クリーミー生キャラメルパルフェ スイートパンプキン添え

文字数 3,402文字

 秋風感じる今日、ここ─オセロニア学園でも秋の恒例行事、体育祭が行われようとしている。普段は勉学に勤しむ生徒も気持ちの良い青空の元、元気に体を動かし汗を流す。時には協力をしてまたある時はライバルとしてグラウンドに立ち、それぞれがもてる個性を発揮しチームを勝利へと導く。
 文句なしの天気に校長であるケットシーも髭の手入れをしながら、満足そうに空を仰ぐ。
「今年も絶好の体育祭日和にゃ! どんなことが起きるか……んふふ……今から楽しみにゃー!」
 いてもたってもいられなくなったケットシーは、校長室を飛び出し準備途中のグラウンドへと駆けていた。

 全校生徒がグラウンドに集まり、あとは校長の挨拶が始まれば体育祭は開催されるのだが……その肝心の校長が時間になっても現れないことに職員はざわつきはじめていた。いつものことだろうという先生もいれば、どこかで倒れているのかもと過度に心配をする先生と様々だが生徒はどちらかといえば前者が多数だった。いつも気まぐれなことは今に始まったことでないと、学園生活で身にしみてわかっている。
 そこへ風紀委員長であるミカエルが校長を引率し、そのままマイクを持たせて挨拶をお願いした。校長はトントンとマイクを叩き、スイッチが入っていることを確認すると、軽く咳払いをした。
「えっほん! えー、本日はお日柄もよく絶好の体育祭日和ですにゃ。今まで練習してきた成果をじゅーぶんに発揮して、怪我のないよう楽しんでください! ただいまより、オセロニア学園体育祭を開催するにゃ!!」
 こうして校長の宣言が行われ、一年に一度の体育祭が開催された。

「だ……第一種目は、か……借り物競争です……。しゅ……出場する生徒は入場門まで集まってください……」
 放送委員会のファイロが原稿を読み終えると、彼の相棒である小さな光鳥が優しく寄り添う。彼は極端に恥ずかしがり屋なのだが、今回のプログラムアナウンスに志望したことには放送委員会全体で驚いたとクラスメイトが言っていた。何があったかまでは定かではないのだが、彼自身が志望したのであればそれを尊重させなくてはという思いで、彼を抜擢した。まだたどたどしいところはあるにせよ、これは彼にとってきっといい経験になると誰もが信じていた。
 彼のアナウンスに続々と参加する生徒が集まる。今か今かとうずうずしている生徒の中でもひと際真剣な眼差しでグラウンドを見つめる生徒がいた。それは弓道部所属のウルだ。昨年、彼の居住している森で小火があり、それの対応をしたため参加ができなかったのだ。何より森の動物たちを愛している彼にとっては最優先事項であるため、クラスメイトに報告しすっ飛んで行ったらしい。今年は物騒な報告は届いていないため、参加ができることとなり人一倍気合が入っている。
「る……ルールを説明します。グラウンドに持ってくるものが書かれた札があります。生徒のみなさんは一枚選び書かれたものを持ったままゴールにいる係員に提示してください。係員の許可が出ればゴールとなります。札の交換はできないので気を付けてください。周りの方々も積極的に協力をして競争を盛り上げてください。それでは、生徒の皆さんは入場してください」
 たくさんの拍手の中、生徒はグラウンドに入場する。賑やかになるグラウンドに反し、ウルは気持ちを落ち着かせ一つの札に意識を集中させる。
(狙った獲物は逃さん……)
 これと決めた札を凝視し、スタートラインへ。そこでは実行委員会のワスピアが空砲を発射する準備を進めていた。口癖が「刺すわよ?」と蠱惑的かつちょっと危険なお姉さんではあるが、根は真面目で世話好きのハチ族の彼女。目が合う生徒にウインクをしてみせたりとおふざけをしながら準備が整うとピストルを空高く挙げて発した。
「いちについてぇ~ よぅい どぉん♡」
 開始を告げる空砲が放たれると、生徒は一斉に札へと集中する。ウルが欲しがっている札には幸いにも誰も手を付けておらず、仕留めるには十分だった。
(貰った……っ!!)
 ウルは得物を仕留めたときと同じ目で札をめくると、そこには漢字一文字でこう書かれていた。

  牛

「……牛……だと???」
 シンプルなお題といえばシンプルなのだが……いかんせんシンプルすぎるのもいかがなものか……。ウルはお題を見てしばらくその場で考え込んでしまった。考え込んだ挙句、ウルは一つだけ心当たりがある場所へと向かうべく、グラウンドから出ていった。
「確かこの辺りなのだが……」
 弓道場の近くにある飼育小屋の片隅にそれはいた。牧草を美味しそうに食(は)んでいる牛─ナンディ。ナンディこそこのお題の正解だと睨んだウルは動いてもらうようお尻を押すもナンディは牧草を食むことで忙しいのか全く動く気配がない。何度押してみるもびくともしないナンディにウルは頭を抱えた。
「この牛……動く気配がないな……どうしたものか」
 牧草を食み終えたナンディは、動いてくれるのかと思ったのだが今度はごろんと横になってしまい、動いてくれる気配が完全になくなった。どっしりとした体からは「動きたくありません」と発しているようにも見えるが、ここはナンディに動いてもらわないといけないので色々と工夫をしてナンディを動かそうと奮闘する。
「牛よ……動いてくれ。借り物競争で勝つにはお前の助力が必要なんだ……」
 ウルの願いもむなしく、ナンディは寝息を立て始めた。万事休すと思ったとき、ウルに一つのアイデアが舞い降りた。それはクラスメイトに協力を仰ぐ形になるが……致し方ない。
「仕方ない。彼の協力を仰ぐとしよう」
 ウルは一旦飼育小屋から離れ、協力をしてもらうクラスメイトを探し始めた。その協力をしてもらうクラスメイトはいとも簡単にみつかり、ウルは申し訳ないと思いながら彼を気絶させてから飼育小屋で細工をし、ナンディの前にぶら下げた。
「……っ!!」
 浮遊感に気が付いたクラスメイト─ジャックランタンは足をばたつかせ、どういうことかと暴れる。それもそのはず。彼が気絶している間にロープでぐるぐる巻きにし丁度良い長さの棒の先に括り付けてあるのだから。そして、その端をウルが持ちナンディに乗りぶら下げるとどうなるか……。結果は言うまでもない。
 彼から放たれる甘い匂いに目が覚めたナンディは、よだれを垂らしながら立ち上がった。すかさずナンディに跨り棒の端をしっかりと握る。不安定な揺れに加えナンディにいつ齧られるかわからない恐怖に怯える彼をなだめながらゴールのある方向へと棒を動かす。
「辛抱してくれ……ランタン君。ゴールまで一直線だ」
 かくしてぶら下げられたランタン君と食欲のみで動いているナンディは、ウルの勝利へと
貢献するのであった。

「まだ誰もゴールしておりません。一体誰が一番に……ああっと! 校舎の奥から何かが走ってきます!」
 すっかりアナウンスにも慣れたファイロが、突然大きな声をあげた。それはナンディに跨って颯爽と駆けるウルの姿だった。その先には暴れるランタン君も一緒だが、周りの人たちはそんなことはお構いなしに現れたウルに歓声をあげた。
「札に書かれていたのは何だったのでしょうか……今、係員がチェックをしています」
 係員が入念にチェックをし、その結果は許可とのことだったのでウルが借り物競争一位を取ることができた。歓声を受けている中、ウルはさっそくランタン君の縄を解き一位を取れたことの報告と共に深く謝罪をした。
「ありがとうランタン君。君のおかげで一位が取れた。それと……大変申し訳ないことをした」
 ウルはランタン君の前で跪き、深く頭を下げた。きちんとした理由を知ったランタン君はそういうことかと頷き、ウルを許した。ランタン君がぴょんぴょん跳ねて喜んでいる姿を見たウルは今度、ウルの住んでいる森へ招待するというとランタン君は更に嬉しそうに跳ねた。その頃、ナンディはグラウンドから少し離れた場所で日光浴を始めていた。
「続いてのレースは、教職員による借り物競争となります! 参加される教職員の方は入場門までお越しください!」
 時間はかかったものの、借り物競争生徒の部は大盛り上がりで幕を閉じた。昨年、参加できなかったウルの表情はとても晴れやかだった。
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