トロピカルフルーツゼリー【魔】

文字数 2,664文字

 冥界への道が繋がる地「エピルザ」にて細々と暮らしている少女がいた。濃い紫色のローブを羽織り、手には身の丈と同じくらいの杖を持っている。華奢な足でよろよろと歩く姿は思わず補助をしてしまいたくなるようだ。しかし、迂闊に補助をしようものなら、彼女をとりまく友達もとい悪霊に呪い殺されてしまう。彼女の名前はブランジェッタ。もたもたと喋るその様子は歩く姿にもどことなく似ている気がすると周りによく言われている。
「みんなー……どこへ……行くの……?」
 彼女曰く、友達のうち一人が突然ブランジェッタの細い腕を掴み、こっちこっちと引っ張っていく。その友達の表情はうっすら笑っているようにも見えるが、彼女はそれに気が付いていない。
「どうしたの……」
 掴まれているのに全く焦っている様子のブランジェッタ。普段は死霊魔術師─ネクロマンサーとして過ごしているのだが依頼がここ最近、入ってないことも手伝ってか友達は何かを考えていたようだ。友達が止まった先に小さな穴があり、ここだよという動きをすると、ブランジェッタはゆっくりと首を傾げ迷った。
「……ここに……入った方が……いいの……かな?」
 うんうんと頷く友達は早速穴に入り、ブランジェッタを誘導する。友達が行くなら私もとばかりに屈み、穴へと潜る。小柄な彼女でも少しきついと感じる穴の先は一体なにがあるのだろう。ブランジェッタは心の片隅では楽しみに感じていた。

「うんしょ……うんしょ……着いたぁ……ここは……どこぉ……?」
 白い砂浜。青い海。降り注ぐ太陽のもと、歌う鳥たち。見たことのない世界に戸惑うブランジェッタ。友達は嬉しそうに海の方へと飛んで行ってしまった。
「……?」
 とことこと歩いてきた小さなお人形。背丈はブランジェッタのくるぶしくらいだろうか。木製の呪術用人形らしきそれは意思を持ってブランジェッタを歓迎している……ように見える。
「あなたは……だぁれ?」
 恭しく頭を下げるも、勢いよくしてしまったせいか腰のあたりから何かが折れる音が聞こえた。それに驚いた木製人形は慌てて姿勢を戻し、こっちこっちと誘導する。どうしたらいいか決めかねているブランジェッタに友達たちは一緒に行ってみようと言わんばかりにエスコートをする。友達が言うならいいよねと小さく微笑み、木製人形のあとについていった。
「これを……着てってことなの……かなぁ」
 木製人形が差し出したのは何かの衣装なのだが……広げてみるとブランジェッタ用と友達用と用意がされていた。手に持っているのは腰につけるもので、着ようか着まいか迷っている。
「これを着て……踊るの……かな」
 友達も少し悩んでから肯定のジェスチャーをした。それならとブランジェッタは早速その衣装に着替えてみる。ゆっくりとローブや呪術に用いる装飾を外し腰や胸ににつけるもの、最後に真っ赤な花を髪に飾れば完成。友達用に用意されていたのは、フェイスベールのようなもので、簡素なものではあるが、友達の目から発せられている眼光がいい雰囲気を出していた。
「どう……かな。似合う……?」
 友達は嬉しそうに手を叩くアクションをし、普段の彼女とは違った装いに歓喜していた。照れるブランジェッタに木製人形はぜひとも踊って欲しい踊りがあるらしく、またブランジェッタを誘導する。されるがままのブランジェッタだが普段の彼女も周りの意見に流されやすいので特に苦ではないのだが……友達はそんな彼女のことが好きで身の回りのお世話から戦いまでと幅広くサポートをする。そのことに喜びを感じている友達は、彼女と一緒に何かができることにまた違った喜びを感じていた。
「ここで……踊るの……かな……」
 どうやら会場に着いたらしく、木製人形は激しく飛び跳ねる。大きな篝火が焚かれ、その周りで木製人形の友達が楽器の調整を行っていた。その間に木製人形が踊り方をブランジェッタに教えると、恥ずかしさからかブランジェッタは中々踊ろうとしない。
「……踊れる……かな……」
 恥ずかしさと少し複雑な動きにブランジェッタは自信をなくしてしまったのか、しゅんとしてしまった。
「向いてない……かな」
 友達はそんなことないとばかりに頭を振り、ブランジェッタを落ち着かせた。ブランジェッタだけに踊らさせるのもと思った友達は、木製人形にまずはぼくたちに教えてと伝えると右手をぴんと上げた。
 一通り踊り終えた友達は、海を遠い眼差しで見ているブランジェッタの肩をちょんちょんと叩き、ぼくと一緒の動きをしてみてと踊って見せる。もじもじしていたブランジェッタもゆっくりではあるが友達と同じ動きができるようになると、友達はにんまりと笑う。
「こう……かな」
 そうそうと拍手をする友達を見て、少し笑顔が戻るブランジェッタ。繰り返す毎に上手くなっていくブランジェッタに木製人形は嬉しいのかぴょんぴょんと跳ねまくる。木製人形が楽器を持っている友達のところへ歩き、今度は音楽にあわせてみようと提案する。どきどきしているのか、ブランジェッタは胸のあたりできゅっと手を握ると、友達は最初はここからだよとポーズをとって待ってくれていた。踊り始めのポーズが決まったところで木製人形が手を振り上げ、楽器隊に指揮をする。
「みんなで……踊るね」
 友達の教え方が上手かったのか、一つのミスもなく踊り続けるブランジェッタ。それを見てまた嬉しくなった友達は音楽に合わせてアドリブを加えて踊り始めた。
「みんな……のってるね」
 お互いがお互いの気持ちを高ぶらせてくれるおかげで、踊り方もだんだん大胆になっていくブランジェッタに木製人形も一緒になって踊る。みんなでひとつとなった踊りにブランジェッタのテンションも最高潮。
「ふぁいやー」
 曲の締めと同時にブランジェッタも締めの一言。しばらくの沈黙がそれぞれ楽しめていた時間の余韻に浸っているという証拠なのか。全員がどれも満足そうに笑っていた。
「とても……楽しかった……ありがとう」
 木製人形にお礼を言い、自分の世界へ帰ることを伝えた。すると、木製人形はさっきまでブランジェッタが身に着けていた衣装一式を記念にプレゼントした。
「もらっても……いいの……」
 ゆっくりと頷く木製人形をみて、ブランジェッタはふわりと笑う。友達用の飾りも一緒だとのことなので尚のこと嬉しかった。木製人形とその友達に手を振り別れを告げると、ブランジェッタたちは自分たちの世界へと帰っていった。

 その後、ブランジェッタは記念にもらったあの衣装を嬉しそうに眺めているのであった。
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