スイーツドリームパルフェ【魔】

文字数 2,192文字

 あてもなく町を歩いていたら、突然見知らぬ女の子と出合い頭にぶつかってしまった。強い衝撃に頭がくらくらになっていると、女の子の方からぼくに駆け寄り「大丈夫?」と声をかけてくれた。ぼくはその手を取り、立ち上がると女の子は「ごめんなさい」と深々と謝った。ぼくもよそ見をしていたかもしれなかったし、ぼくも女の子に謝ると「そんな。あたしが悪かったんです」と涙目になりながら何度も何度も謝った。ぼくはもういいというと、少女はにこっと笑いぼくの手を取ってぐいと引っ張った。「あたし、リュレーミュっていうの。ぶつかったお詫びということで、美味しいスイーツがあるお店があるから案内させて。ね?」
 屈託のない笑顔で言われてしまっては断ることなんてできない。ぼくは是非というと、リュレーミュは「きゃー」と喜びながらぼくの手をさらに強い力で引っ張った。ぼくはその力に抗うことができずリュレーミュにされるがまま引きずられていった。
 ラズベリーのような赤いショートヘアー、エプロンドレスのようなちょっとフリルのついた洋服を着ていて一瞬、どこかのケーキショップの店員なのかなと思ってしまうくらい可愛らしい装いだった。それにリュレーミュといると、ケーキのような甘い香りがずっとぼくの鼻をくすぐり続けていた。ぼくはリュレーミュに聞いてみると、リュレーミュは「あ、気付いちゃった?えへへ」と笑いながらキャンディーケーンを取り出し、くるくると回すとリュレーミュの周りに美味しそうなお菓子の影が現れた。こっちはショートケーキ、こっちはロールケーキと影とはいえ、匂いがはっきりとわかるくらいにしっかりした影だった。
「えへへ。驚いた?」
 リュレーミュはくすくすと笑いながら、次々に新しいお菓子の影を作っていく。その度にぼくも嬉しくなり、だんだん声が高くなっていった。そんなぼくの声を聴いたリュレーミュは口をきゅっと結んだままぼくをじっと見つめていた。あ、ぼくの声、気持ち悪かったかな。
「ううん。喜んでるあなたの笑顔……とーっても素敵ね」
 予想外の返答にぼくは呆気に取られていると、リュレーミュはまたぼくの手をぐいと引っ張り目的のケーキ屋へと入っていった。

 たくさんのケーキをご馳走になり、ぼくはちょっと申し訳ない気持ちでいるとリュレーミュは首を横に振って答えた。むしろ、リュレーミュはますますぼくのことが気に入ったらしく、また会いたいと言った。ぼくは特に予定もないしいつでもいいよと返すと、リュレーミュは顔に手を当てて喜んでいた。
「あなたって本当に素敵ね。あたしの運命の人……なのかな」
 運命の人……か。もし、こんなぼくにそんな人がいるのならって考えてたのだけど、リュレーミュはぼくの手をぎゅっと握り笑った。
「また一緒に遊ぼ♪」
 これがぼくの破滅への道だと誰がわかるだろうか。

 あれから数日。気が付くとリュレーミュはぼくのすぐ近くにいる。通学中や帰宅途中、はたまたプライベートまで。最初は嬉しかったけど、徐々にリュレーミュの行動はエスカレートしていいった。
「おかえりなさい♪もう、帰りが遅いから心配したじゃない! 今度からはあたしも連れてって♪」
 帰宅して早々、こんなことを言われた。ぼくは講義で疲れているのに……。
「よそ見してなかった??」
 会いたくもなかったのに、勝手に付いてきて景色を見ていただけなのにこんなことを言われた。段々といらいらしてきたぼくは、ついにリュレーミュに対し怒った。いい加減にしてくれと。これで少し大人しくなってくれればいいのだけど、現実は真逆だった。
「あなたの怒った顔……かっこいい。あたしの運命の人、だぁい好き♡」
 反省するどころか、ますますその気にさせてしまいぼくは後悔した。そして、いつ何時もどうやったらリュレーミュの興味を落とさせるかを考えていた。

 考えた結果、リュレーミュを構わないということにした。そうすれば、いつかぼくに対して興味を抱かなくなるだろうと。彼女から話かけられても聞いていないふり、見えないふりをし続けていれば大丈夫だろうと思った。そしてそれを続けて数週間。ぼくは自宅のドアを開けると、そこには……。
「おかえりなさーい。疲れてるでしょ? 甘くて美味しいお菓子、たぁっくさん用意してるわよ」
 目の前にはリュレーミュがいた。もうぼくの我慢は限界を超えてしまい、リュレーミュに対し、今までに出したことのない声で怒鳴った。

   いい加減にしてくれ。 もうぼくは限界なんだ。 放っておいてくれ。

 一つずつはっきり聞こえるように言うと、リュレーミュはぼくに近づいてきて手を握った。
「あなたはあたしの事、好きだよね? 愛してくれるでしょ? 好きって言ってよ……ねぇ、いいなさいよ」
 いつも聞いてる甘い声から突然、低く重みのある声へと変わった。そしてぼくの目をじっと見つめているリュレーミュの目は虚ろだった。しばらくぼくの手を握ったあと、突然物凄い力で僕の手を握ると、ぼくはあまりの痛さに叫んだ。
「目障りなのよっ!!!」
 痛みに苦しんでいるぼくの目に映ったのは、キャンディーケーンを思い切り振りかざし怒気に染まったリュレーミュの顔だった。何度も何度も何度も何度も殴られ、ぼくの意識はすうっと遠のいていくのが分かった。視界がぼやけ最後に見たリュレーミュの顔は、どこか満足そうに微笑んでいた。
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