じっくり溶けるアイスドロップ【魔】

文字数 822文字

「……誰もいないわね」
 周囲をきょろきょろと見まわしながら一人の少女が裏門へと走っていた。抹茶のような深い緑色のロングヘアーをサイドで結び、少し眠たそうな瞳は裏門の先に映る生き物へと向けられていた。少女の名前はエリーゼ。生まれたときから霊に対する力を有しており、時折彼女の周りを白い塊がふよふよと浮いているのを目撃されている。
「今日は……いるわね」
 丸くなって眠っていたり、大きな欠伸をしていたり、エリーゼに近づいて甘い声を発している生き物─猫を抱きかかえ頭を撫でた。
「遅くなってごめんなさい」

 なーーん

「今日ね、大変だったよ。聞いてくれるかしら」
 優しく猫の頭を撫で、今日学園内であった出来事を話し始めた。日直のやることが多かったり、授業の度に号令をかけたりするのが大変だったりと小さな不満を猫たちに打ち明けた。ちょうどお日柄もよいのか、複数いる猫のうち何匹かはエリーゼの膝の上でごろごろと喉を鳴らしながらひと眠りしていた。
「……学園生活というのも、中々いいわね」
 最初、入学することに対して否定的だったエリーゼは、何がきっかけは不明だが考えを改め入学すると決め、今に至る。学ぶことや他の人と接することに不慣れなエリーゼだが、今では少しずつ慣れ始めている。というのも、今、ここにいる猫たちのおかげで通学が楽しいとエリーゼは言っていた。
「もうそろそろ帰らないと。ごめんね。また、明日来るから」
 そう言いながらエリーゼは気持ちよく眠っている猫たちを起こさないよう、ゆっくり下ろすと鞄を持って猫たちに手を振った。前までは少し暗い雰囲気だったエリーゼだったが、猫たちとの接触によりほんの少し表情にゆとりが生まれていた。そのお陰なのか、他の生徒から声をかけられることも多くなったエリーゼはあたふたしながらも、必死にその人とコミュニケーションをとろうと頑張っていた。
「いつもありがとう。猫ちゃんたち」
 そう呟くエリーゼの口元は嬉しそうに持ち上がっていた。
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