ハイカラなけえき? ふわふわクリームのブッセ【魔】

文字数 1,442文字

 高天原。それは和の国の神々が住まう場所と言われている。そんな高天原にて頬を膨らませながら空を飛ぶ少女がいた。栗色のロングヘアーに山伏装束を身に着け、手には羽でできた扇をもっている。少女の名前は天音(あまね)。高天原に住まう神の一人ではあるのだが……今はどうも事情があるようで、天音は単独で空を飛んでいた。
「もうっ! いいじゃない。一人で出かけたくなる時だってあるんだからっ! ぷんっ!」
 どうやら一人で下界へ出かけようとしたところ、年長者に見つかり叱られてしまったようだ。本来、烏天狗は群れをなして偵察などを行うのだが、今の天音はただの脱走という扱いになってしまっている。
「……いつになったら自由にお出かけを楽しめるのかしら……」
 一抹の不安が胸で膨らむのがわかった天音は、首をぶんぶんと振り嫌な感情を追っ払った。今は一人でいる時間を大切にしなきゃと気持ちを切り替え、天音はふととある地域に変わった衣装を売っているという話を思い出し、せっかくだしその地域へと行ってみることにした。

「へぇ……いろいろなものが売ってるのね」
 今まで見たことのない衣服をはじめ、帽子や靴、カバンなどがきれいに磨かれたガラスケースの中できらきらと輝いていた。中でも天音の目を引いたのはガラスケースの中で人形がきていた自分たちの住んでる世界では絶対に見ることのないなんとも煌びやかな衣服だった。
「わぁ……きれい」
 羽のついたふんわりした帽子、赤を基調とした「わんぴぃす」と書かれたプレート。やや高めの「ぶーつ」という靴。この組み合わせにびびっときた天音は、さっそくお財布を取り出し相談を始めた。
「えっと……うん。なんとか間に合う!!」
 天音は気になった帽子、わんぴぃす、ぶーつを試着室で試着してみると、さっきまで来ていた白装束の自分が嘘みたく晴れやかな自分が鏡に映っていた。天音は鏡の前で何度もくるりと回ってみせるとそれだけうきうきしている自分に気が付いた。
「これは……なんて素敵なのかしら!」
 すっかり気に入った天音は一式購入し、うきうき気分で自分の世界へと帰ると迎えてくれた友達からは興味の眼差しで見られた。
「どうしたの天音。その恰好。なんだか天音なんだけど……天音じゃないみたい」
「えへへぇ。こんな格好もいいんじゃないかなって思ってね。どうかな?」
「とっても素敵! ねぇ、あたしにその衣装について話してくれない?」
「えー、ずるい! わたしも知りたい!!」
「いいわよ。みんなにお話するからそんなに焦らないの!」
 すっかり興味を持った天音の友達とは反対に、年長者の目は冷え切った眼差しを向けられていた。
「天音。お前、その恰好はなんだ。それに、さっきまで着ておった装束はどうしたのだ」
「もう。おじいさま。装束だけがしきたりではありません。これからは、こういった格好してもいいのではありませんか?」
 年長者─天音の祖父は呆れたように肩を落とすと、天音はそれを気にしない様子でぷいと背を向け友達たちと衣装について語り合った。
「なんかこの色使い、素敵よね。わたしもこういうのに挑戦してみようかしら」
「言われてみれば……この装束って質素なのよね。遊び心が欲しいって思ってからちょうどいいわ。天音、そのお店に今度連れてって!」
「みんなでいきましょ! これからは

センスの

ス天狗。略してハイカラをみんなで目指しましょう♪」
 こうして天音は新たなファッションリーダーとなり、烏天狗界のスタァを目指していくのであった。
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