パイナップルとマンゴーの一口アイスキャンディー【魔】

文字数 3,141文字

「潰れなさいな! あっははは! ぺしゃんこになっちゃったねぇ! サイッコー!」
 今日も気に食わない奴をアタシの重力でぺしゃんこにしてやったわ。生意気にもアタシに歯向かってくるなんて、とんだ常識知らずというかなんというか。でもまぁ、ぺしゃんこにしてやったから気分はサイコーなんだけどね。
 アタシ─リアンツィールは重力の魔法を使うことができるんだけど、重力っていってもただ圧し潰すだけじゃなくて、引き離す力─斥力も扱うことができるの。気に食わないヤツをぺしゃんこにするのはもちろん、遠くに吹っ飛ばすことだってできる。この力があれば、重力で足止めだってできるしそのままぺしゃんこにもできる最高の魔法だと思ってる。気分もすっきり晴れたことだし、次はなにして時間をつぶそうかなと思っていると、そこに現れたのは……アンタなのね。はぁ、アンタも毎回毎回なんで来るのよ。

 ほかにも楽しいことはある

 だって? はっ、なによ偉そうに。このアタシに意見する気?

 まぁまぁ。とりあえず、これを受け取ってほしい。

 なによこれ。ずいぶんと薄い服じゃない。それに……これって……。水着ってやつ?

 そうだよ。今は人間界でいう夏というとても暑い季節。この季節にしかできない遊びもたくさんあるからぜひ楽しんで欲しい。

 ……………………なによ。そこまで言うなら付き合ってあげなくはないけど? もし、その遊びがつまらなかったらタダじゃおかないわよ。

 わかってるよ。潰すなり飛ばすなり好きにしていいよ。

 …………言うじゃない。じゅ、準備するからアンタは先に出て行ってなさいよ。支度が出来たら呼んであげるから。

 わかったよ。じゃあ、またあとで。

 アンタが部屋から出ていくと、アタシはなんだかむしゃくしゃしてきた。なんなのよ、アイツ。部屋に入ってきて恐れるどころか堂々と水着を手渡してくるなんて……。もうっ、もっとアタシを恐れなさいよ!
 アタシはとりあえず前に雑誌に書かれていたことを思い出し、それに必要なものを手あたり次第バッグに詰め込んだ。支度も済んだことだし、呼びますか。

 呼んだかい。

 きゃああ!! な、なんで!? 今、呼ぼうとしたのに。アンタ、予知者?? 予知者なの??

 そんなわけないじゃないか。ただ、そろそろ呼ばれるかもと思って顔を出しただけだよ。

 そ……それならそうって少しくらい顔出して声くらい出しなさいよ。いきなり出てこられたらびっくりするじゃないの。

 あはは。ごめんごめん。それじゃ、行こうか。人間界の遊び場へ。

 ふ……ふんっ! 別に? アンタにお願いされて行くだけだからね?

 うふふ。そういうことにしておくよ。

 (な……なんなのよ!! きぃ~~! ま、まぁ。その場所がつまらなかったらぺしゃんこにしていいわけだし? それまでは我慢してあげてもいいかしら???)


 人間界に来てあげたはいいけど……なんでこんなにアッツイのよ……。雲は一つもないし、太陽の独壇場じゃないのよ。あぁ……日焼け止め持ってくればよかったわ。と、とにかく日陰に避難しないと日焼けしちゃう。そんでもって、だだっぴろいプール(?)っていうのが今、目の前にあるんだけど、太陽の光を反射してきらきらしてて綺麗なんだけど……これのどこが楽しいというのかしら。全然想像ができないわ。

 やあ。初の人間界はどうだい。

 アンタ……。ええ。暑くてサイッコーにサイッテーだわ。覚悟はできてるんでしょうね? こんなにサイッコーにサイッテーな暑い場所に連れてきて、タダで済むと思わないことね。

 まあまあ。まずはその重力球をしまってくれないか。まだここに来たばかりで、何も体験しないで潰されるのは御免被りたい。まずはさっき渡した水着に着替えてから話を進めようか。

 ふ……ふんっ。命拾いしたわね。すぐに着替えて重力球ぶつけてやるんだから……っ!

 やれやれ。どうやらぼくを本気で潰したいみたいだね。でもまぁ、それでもいいか。


 アンタが用意した水着……なんでサイズがぴったりなのよ。ちょっと……引くんだけど。

 何をそんなに怒ってるかと思えば。それはいつも君のお手伝いをしているから知っていてもおかしくないと思うよ。

 くぅう……なんか感じ悪っ!! 重力を倍にして潰してやるんだからっ!

 まあそれよりも、先にそのプールの中に足を入れてからでも遅くはないと思うけど、どうだろう。

 ふん。ま、まぁあ。アンタがそこまでいうなら入れてあげなくもないわよ。

 ちゃぷん

 ……冷たくって気持ちいいわね。なんか、足からすーっと暑さが逃げていくような感じ。

 暑さと冷たさの対比というのも中々面白いだろう。これが人間界の暑さを忘れる知恵というものさ。

 へぇ。せっかくだし、もう少し浸かってみようかしら。って、アンタ。さっきから何ジロジロ見てるのよ?!!

 あまり乗り気じゃなかった君が、色々なものを持ってきて満喫してくれている様子を嬉しく思っているだけだよ。サングラスにヘアバンドに……それにビーチボール。普段の君からは想像もできない代物ばかりだなと思ってね。

 っ!! し、仕方ないでしょ!! 雑誌にそう書いてあったんだから! 雑誌のせいよ! 雑誌の!
いい? アタシはその通りに持ってきてみただけだからね!! いい??

 はいはい。そういうことにしておくよ。それとね、プールに入ったらこういうことをするのが人間界ではお約束ごとらしいんだ。それっ!

 きゃっ!! あ……アンタ。このアタシに水かけたわね? こっちだって手加減なしでいくから覚悟しなさいっ!!



 はぁ……君って本気出すと見境なくなるタイプなんだね。今日も一つ勉強になったよ。

 うるさいわねっ! アンタが水鉄砲とかいうおもちゃ使ってくるから仕方ないじゃない。おあいこよ! お・あ・い・こ!

 あはは。それにしても水を圧縮して斥力を利用して飛ばしてくるとは思わなかったよ。危うく体が穴だらけになるところだったよ。

 そっちがそうなら、こっちもそうしたまでよ! アタシだけないのなんて不公平じゃないの。だから、自分の力を使ったまでよ。文句ある?

 いや、ないね。君の発想力には完敗だ。さて、そろそろ日が暮れるし風も冷たくなる時間だ。着替えて帰る準備を始めようか。

 あんなに暑かったのに、もう涼しくなるなんて信じられないわね。人間界って変な世界なのね。でも、ちょっと楽しかったわ。

 ほほう。君が楽しかったという言葉を口にするとは。いやはや、誘ってみてよかったよ。

 っ!! なに聞いてるのよ!! もーサイッコーにサイッテーねアンタ!! 今すぐぺしゃんこにしてあげるからそこでじっとしてなさい!!!

 あはは。冗談冗談。それと、君に聞いておきたいんだけどいいかな?

 な……なによ。言ってみなさいよ。

 本気で重力球をぶつけたいと思ったかい? 人間界での夏の過ごし方について、不満なことがひとつでもあれば、君の最大出力をぶつけても構わないよ。

 …………ふん。今はそんな気分じゃないの。アンタにぶつける重力球がもったいないわ。今度会ったときまでぶつけるのはお預けにしてあげるから感謝しなさい!


(相変わらず素直じゃないなぁ。でもまぁ、そこが彼女の素敵なところでもあるんだけどね)

 あ、アンタ。今、なんか言ったでしょ?

 言ってないよ。ほら、着替えて帰る支度しよう。

 いーや。絶対何か言ったわよね。ほら、白状しなさい! 何て言ったのよ?!

 言ってないってば。ほらほら。

 ごまかすなー! 言わないとひどいわよ!

 言ってないってば。
(また一つ、彼女を笑顔にすることができた。彼女が楽しんでもらえるよう、ぼくも色々勉強していかないと……だね。さて、次はどんな企画を考えようか)
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