すいしょうれいのまどれーぬ【神】

文字数 2,647文字

 朝日がぼくの瞼をつついているのに気が付き、ゆっくりと目を開けた。軽く体を伸ばして辺りを見回すと……何かが変だった。何がと言われれば少し難しいけど、ぼくが昨日までいたギルドとは明らかに変だった。何て言えばいいのかな……妙にあちこちがカクカクしているというか、小さな点を何個も使って表現されているというか……そんな世界だった。
(あれ おかしいな)
 ぼくが声を出そうとしても、なぜか声は出ずなぜか四角い窓の中に文字がぽつぽつと打たれていった。ますますどういう状況なのかがわからなくなったぼくは、洗面や着替えを済ませギルドで事情を聴いてみることにした。

 ギルドへ向かう途中、何人もの冒険者とすれ違ったけどその人物もぼくと同じで小さな点をいくつも使って表されていた。歩くときに妙な音も出てたけど、ぼくは気にせずギルドのクエスト受注カウンターに座ってる事務員に声をかけた。
「はい なんのごようですか」

▷いらいをうける
 ほうこくをする
 はなしをする
 おわる

 突然見慣れない窓の中に選択肢がいくつか浮かんだ。そしてぼくは窓の中にある選択肢のことしか聞くことができないとわかると、今はどういう状況かを確認するため「はなしをする」と強く念じた。すると、事務員はカクンと首を落としながら頷き「かしこまりました」というと、妙な音と共に文字がずらずらと流れた。
「ここは ぎるどうけつけです ぼうけんのまえに かならずたちよってください」
 何回か聞けばぼくの聞きたいことに答えてくれるのかなと思い、何度か同じことを聞いてみたけど、結局ぼくの聞きたいことには答えてもらえず何度も同じ台詞を繰り返すだけだった。仕方なく、「おわる」と念じると「ごりよう ありがとうございます」と無機質な文字が流れて終わった。ここでは有益な情報が得られなかったけど、ほかであればなにか情報を得られるかもしれないと考えを切り替え、ぼくはギルドの掲示板を見てみた。今の状況を変えられるような依頼はない代わりに、ひとつ気になる依頼があった。
「おねがい たすけてください」
 短い文章だけど、それだけでなんだか危機迫っているという感じがしたぼくは、その依頼書を持ってギルド受付へと提出した。
「いらいを うけるのですね」

▷はい
 いいえ

 また小さな窓の中に選択肢が表れ、二つしか選べない状況にぼくは「はい」と強く念じた。すると事務員は「かしこまりました いってらっしゃいませ」と言い、小さな窓は閉じた。これで依頼を受けたことになったのだとわかったぼくは、とりあえず依頼書に書かれている場所へと向かった。そういえば今更なのかもしれないけど、移動をするときはなぜか直角にしか進めなくてぼくは何とも言えない変な気持ちになった。
 依頼書に書かれた場所に到着すると、両手で顔を覆っている女性がいた。ぼくはその女性に近付き声をかけようとすると、またあの小さな窓が表れた。

 ▷はなす  しらべる
  どうぐ  でっき
  つよさ  ずかん

 今度はさっきよりも項目が多いことにびっくりしながら、ぼくは落ち着いて女性に向かって「はなす」と念じると、女性はゆっくりと顔をあげた。
「あ あなたさまは いらいを うけてくださったかたですか」

▷はい
 いいえ

 ぼくは迷わず「はい」を選ぶと、女性はぱっと顔を明るくさせ両手で口元を抑えながら喜んだ。そしてその女性は「うんでぃーね」と名乗った。ウンディーネ……? あれ、どこかで聞いたことがあるような。それにその恰好もどこかでみたことがあるような……だけど、うんでぃーねはぼくのことを全く知らない様子で話を進めた。
「どうか おたすけください このちかくにあるいずみを どくせんしようとする わるいものがいるのです どうか おたすけください」

▷はい
 いいえ

「ああ ありがとうございます ゆうしゃさま」
 ゆ、勇者様? どういうことなのだろうと聞こうとすると、近くの茂みからがさがさと音がした。ぼくは茂みに体を向けるとそこから人影が飛び出してきた。

「おまえは なにものだ たちふさがるのなら ようしゃはしない わがなは がとう」
 がとうと名乗った竜の侍は、腰から刀を抜くとぼくにめがけ振り下ろしてきた。とっさに横に移動して避けることができたけど、どうやって戦えばいいんだろう。
「ゆうしゃさま 『でっき』をえらんでくださいませ」
 うんでぃーねがでっきにカーソルを移動させ、決定させるとぼくの手元にいつも使ってるデッキ板が現れた。
「でっきからこまをいちまい えらんでくださいませ ゆうしゃさまなら きっと」
 ぼくは無作為に一枚選んで、目標を「がとう」に合わせてからこまを投げた。煙の中から現れたのは博学多才な小さな少女─メーティス……なんだけど、メーティスも「めーてぃす」と表示され、体はやっぱり小さな点をいくつも集めてできたようなものだった。
「めーてぃすのちから みせるのです」
「ぶっひ」
 めーてぃすが豚のお供─とんすけをむんずと掴み、がとうに向かって投げつけた。真正面から受けたがとうは小さな悲鳴を発したあと「むねんだ」と言い、消えた。その場からがとうが完全に消えると、短い音楽が流れた後にまた窓が表れた。

 3 のけいけんちをてにいれた
 7 ごーるどをてにいれた

 文字が一通り流れると、窓は自動的に消滅。その後、うんでぃーねは小さく上下に動きながら「さすが ゆうしゃさまです」と喜んでいた。ぼくはあまり実感がないまま、うんでぃーねに事情を聞いてみた。すると、うんでぃーねは表情を曇らせながら説明を始めた。
「わたしのすんでるいずみのみずは きずをなおすことができるみずなのです さいしょは もりにすんでるなかまできょうゆうしていたのですが いつしかうわさがひろがってしまい それをあくようしようとする じんぶつがあらわれました わたしもいずみをまもろうとたたかっていましたが ちからがおよばず というじょうきょうです ゆうしゃさま どうか おちからをかしてください」

▷はい
 いいえ

 うんでぃーねから事情を聞いたぼくは、放っておくことができないと思い力強く「はい」と返事をした。するとうんでぃーねは何度も何度も「ありがとうございます」とお礼を言うと、うんでぃーねは杖を力強く握り「では ゆうしゃさま ともにまいりましょう」と言うと、また短い音楽と共に小さな窓が表れた。

 うんでぃーね がなかまにくわわった

 こうしてぼくは、不思議な世界での冒険が始まった。
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