トウモロコシのクレープ

文字数 1,628文字

 あ、はい。わかりました。

 でも、その前にちょっと……ちょっとだけいいですか。

 ありがとうございます。

 ふぅ……たった三十分の集会が一時間以上もかかるなんて思ってもみませんでした。
わたし、トゥールラって言います。一国の王女……なのですが、どうやらわたしは偉い身分にいるようです。はい。でも、わたしはまだちびっ子なので実際はマスコットのようなもんです。
 わたしのお父様はとても偉かったみたいなのですが……残念ながらわたしにはその記憶はなく、今あるのはお父様の形見のこの金色に輝く槍だけなのです。お父様はこの槍でこの国のみんなを守っていたのかと思うと……なんだかとても嬉しい気持ちになるのです。はい。

 さっき、わたしのお付きの人に断ってちょっと外の空気を吸いに出たいと申し出をしました。わたしを一目見たいという方はまだまだたくさんいるようなので、ちょっとだけ休憩をもらいました。わたしを見に来てくれた人の中には、うれしさのあまりに泣き出す人もいるようでして……それはうれしいのですが……まだわたしの役目がはっきりとしていないので、そういうのってもっと時間がかかればわかるものなのでしょうか……。まだまだ勉強が必要、ということですね。

 それと、お父様のお付きだった人から聞いた話なのですが……どうやらわたしにはとてつもない力が眠っているそうです。それも、お父様をも上回る破壊の力だそうです。わたし自身、どれほどの力なのかもわかっていないのですが、お付きの人には「念じるな」ときつく言われています。はい。

 念じるな

 簡単なことなのかもしれませんが、これが中々難しくてですね。はい。例えば食べてるときや歩いているとき、何気ないことをふと思っていると、それは念じていると認識してしまうようで、廊下にあった大きな瓶を何度も割ってしまいました。他にも額縁やゴブレットなど……数えたらきりがありません。はい。なので、いつもはその念じる力を封じるアンクレットをしているのですが……これもたまに壊してしまうほどの力みたいなので、わたしの力はそのくらい強力だそうです。お付きの人に聞いたことがあるのですが、もし、わたしが本気で念じたらどうなるのかと。すると、さっきまで穏やかだったお付きの人の顔が険しくなり、わたしの両腕をがしと掴み震えた声でこう答えました。
「もし、そのようなことをした場合は……この世界がなくなることと思ってください。いいですね」
 この世界がなくなる。そのとき、ようやくわたしは自分に宿っている力の強大さを知りました。強く念じたら世界がなくなってしまうと言われているというこの力は……お父様のように悪いものをこらしめるために使いたいです。
 わたしのお父様は念じる力で悪者をやっつけたと聞いています。なので、わたしもそのお父様から受け継いだ力を正義のために使います。なので、破壊するのはこの世界ではなく、この世界を滅ぼそうとする悪を破壊しますので。はい。なので、ご安心を。
 それに、わたしは今のこの生活が何気に気に入っているのです。お父様はいないけど、お付きの人たちはみんなよくしてくれるし、わたしに会いに来てくれるひとたちにももっともっと会いたい……それと、最近始めた文通も楽しいし……こんな素敵な世界を壊そうとする悪者がいるのなら……わたしは躊躇わないよ。はい。

 お父様。あなたのような立派になれないかもしれませんが、お父様が守りたかったこの世界を今度はわたしが守っていきます。このわくわくに満ちた世界を……壊させたりしません。

 あ、そろそろ戻らないといけませんね。あまり長く待たせるのも悪いですし。ではでは、ちょっとした気分転換もできたことですし、戻ります。それにしても……今日も暑いですね。涼しくならないかなぁ……。


 ぱりんっ!!!

 近くで何かが割れる音が聞こえてしまったような……はい。すみません。今度、新しい何かをお持ちしますので今日は許してください。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み