しゃっきり甘い♪アップルフレーバー

文字数 1,361文字

 ズゥン ズゥン ズゥン

 彼女の耳に入ってきたのはどこか遠くで重く響く音だった。それに続き彼女の鼻を刺激する強烈な腐臭。
「んぁ!?? な……なんすか……?? うぐぅう!! く……くっさぁあ……」
 ベッドの上で鼻をつまみながらあたりを見回す。机には昨日の夕飯のどんぶりやコップなどが散乱していて、それから発せられるものではないと確認すると眠い目を擦りながら窓の外を見た。木々が揺れ、そしてそれはどこかに向かって移動しているなにかが見えた。重たい音にこの腐臭はまさかと思いその名前を口にする。
「……マッドブロブっすか……?」
 思い当たる元凶の名前を口にした彼女は、ふわあと大きなあくびをしながら手を伸ばす。するとそこから半透明な帯のようなものが現れ、コップを絡ませるとそれを引き寄せそのまま口にする。ごくごくと喉を鳴らしながら水を飲み、ぷはあとひと心地ついた彼女はまた大きなあくびをした。再び眠い目を擦りながらベッドに戻り、二度寝をきめようと思い再び目を閉じた。

 ズゥン ズゥン ズゥン ズゥン

「んぁあ……もう……臭いしうるさいし……これじゃあ寝れないじゃないっすか……」
 どうしても周りがうるさいのに加え、耐え難い臭いにすっかり不機嫌になった彼女は鼻から大量の息を漏らしながら伸びをした。すると窓からばさばさと何かの羽音が聞こえたことに気づき、目を向けるとそこには見知った顔が焦った様子で彼女の名前を呼んだ。
「おい、マロニィ! 起きてるか」
「んあ……エウルア……すか?」
 エウルアと呼ばれた半人半鳥《ハーピー》族の女戦士は、マロニィが住んでいるこの住処のすぐ近くに居住を置いている近所付き合いが長い友人であった。マロニィと呼ばれた彼女も竜人で背中には羽、頭部には小さいながらも角がある。竜っぽく見えないのは彼女の眠たげな雰囲気や口調なのかもしれない。
「相変わらず眠たげだな。大変なことが起こってるから知らせに来た」
「……マッドブロブっすか?」
「なんだ。知っているのか。それなら話は早い。あいつのせいで近隣の森が被害を受けているんだ」
「……臭いだけじゃなかったんすね」
「やつが通り過ぎたあとは木々が腐り、それが更なる悪臭になっているようなんだ。一刻も早くやつをどうにかしないとこの森がなくなってしまう」
「あー……それは困るっすね……好きな寝床がなくなるなんて死んでも嫌っすわ」
「なら、お前の力を貸してほしい。わたしもこの森がなくなるなんてまっぴらごめんだからな」
「んぁ……ちょっと準備してからでもいいっすかぁ?」
 マロニィは半透明の帯を自分の背中へと向けて、まるで孫の手のように扱いながら答えた。それにエウルアは頷きながらあまり時間がないことを付け加えて飛び去って行った。
 んーと大きな伸びをして、脱力をして大きく息を吸い込み大きく吐き出す。その中には気持ちよく眠っていたのに起こされたことに対しての怒りも含まれていた。
「マッドブロブ……あいつのせいでめんどくさいことになってんすねぇ……ほんと、迷惑なやつっているんすね。ちょっとは考えて欲しいっすわ……消そ」
 ふんと大きく鼻を鳴らし、マロニィは自分の愛する寝床を守るため、そして早く帰宅して惰眠を貪るためあくびをしながらエウルアが飛び去った後を追いかけた。
「……めんどくさ」
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