カラフルポップ♡ゼリービーンズ

文字数 2,198文字

 飛び交う怒号、響く悲鳴、湧き上がる歓声……戦場というのは、いつ来ても音で溢れているなと一人の少女は思う。右手には巨大なメイスをぎゅっと握り、眼下に広がる戦場の様子を見て思わず身震いをした。それは恐怖とか絶望などではなく、ただその少女は「恍惚」という表情を浮かべながらだった。吐く息は何かに興奮したように生ぬるく、顔色は誰かに恋い焦がれたわけでもないのに赤く燃え上がる。
「戦場って……良いわよねぇ……うふふ。じゃあ、今日も張り切って行こうかしら」
 巨大なメイスをひょいを担ぎ、にっこり笑うドラゴニュート族の少女─ラウラはとある音を求めて自ら前線へと飛び込んでいった。

 高所から飛び降りたのにも関わらず、一瞬のぶれもなく着地をして辺りを伺う。幸いなことに敵はまだラウラには気が付いていない。ラウラはまるでピクニックに来たかのような気持ちで戦場を散策していると、ラウラと同じ種族─ドラゴニュート族に発見され、声をかけられる。
「ちょっとそこの女の子。ここは危ないから、安全な場所に避難した方がいいよ」
「女の子って、あたしのことですか?」
「そ……それは……君しかいないじゃないか……ほら、わかったらとっとと避難して」
「そうなんですねぇ……でもその前に……うふふ」
 ラウラは隠しておいたメイスを取り出し、声をかけた同族に大きく振りかぶった。
「あなたはどんな音が鳴るのか……聞かせて頂戴」
「え……なっ!  がぁあっ!!」
 
 ブォン

 メリメリ
 ゴリゴリュ

「うふふ……この音……たまらないわぁ……」
 メイス越しに伝わってくる同族の戦士の骨が軋む音、内臓が潰れていく音がラウラの耳を誘惑していく。余韻がまだラウラの耳に残っていながらも、そのまま勢いに任せて戦士をかっとばしていく。きれいな放物線を描きながら同族の戦士は戦の境界線のど真ん中に墜落し、両軍を動揺させた。
「きれいに飛びましたね。では、そちらに参りましょうか」
 まるで悪戯が成功した子供のような悪意のない笑みを浮かべなら、ラウラはスキップをしながら向かっていった。その先に百戦錬磨の戦士たちが集っていることを知りながら……。
 そのころ、戦場では急に飛来してきた戦士の亡骸に両軍の動揺は相当なものだった。お前の軍がやっただの、いやおれたちはこれで全員だだのと言い争っていると近くでずんと何か重たいものを置いた音が聞こえた。その音は両軍の罵声や動揺を一瞬にして鎮めてしまうほどの効果があった。
「うんうん……これはこれは。たっくさんいらっしゃいますねぇ……うふふ」
「だっ……誰だお前は!」
 剣先を突き付けられたラウラは怯むどころか、逆に喜びながら簡単に自己紹介を始めた。物怖じしないことが更なる違和感を醸し出し、新米兵士の何人かは情けない声を上げながら逃げていった。
「あたしの好きなことは……あなたたちを叩いた時の音なんです。うふふ」
「きっ、貴様。どちらの軍に所属しているのだ。言えっ!」
 片方の指揮官らしき人物に聞かれたが、どちらにも属してませんよとにっこりと笑いながら答えた。そして、もう我慢ができなくなったラウラはメイスを握り

に微笑んだ。
「それでは……どんな音であたしを楽しませてくれるのかしら♪」
 微笑んだままラウラは地を蹴り、最初の目標となった指揮官へと距離を詰め、指揮棒を振るった。

「どうしよう……迷子になっちゃったよ……ん?」
 焦りながら魔法で空を飛ぶ少女─レイネール。鮮やかな紫色のバトルドレス、やや高めのヒール、そしてさらさらな金髪をお気に入りのリボンで結わいている様はまさに少女と言ってもおかしくないのだが……レイネールの両脇に刺さっている双剣は雷の力を帯びており、戦うときはこれを駆使している。普段は健気な少女がこの双剣を抜いた時、態度が一変し残虐なまでな笑みを浮かべながら切り刻む様子は最早少女ではなかった。しかし、当の本人のそのことを話をしても全く覚えていないという。そんな彼女も少し変わった癖を持っており、たまたま外出していたら目的地を見失ってしまい今に至る。辺りを見回していると、何やら一人の少女が恭しくお辞儀をした次の瞬間、その場にいた少女は目の前にいた男性に向かって大きなハンマーで殴り飛ばしたではないか。それをみたレイネールは背筋に何かぞくぞくするものを感じ、急降下を始めた。

 また見知らぬ少女が現れ、戦場は既に何が何だかわからない状態となっていた。あっちでは叫び声、こっちでは泣き叫ぶ声など指揮官の声を以てしてでも原状復帰は不可能となっていた。そんな中でもマイペースなレイネールは大きなハンマーを持った少女に名乗り、またハンマーを持った少女もレイネールに名乗った。お互いなんだか気が合いそうだと感じ、にたりと笑う。
「私、苦痛に歪んだ悲鳴を聞くのが大好きなんですよぉ……」
「あたしはぁ……叩いた時の音が大好きなんです……うふふ」
 戦慄を感じた両軍。しかし、悲しいかな時すでに遅し。じりじりと近づく二人からは逃げられないと悟り、空を仰いだ。その時、レイネールという少女が上空から不敵な笑みを浮かべながら降ってきた。そして、双剣を抜きながらぐにゃりと笑った。
「最っ高の悲鳴を聞かせてくださいねぇ! あっはっはっは!」
「この瞬間を待っていたの♪」
 かくして、戦場は二人のオーケストラ会場へと成り替わっていた。
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