シュワッとクリーミー☆ラムネミルクソフト
文字数 3,495文字
戦女神アテナ。普段は町を守るために戦へ出たり、困っている人には何かいいアイデアを授けたりと休む暇がないくらい。しかし、そんな彼女にも数日間の休暇が許された。天界で過ごそうが人間界で過ごそうが最低限のルールさえ守ることができるのなら、どこで過ごそうと自由だった。そこでアテナは、人間界での休日とは一体どういうものなのだろうかと疑問を解消する名目で、地上に降り立った。
地上の季節は夏と呼ばれ、人間界にある四つの季節のうちで一番暑い季節だと何かで読んだことのあるアテナは、事前に準備を済ませてから砂浜という白いきらきらした陸に足をのばした。
「わ……なんだか……歩くのが難しいですね……っとと……わぁ!!!」
歩いたことがない砂浜に苦戦しながらも、波打ち際まで進むと心地よい風がアテナの髪を揺らした。透き通るような風は今まで辛かった思いをさっと撫でてくれるようなそんな優しい風だった。寄せては返す波に足を浸しながら歩いていると、遠くで何やら人だかりができていて気になったアテナは徐々にその場所まで進んでいく。段々とその場所に近づいていくと、司会者らしき人物が大きな声で何やら説明をしていた。
「さぁさぁ、これからサーフィンのチャレンジが開催されるよ! 腕に自信のある人は気軽に参加してくれよな!」
さー……ひん? 聞きなれない言葉に首を傾げるアテナをよそに、周りの人たちはこぞって参加の意を表し、板のようなものを持って海へと走っていった。
「さー……ひん?? 一体なんなのでしょう?? うーん」
しばらく考えながら様子を見ていると、どうやら
「きっと、わたしには難しいに決まってます。ええ、きっと……」
胸の前で力なく握った拳からは戦女神の面影は一切なく、ただの一人の女性だった。はぁと溜息を吐きながら空を仰いだアテナは、せっかく楽しむためにきたのにこんな気持ちになってしまったことが残念でならなかった。アテナはそんな難しいことにわざわざ挑戦しなくても……と自分に言い聞かせながら踵を返したのだが、そこでアテナは知人のある言葉を思い出した。いや、
「そういえばアテナってさ……戦いはすっごく上手なのに、それ以外は
ぽっ!!! ぽ……ぽん……こつ!!??
過去にそう言われてしまったことを思い出してしまったアテナは、次第に怒りに燃え始めさっきまで力なく握っていた拳に力をぐっと籠め、わなわなと震えた。
「ぽ……ぽんこつですって……いいでしょう……でしたら、あそこで開催してる……さ、さーひん? の大会に参加して活躍してみせましょう!! みてなさいよ……パラス」
サーフィンの催しものに参加させるきっかけを作ったと思われる人物の名前を呟きながら、アテナはずんずんとした足取りでサーフィン大会の受付へと向かっていく。その背後には物悲しそうに銀色の板─アイギスがふわふわと浮いていた。
「お! お姉ちゃん。サーフィンに参加するかい?」
「は……はい! わたし、さーひん、できます!」
顔を真っ赤にしながら参加の意を表したアテナに、受付担当の男性も嬉しくなり笑顔で応える。
「元気がいいね! 女性の参加者が少ないからとっても嬉しいよ! それで、ボードは持ってるの?」
「え? ぼ……ぼーど?? えっと……」
一気に挙動がおかしくなったアテナを見た受付の男性の顔は一瞬曇ったのだが、アテナの後ろでふわふわ浮いている銀色の板を見てにこりと笑うとさらさらと何かを書き、参加受付完了の旨を伝えた。
「はい。登録完了したよ! じゃあ、頑張ってね」
「え……あ、は、はい……」
アテナはふわふわ浮いているアイギスを胸に、海へと向かっていった。そして、その背後で受付担当の男性は小さく呟いた。
「あれ、兜なのかな? とらないの??」
サーフィン大会開始まであと僅か。緊張の余り何も声を発することができないでいるアテナに、インタビュー担当の男性が近づきマイクを近づけた。
「今の心境はどうですか??」
「……!!」
「目標はなんですか?」
「……!!」
「……が、頑張ってください」
アテナの無言の圧力に耐えかねた男性は、そういうのがやっとだった。やがてアテナの番になり、やり方がわからないまま手探りでアイギスを海面に浮かべふらふらとしながらも立ち上がることに成功。そして、そこからはアテナではなく、アイギスの出番だった。
「あ……あ、あ、あ、アイギス! お願いしまぁあす!!」
意思を持った銀色の板はふらふらなアテナのバランス感覚を自動で感知し、それを補正。アテナが着水しないようにきれいに滑って行った。
「あ、あ、あ、あ、あああああああ!!!」
うまく波に乗れたのだが、バランスをとるのに必死なアテナは楽しむどころではなかった。いくらアイギスがサポートをしてくれているからとはいえ、ある程度は自分自身でバランスをとらないといけない……気がした。
(わ……わたしだって、やればできるってところを見せるんですからね!!!)
がむしゃらにバランスをとりながら、海の滑っていくアテナにさっきのインタビュー担当の男性が再度近付き、今の気持ちを聞いてきた。
「今話しかけちゃダメですっ!!!」
必死さと怒気を含んだ言葉は、またもやインタビュー担当の男性を見事に退かせるといよいよゴール地点へとあと一歩のところまで来た。
「やった……アイギス。あと少しです! 堪えてください!」
アテナが必死に訴えるも、アイギスもどうやら限界に達したようでさっきまでの安定感が徐々に崩れ、アテナの足元がぐらついてきた。
「え……アイギス? アイギス? アイギスー!! わーーーーー!!!」
ざっぱーーーん
ゴールは目と鼻の先だったのだが、アイギスの出力不足およびアテナのバランス感覚不足により完走ならずという結果だった。アイギスを浮き輪代わりにしながら目の前にあるゴール地点を見るその目は何ともいえない愁いが込められていた。ちゃぷちゃぷと水音を聞いている横で何かが物凄い勢いで通り過ぎたのを感じたアテナは兜を抑えながら何が起こったのかを確認した。すると、人ではない生き物がゴール地点にいた。
「な……なんで牛がゴールしてるの……?」
ゴール地点にいたのは人ではなく、巨大な白い牛だった。それも絶妙なバランスを保つことができる牛……。自分がゴールできなかったこともそうだが、なにより人ではなく牛がゴールしていることにショックを受けたアテナはぶくぶくと海の中へと静かに沈んでいった。
(こんなの無理に決まってるじゃないですか。バランスのプロの人でないとできないのに素人のわたしができるわけなんてなかったんです。わたしってほんとにぽんこつだったのですね……ようやくわかりました……パラス、あなたの言う通りでした)
次にアテナが目にしたのは、ビーチの一角にある救護室の天井だった。そして、見回りにきた看護師が意識を取り戻したアテナの顔をみてほっとした様子で口を開いた。
「よかった。あなた、溺れてたのよ。ほかにどこか痛みとかはないかしら」
ベッドから見える範囲での痛みはなく、その旨を伝えると看護師はうんと頷きもう大丈夫と言った。
「怪我がなくてよかったけど、起き上がるときはゆっくりね。それと、無理しないこと。わかった?」
看護師からの言葉にアテナは何度も頷き、ゆっくりと上体を起こした。少し頭がふらふらしているが歩くには支障はないと判断すると、ベッドから降りて看護師にお礼を言ってから救護室を後にした。
「はぁ……やっぱりわたしはぽんこつだったなんて……はぁ」
ぽんこつではないと証明しようと奮闘したが、それが叶わなかったことが余程悔しかったアテナは、ぐっと拳を握り空高く突き上げた。
「見てなさいよ。きっと、またあなたにぽんこつだなんて言わせませんから!!」
悔しかった……がしかし、アテナの胸には「挑戦できた」という充実感で満たされており、すっかり立ち直ったアテナはサーフィンの練習をするために、銀色の板を持ってまた海へと飛び込んでいった。きっと上手にできると自分に何度も言い聞かせながら、練習は日が暮れるまで行われた。そして、その練習風景をただ静かに、白色の牛が見つめていたのをアテナは知る由もなかった。
地上の季節は夏と呼ばれ、人間界にある四つの季節のうちで一番暑い季節だと何かで読んだことのあるアテナは、事前に準備を済ませてから砂浜という白いきらきらした陸に足をのばした。
「わ……なんだか……歩くのが難しいですね……っとと……わぁ!!!」
歩いたことがない砂浜に苦戦しながらも、波打ち際まで進むと心地よい風がアテナの髪を揺らした。透き通るような風は今まで辛かった思いをさっと撫でてくれるようなそんな優しい風だった。寄せては返す波に足を浸しながら歩いていると、遠くで何やら人だかりができていて気になったアテナは徐々にその場所まで進んでいく。段々とその場所に近づいていくと、司会者らしき人物が大きな声で何やら説明をしていた。
「さぁさぁ、これからサーフィンのチャレンジが開催されるよ! 腕に自信のある人は気軽に参加してくれよな!」
さー……ひん? 聞きなれない言葉に首を傾げるアテナをよそに、周りの人たちはこぞって参加の意を表し、板のようなものを持って海へと走っていった。
「さー……ひん?? 一体なんなのでしょう?? うーん」
しばらく考えながら様子を見ていると、どうやら
さーひん
というのは板の上に乗って遊ぶものらしい。見ているだけだとそうなのだろうが、実際はきっと難しいに違いないと思ったアテナは首を横に小さく振り、参加しない気持ちを全面に出していた。「きっと、わたしには難しいに決まってます。ええ、きっと……」
胸の前で力なく握った拳からは戦女神の面影は一切なく、ただの一人の女性だった。はぁと溜息を吐きながら空を仰いだアテナは、せっかく楽しむためにきたのにこんな気持ちになってしまったことが残念でならなかった。アテナはそんな難しいことにわざわざ挑戦しなくても……と自分に言い聞かせながら踵を返したのだが、そこでアテナは知人のある言葉を思い出した。いや、
思い出してしまった
のだ。「そういえばアテナってさ……戦いはすっごく上手なのに、それ以外は
ほんっとにポンコツ
だよね」ぽっ!!! ぽ……ぽん……こつ!!??
過去にそう言われてしまったことを思い出してしまったアテナは、次第に怒りに燃え始めさっきまで力なく握っていた拳に力をぐっと籠め、わなわなと震えた。
「ぽ……ぽんこつですって……いいでしょう……でしたら、あそこで開催してる……さ、さーひん? の大会に参加して活躍してみせましょう!! みてなさいよ……パラス」
サーフィンの催しものに参加させるきっかけを作ったと思われる人物の名前を呟きながら、アテナはずんずんとした足取りでサーフィン大会の受付へと向かっていく。その背後には物悲しそうに銀色の板─アイギスがふわふわと浮いていた。
「お! お姉ちゃん。サーフィンに参加するかい?」
「は……はい! わたし、さーひん、できます!」
顔を真っ赤にしながら参加の意を表したアテナに、受付担当の男性も嬉しくなり笑顔で応える。
「元気がいいね! 女性の参加者が少ないからとっても嬉しいよ! それで、ボードは持ってるの?」
「え? ぼ……ぼーど?? えっと……」
一気に挙動がおかしくなったアテナを見た受付の男性の顔は一瞬曇ったのだが、アテナの後ろでふわふわ浮いている銀色の板を見てにこりと笑うとさらさらと何かを書き、参加受付完了の旨を伝えた。
「はい。登録完了したよ! じゃあ、頑張ってね」
「え……あ、は、はい……」
アテナはふわふわ浮いているアイギスを胸に、海へと向かっていった。そして、その背後で受付担当の男性は小さく呟いた。
「あれ、兜なのかな? とらないの??」
サーフィン大会開始まであと僅か。緊張の余り何も声を発することができないでいるアテナに、インタビュー担当の男性が近づきマイクを近づけた。
「今の心境はどうですか??」
「……!!」
「目標はなんですか?」
「……!!」
「……が、頑張ってください」
アテナの無言の圧力に耐えかねた男性は、そういうのがやっとだった。やがてアテナの番になり、やり方がわからないまま手探りでアイギスを海面に浮かべふらふらとしながらも立ち上がることに成功。そして、そこからはアテナではなく、アイギスの出番だった。
「あ……あ、あ、あ、アイギス! お願いしまぁあす!!」
意思を持った銀色の板はふらふらなアテナのバランス感覚を自動で感知し、それを補正。アテナが着水しないようにきれいに滑って行った。
「あ、あ、あ、あ、あああああああ!!!」
うまく波に乗れたのだが、バランスをとるのに必死なアテナは楽しむどころではなかった。いくらアイギスがサポートをしてくれているからとはいえ、ある程度は自分自身でバランスをとらないといけない……気がした。
(わ……わたしだって、やればできるってところを見せるんですからね!!!)
がむしゃらにバランスをとりながら、海の滑っていくアテナにさっきのインタビュー担当の男性が再度近付き、今の気持ちを聞いてきた。
「今話しかけちゃダメですっ!!!」
必死さと怒気を含んだ言葉は、またもやインタビュー担当の男性を見事に退かせるといよいよゴール地点へとあと一歩のところまで来た。
「やった……アイギス。あと少しです! 堪えてください!」
アテナが必死に訴えるも、アイギスもどうやら限界に達したようでさっきまでの安定感が徐々に崩れ、アテナの足元がぐらついてきた。
「え……アイギス? アイギス? アイギスー!! わーーーーー!!!」
ざっぱーーーん
ゴールは目と鼻の先だったのだが、アイギスの出力不足およびアテナのバランス感覚不足により完走ならずという結果だった。アイギスを浮き輪代わりにしながら目の前にあるゴール地点を見るその目は何ともいえない愁いが込められていた。ちゃぷちゃぷと水音を聞いている横で何かが物凄い勢いで通り過ぎたのを感じたアテナは兜を抑えながら何が起こったのかを確認した。すると、人ではない生き物がゴール地点にいた。
「な……なんで牛がゴールしてるの……?」
ゴール地点にいたのは人ではなく、巨大な白い牛だった。それも絶妙なバランスを保つことができる牛……。自分がゴールできなかったこともそうだが、なにより人ではなく牛がゴールしていることにショックを受けたアテナはぶくぶくと海の中へと静かに沈んでいった。
(こんなの無理に決まってるじゃないですか。バランスのプロの人でないとできないのに素人のわたしができるわけなんてなかったんです。わたしってほんとにぽんこつだったのですね……ようやくわかりました……パラス、あなたの言う通りでした)
次にアテナが目にしたのは、ビーチの一角にある救護室の天井だった。そして、見回りにきた看護師が意識を取り戻したアテナの顔をみてほっとした様子で口を開いた。
「よかった。あなた、溺れてたのよ。ほかにどこか痛みとかはないかしら」
ベッドから見える範囲での痛みはなく、その旨を伝えると看護師はうんと頷きもう大丈夫と言った。
「怪我がなくてよかったけど、起き上がるときはゆっくりね。それと、無理しないこと。わかった?」
看護師からの言葉にアテナは何度も頷き、ゆっくりと上体を起こした。少し頭がふらふらしているが歩くには支障はないと判断すると、ベッドから降りて看護師にお礼を言ってから救護室を後にした。
「はぁ……やっぱりわたしはぽんこつだったなんて……はぁ」
ぽんこつではないと証明しようと奮闘したが、それが叶わなかったことが余程悔しかったアテナは、ぐっと拳を握り空高く突き上げた。
「見てなさいよ。きっと、またあなたにぽんこつだなんて言わせませんから!!」
悔しかった……がしかし、アテナの胸には「挑戦できた」という充実感で満たされており、すっかり立ち直ったアテナはサーフィンの練習をするために、銀色の板を持ってまた海へと飛び込んでいった。きっと上手にできると自分に何度も言い聞かせながら、練習は日が暮れるまで行われた。そして、その練習風景をただ静かに、白色の牛が見つめていたのをアテナは知る由もなかった。