スイートチョコとイチゴのハニーパンケーキ【神&竜】

文字数 2,606文字

 珈琲の香り漂う店内は非常に落ち着いており、壁にはいくつかの肖像画だったりどこかの景色を描いたものだったりが飾られていた。カウンター席だけではなく、少数ながらボックス席もあり一人でも多人数でも楽しめる。メニューも種類豊富で、子供から大人まで幅広く楽しめるものを取り揃えており談笑に興じる場としてちょっとした人気の喫茶店だ。

 カランカラン

 軽快な音のドアチャイムが店内に鳴り響く。現れたのはこの喫茶店の近くの野球チームの応援を担当している少女─フェリタとマスコットのクマ─プティだ。どうやら今日はオフのようで、いつもは野球チームのユニフォーム姿なのだが、今日は可愛らしい私服だった。相も変わらず元気いっぱいに珈琲を入れているマスターに挨拶をし、いつもはカウンター席なのだが、今日はボックス席の方へ歩いていき、腰を下ろした。メニューを開いて楽しそうに鼻歌を歌いながら、時折プティと「何にしようか」と話し合っている様子が窺えた。
 しばらくしてまたドアチャイムが聞こえた。次に現れたのは金色の髪を両サイドで結び、フェリタと同じくらいの少女─ハピアとそのお供の小竜─ソエル。ハピアが店内に入り周りをきょろきょろとしていると、ドアチャイムの音に気が付いていたフェリタが顔を覗かせた。
「あー! ハピアァ! こっちこっち!」
「あ、フェリタ! 先に来てたんだぁ。ソエル、行こっ!」
「ワォウ!」
 ぱたぱたと走るハピアとソエル。フェリタのいる席に腰を下ろすと、一緒にメニューをにらめっこしていた。
「ハピアは何にする?」
「えーっとねぇ……うーん。どれにしよう。迷うなぁ。フェリタは決まったの」
「えへへ。まだ決まってないんだぁ」
 プティもソエルもこくこくと頷き「まだ決められない」といった表情をしていた。しばらくにらめっこが続いた後、二人は顔を見合わせ「うん」と頷いてから二人元気よく「すいませーーん」と声をあげた。珈琲を入れていたマスターは手を止め、二人のいる席へと向かった。
「お待たせしました。ご注文をお伺いします」
「あたしはこれと、これ!」
「あ、あたしも同じ!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 メニューを閉じ、ラックにしまうとフェリタは「楽しみだねー」とプティに投げかけた。プティも待ちきれないのか、両手をまっすぐ上にあげて喜びを表現していた。それと同じように、ハピアもソエルも待ちきれないとばかりにそわそわしだした。まだ注文したばかりだから来るのにはもう少し時間がかかるというのだが、この時の気持ちはなんとなくわかる。

「お待たせしました。オムライスとパンケーキのセットでございます」
「「うわぁあ! 美味しそう~~!」」
「お飲みものもご用意してよろしいですか?」
「はい!」
「かしこまりました。すぐにご用意してまいります」
 運ばれたのは、ぴかぴかに輝く金色の卵がふんわりと山を形成したオムライスだった。付け合わせのニンジンのグラッセ、小ぶりの粉吹き芋からも仄かに湯気がのぼっていた。
「飲み物が来るまで、もう少しだけ我慢だね」
「うん。我慢! って、ソエル! まだだめよ!」
「ウォア?」
 先に料理に手を付けそうなソエルをなんとか引っぺがし、ふうと息をついているとマスターが緑色のしゅわしゅわした液体を持ってきてくれた。それも、丸くて白くて冷たいやつものっかったあの飲み物。
「お待たせしました。クリームソーダーをお持ちしました」
「ありがとうございます!」
「ごゆっくりどうぞ」
 料理が出そろい、二人と二匹(?)はそれぞれ顔を見合わせグラスを合わせた。
「では、いただきます!」
 フェリタとハピアはオムライス、プティとソエルはパンケーキをぱくり。みんな揃って美味しい魔法にかかり、笑みが零れていた。
「「おいひ~!」」
「ん~~!!」
 ふわっふわの卵の山の中にはたっぷりのケチャップをまとった粒揃いのお米。そしてみじん切りにされた種類豊富な野菜。それと、適度な歯ごたえを残した鶏肉。すべてが口の中で一緒になり適度な酸味と甘みが融合し、幸せの味がふわりと広がる。付け合わせの人参のグラッセも、甘すぎない味付けになっており普段は得意ではない野菜でも、ここの人参なら食べられるという魔法にかかったフェリタとハピアはぽりぽりと音を立てながら楽しんでいた。
 プティとソエルも、マスターの心遣いで食べやすい大きさに予めカットされているパンケーキを美味しそうに頬張ると、フェリタとハピア同様に美味しいという感情を全面に出して喜んでいた。プティは添えられていたハニーシロップをかけて食べると、また幸せそうな顔になっているのが気になったソエルも、ハピアにお願いをしてハニーシロップをかけてもらってから口に運んだ。
「グォオ!」
 ソエルも美味しいというのを体で表現すると、フェリタ、プティ、ハピアがくすくすと笑った。食事を進めていき、それぞれが最後の一口になったところでフェリタが「せーのっ!」と掛け声をかけるみんな一斉に最後の一口を楽しんだ。名残惜しそうにしながらも楽しめたことに感謝をしつつ、各々クリームソーダーに手を伸ばしストローを挿した。ほどよい刺激の炭酸とバニラのまろやかさが溶け合い「飲むデザート」という形が誕生しつつあった。
「えへへ。あたしは先にアイスクリーム食べちゃおう」
「あたしは……最後に食べる!」
 それぞれが思い思いに食を楽しんでいると、氷の乾いた音がグラスの中でカランと鳴った。これで本当に最後。まるでそういわれているかのような音に、一同は少しだけしゅんとした。
「ま、また一緒にご飯食べよ? ね?」
 フェリタがそういうとハピアは小さく頷いた。今日はもう終わってしまったが、また会って食事をすればいいのだ。そして、会ったときに会っていなかったときにあった話をして盛り上がればいいのだ。
「ハピア、また一緒にご飯食べよ! 約束!」
「……うん!」
 フェリタとハピアは指切りげんまんをし、次も一緒に食事する約束をし笑顔になった。プティとソエルも言葉にはできないが「また会おうね」と訴えていた。簡単に食器を集め、回収しやすいようにまとめてからお会計を済ませた二人は料理を作ってくれたマスターにお礼を述べると、マスターは深々とお辞儀をして見送ってくれた。

 カランカラン

 お店を出るときのドアチャイムは、ほんの少しだけ寂しさを感じるのは気のせいだろうか。
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