気持ち弾けるリフレッシュドリンク【神&魔&竜】

文字数 4,233文字

午前

 天気の良いとある日。妖精王─ティターニアは元気よく走り回っていた。心地良い風に誘われ、妖精の国に留まっていることができずに人間界にこっそり遊びに来ていた。自分たちの知らないことで溢れている人間界が大好きなティターニアは、フィールドワークとしてこうして人間界に遊びに来ては知的好奇心を満たしていた。わからないことがあれば、時々顔を見せにやってくる冒険者に尋ねて知識を深めればいいと考えているティターニアは気になるものがあれば何でもかんでも指さしてはしゃいでいた。
 少し汗ばむ陽気までになった頃、ティターニアは手で顔をぱたぱたと仰いでいた。いくら天気が良く気持ちの良い風が吹いていても、汗は止まってはくれなかった。それに心なしか喉も乾いていた。
「ふ~。こっちの世界はとっても興味深いものばかりですね。もっともっと知りたいですけど……ちょっとお休みも必要ですね」
 どこかに休める場所はないかと探していると、大きな青い長方形をした箱のようなものを見つけた。それにはたくさんの黒いボタンがついていて、ボタンの上には見たことのない色鮮やかな縦長の置物がずらりと並んでいた。
「これは……一体なんでしょう??」
 見たことのないものに興味津々のティターニアは、まず外周をぐるりと見まわしてから箱の中にある様々な色で彩られた筒のようなものに目を向けた。黄色いものや緑色、はたまた透明なものまで色々ある中、ティターニアは黒い色の縦長の置物に興味をそそられた。
「えっと……これが気になりますね……えいっ」

   がこんっ

「ひゃあ! な、何か落ちてきました……。これ、さっき私が押したものと同じものです!」
 黒い色の縦長の置物の下にあった黒いボタンを押すと、それと同じものが箱の下から出てきた。恐る恐る取り出し円柱の形をしたそれは、とても冷たくて心地よかった。円柱のてっぺん付近に小さな矢印がありその向きの方向に白い頭を捻ると「ぷしゅっ!」となんとも心楽しい音が聞こえた。やがて緩んだ白い頭をゆっくり回すと、円柱の中にある液体をそこから注いで飲むことができそうにみえた。
「えっと。ここから飲めばいいんですね。では、いただきます!」
 喉がからからだったティターニアはわくわく感を胸に黒い液体を一口含んだ。すると、口の中でパチパチッと弾ける小さな泡粒に思わず小さな悲鳴をあげた。
「ひゃっ! 冷たくって甘くってぱちぱちして……とっても楽しいです♪」
 すっかり楽しくなったティターニアは少しずつ黒い液体を飲み、喉を潤していった。半分くらいまで飲み終えたティターニアはふうと一心地付き、少し離れたベンチに腰を下ろした。ちょうど木陰になっており涼むには丁度いい場所だった。
「はぁ。なんでしょうこの飲み物。飲むと心が笑ってるような感覚になります!」
 未知の体験をしたティターニアは女王としてではなく、子供のように純粋に楽しんでいた。そして、いつも人間界のことを話してくれる冒険者のことが頭を過った。少し考えてからティターニアはくすくすと笑い始めた。
「そうだ。いつもあの人に話してもらってばかりなので、今度はわたしがあの人にお話をする番です。そう考えると……早く話したくてわくわくがとまりません!!」
 いつもは話を聞いてばかりのティターニアが、こうして誰かに何かを話したいという気持ちにさせてくれた、この大きな青い長方形の箱をティターニアはとても気に入っていた。そして、何本か違う液体を選んでから、自分の国へと帰っていった。



正午

「ふう。少し時間がかかってしまったわね。でも、今の季節に合わせたくて新調してみたのだけど、どうかしら?」
 呉服屋から出てきた長い黒髪の少女─ヨシノは他の人には見えない相棒である─カグラに問うてみた。青白い炎を纏いながら現れた人魂は小さく首を縦に動かしていた。それを見たヨシノは嬉しそうにぱっと表情を明るくし、小さくスキップをした。
「新緑の季節に似合う新しい着物が欲しい」とお願いをし、生地選びから小物までを妥協なく選んだだけあってか、満足のいく仕上がりになったことが更に嬉しく、ヨシノの気持ちはとても晴れやかだった。このままどこかお出かけでもしてしまおうかなんて考えていると、大きな青い長方形の箱のようなものが置いてあった。
「何かしら……この青い箱のようなものは。それに、黒いボタンがいっぱい……」
 見たことのない物に驚いていると、カグラは心配になりヨシノの肩辺りでじっと見つめていた。ヨシノが注意深く見ていくと、どうやらこの青い箱のようなものは「自動販売機」という機械らしい。仕組みはどうなっているのわからないが、黒いボタンの上には様々な色の筒が入っていた。黄色いものやオレンジ色のもの、はたまた透明なものまでと種類が豊富だった。その中でもヨシノが気になったのは今の着物と同じ新緑を思わせる色の筒だった。
「えっと……これを押せばいいのかしら」

  がこんっ

「きゃっ! 何か落ちてきた……。あら、さっきわたしが押したものと同じものだわ」
 どうやらこの自動販売機というのは、ボタンを押すと同じ筒が出てくるという機械のようだ。心地よく冷えている筒はヨシノの乾いた喉が「早く」とばかりに急かしているかのように、自然と筒の頭を軽く回すときりりという音と共に開き、容器に注げるようになった。
「どんな味がするのかしら。いただきます」
 筒を傾け緑色の液体を口に含むと、瑞々しい新茶の甘味と心地よい渋みが一気に広がりなんとも爽やかな飲み物だった。
「あ……美味しい。これ、緑茶だったのね」
 今まで緑茶は何度も飲んできているはずなのに、この緑茶はそんな緑茶の中でも一番美味しいかもしれないとヨシノは思った。一口また一口と緑茶を含んでいると、いつの間にか緑茶はなくなっていた。
「もう終わってしまったのね。せっかくだし、もう一本……」
 そう思って同じボタンを押そうとしたとき、ふと考えが変わり同じものを二本自動販売機から取り出した。一本は自分、もう一本は……。
「これはカグラの分よ。あとで一緒に飲みましょ」
「……!」
 もちろん、人魂であるカグラが飲めるわけはない。だが、そんなことを微塵も感じさせないヨシノの優しさに触れたカグラは嬉しそうにヨシノの周りをくるくると回った。
「もうカグラったら。大げさね。さ、行きましょ」
 初夏の風に誘われてヨシノとカグラは、新しい発見ができたことも相まってかいつも以上に楽しそうに歩いて行った。


深夜

「どうした。アル、それにビルンまで」
「「ピィー!」」
「散歩か? 散歩だったら夕方にしたじゃないか」
「「ピピィ!」」
「な、なにぃ? あんなんじゃ足りないだと? はぁ、仕方ない。少しだけだからな!」
「「ピピー!」」
 双子の竜─アルとビルンに散歩を促された青年─デネヴは、明日の出かける準備をしている最中だった。たまにはのんびり遠くにいって温泉でも楽しもうと考えていて、鞄の中は既にたくさんの荷物でぱんぱんだった。あとは明日に備えて寝るだけだというとき、双子の竜から散歩の催促がありほんの少しだけ小さな溜息が出た。
「外は寒いかもしれんしな」
 お気に入りのジャケットを羽織り、いざ双子竜の散歩へ。玄関を出るとほんの僅かではあるが、風がひんやりとしていた。風邪をひくまでではないかもしれないが、既に入浴を済ませている身となれば湯冷めをしないように警戒をするしかなかった。
 いつもの散歩コースとは違うコースを歩くデネヴに、楽しそうに空を泳ぐ双子竜。ちいちいと小さな声を上げている様はまるでちょっとした小動物だった。あまり遠くへ行かないよう注意をしながら歩いていると、暗くなった夜道にぼんやりとした明かりが灯っているのに気が付いたデネヴ。眉をひそめながら近付くと、それは大きな青色の箱のようなものだった。横にはどこかでみたことのあるような髭の男性が描かれていた。
「ん? なんだこのでっかい箱みたいなのは。それに、なんか黒いボタンがいっぱい……」
 ボタンの上には見慣れない様々な色をした筒が並んでいた。緑色や黄色、はたまた透明なものまで。その中でもデネヴが気になった黄色の筒の下にあるボタンを押してみた。
「これにしてみるか……」

  がこんっ

「うぉお! な、なんか落ちてきた。お、これさっきおれが押したものと同じだ」
 箱の取り出し口から出てきた筒を取ると、ひんやりと冷たく心地よかった。アルとビルンは相変わらず嬉しそうに宙で踊っていた。あの様子なら大丈夫だろうと思ったデネヴは筒の頭に描かれている矢印方向に捻ってみると「ぷしゅっ」という弾ける音が聞こえ少しびっくりしながら恐る恐る緩めていった。やがて容器に注げるようになった筒の中には小さな粒々がぱちぱちと音をたてていた。
「どれ。一口……」
 ゆっくりと黄色い液体を口に含むと、口の中で小さいながらも力強い粒々が弾けた。まるで口の中で笑っているかのような感覚にデネヴは声に出して笑った。
「かーっ! なんともスカッとしてて気持ちがいいぜぇ」
 喉には笑いながら退場する黄色い液体が残りつつ、デネヴはまた新たに一口含んでは楽しそうに笑った。その様子を不思議そうにみる双子竜に、はっとした。そしてデネヴが飲んでる黄色い液体が気になったのか、双子竜はデネヴの肩にとまり「一口ちょうだい!」とばかりに鳴いた。
「だぁめだ。これはお前たちは飲めない。こいつらでも飲めそうなのは……あるのか……」
 デネヴは困りつつ、大丈夫であろうと思った透き通ったデザインの筒の下のボタンを押した。すると、無色透明の液体が入った筒が出てきた。筒には何やら自然を表しているかのようなイラストが描かれていた。双子竜が飲む前にデネヴが一口味見をすると、これは飲料水だということがわかった。しかも、口当たりがよく普段飲んでいる水よりもまろやかな飲み心地だった。
「アル、ビルン。これならお前たちも飲めるぞ」
「「ピィ♪」」
 筒を開けると、双子竜は我先にとばかりに容器の中に舌を入れて飲み始めた。すると双子竜は声を揃えて「ピィ!」と鳴いた。その表情はなんだか嬉しそうだったので、きっと双子竜は気に入った様子だった。
「お、うまいか。よっし、それなら明日の旅行はこれを持っていくか」
 ボタンを押すと出てくる不思議な箱から出てくる筒を何個か抱え、デネヴとアル、ビルンは、満足そうに家路へと就いた。
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