一口大のお月見だんご【神】

文字数 1,464文字

「今日のご飯は何にしましょうかねぇ♪」
 竹籠にこれでもかとばかりに新鮮な野菜を盛り、嬉しそうに運ぶ豊食の神─オオゲツヒメ。小麦色の豊かな髪に青空のような青い瞳。暖色系を多く取り入れた着物を秋風に揺らしながら、今晩の献立は何にしようか思案中。
「脂ののった鮭もいいですし、たっぷりきのこを使ったキノコ汁もいいですし。迷いますねぇ」
 るんるん気分で自分の畑から自宅へ戻ると、さっそく着物の袖をめくり調理モードへ突入。大きく育った大根をまな板の上にどんと置くと、目にもとまらぬ速さで均等の厚さに切り分けていく。全て切り終えると、今度は切り終えた大根の皮を薄く向いていき、隠し包丁を施し大き目の鍋で沸かしていたたっぷりの湯の中へと投入していく。ぐつぐつと大根を煮ている間、今度は人参や葉物野菜を適当な大きさに切り具材毎に分けておく。
「これも入れてみましょうかね」
 ご近所さんから戴いた新鮮なイワシを見事な手つきで捌いていき、必要な部分を包丁で適度につぶしていく。調味料を加えて手のひらでころころと転がしていけば、イワシのつみれの種が完成。あとは、茹で上がった大根と各種野菜とを特製のだしを入れた味噌を溶いて入れればつみれ汁の完成だ。
「ん~。これだけでご飯二杯、いや三杯はいけますねぇ。あとは、この時期のごちそうを……」
 冷えた蔵の中から出したのは、丸まると太ったサンマだった。これを炭火の上でじっくりと焼いていくと、サンマから出た脂が炭の上に落ち何とも食欲をそそる香りを台所に充満させた。
「それと、かかせない白米を……」
 自分の畑で愛情たっぷりに育てた白米を丁寧に水洗いをし、竈門でじっくりと炊いていく。あとは美味しい食事が完成するのを待つだけとなったのだが、思いのほか早く支度が済んでしまったオオゲツヒメは手持無沙汰になってしまった。台所から居間へと移動し、雨戸を閉めようと戸を開けたとき、帰り道に感じた心地よい風が家の中を空中遊泳した。すっかり秋は顔を出し始めたのか、夕方以降になっても爽やかな風が吹き、もう少し外を歩いていたいと思うくらいの気候だ。そして、今日は名月と呼ばれる日で、夜空には見事な満月が浮かぶ予定。それにぴんときたオオゲツヒメは、すぐに蔵からある米袋を抱えて持ってくると、物凄い勢いで米を洗い、蒸し始めた。蒸しあがった米を大きな臼の中に入れて、木槌でぺったんぺったんとつき始めた。ある程度のたぷたぷ加減になった白い塊を小さく千切っては丸め、千切っては丸めを繰り返した。大き目なお皿の上に丸めたものを次々並べていき、一息ついた頃には今度は竈門からぶくぶくと大きな合図が聞こえオオゲツヒメは焦りながらも丁寧に対処し、大事には至らなかった。

「でーーきたーー。ではでは、いっただきまぁっす」
 今日の献立は白米、じっくり焼いた脂ののったサンマ、たっぷりお野菜とイワシのつみれ汁。竈門いっぱいに炊いたはずの白米は、あっという間にオオゲツヒメが平らげてしまった。サンマも骨だけを残し綺麗に食べ終わると幸せの吐息を漏らした。
「それと、今日はデザートもあるのですよ」
 大きなお皿に並べたもの─月見団子を縁側に運び、さっき閉めた雨戸を少しだけ開けて空を見上げると、そこには見事な黄金色に輝く秋の名月がぷかぷかと浮かんでいた。
「デザートは別腹っていいますよね。では、いっただきまーっす」
 一口(にしてはやや大きめ)サイズの月見団子を味わいながら秋の名月を楽しむ。これもまた贅沢なひと時だと感じながら、月見団子を味わうオオゲツヒメであった。
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