが、はなまる市場の前で、ちょっとだけ、お花畑気分に浸ることができました。



写真1 ローズマリーの前をお散歩しているメルシーおばさん。


写真2 パーマーズファームの前のメルシーおばさん。


写真3 シェイクスピア生家を模したバースプレイの前のメルシーおばさん。


写真4 教会風のローズマリーホールの前のメルシーおばさん。


写真5 はなまる市場の前のメルシーおばさん。
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