めらめらアップルフィンガーパイ【竜】

文字数 1,313文字

「マッチぃ。マッチいりませんかぁ?」
 しんしんと雪が降る中、赤いずきんを被った少女が懸命にマッチを売っている。道行く人に声をかけるも素通りされたり、舌打ちされたりと反応は様々ではあるが少女は諦めずにマッチを売るために声かけを続けている。
「マッチ。いりませんか?」
 少女の名前はマナリア。今は訳あってマッチを売り続けている。雪が積もった赤いずきんを振るい足元に落ちる大きな塊を見たマナリアは健気な表情から一遍、目を険しくさせながら大きく舌打ちをした。
「あぁん。もうなんなのよ。マジでさっきの感じ悪っ!!!」
 素足で雪の塊を何度も踏みつけると、鼻息を荒くさせながら空を仰いだ。忌々し気に空を睨んでも、白い綿は止まずに降り続いている。ここのところ毎日降り続いている雪にはうんざりしているマナリアは更に怒りを爆発させた。
「あー!! もう、なんでわたしばっかりこんな目にあわないといけないのよ!」
 人通りの少ない場所に移動しながら、マナリアは吠えた。それでもそんな声に反応するような人は誰もいなく、ただの雑音として夜空に吸い込まれていった。暴言の限りを尽くしたマナリアはふんと鼻を鳴らし、マッチが入った籠を抱えて大通りに戻ろうとしたとき、背後から声がした。少し弱っている男性のような声にマナリアが振り向くと、そこにはくたびれた様子の男性が立っていた。衣服は汚れ、立っているのもやっとの様子の男性はマナリアにマッチを売ってほしいとお願いをした。
「え? ま、マッチを買っていただけるんですか?」
「ああ。せめて間近で明るいものを見ておきたいと思ってね……いくらだい?」
「そんな……お代なんて……結構です。おいくつご所望ですか?」
「そうだな……じゃあ、三つほど貰えるかね」
「ありがとうございまーっす」
 マナリアは籠から新品のマッチを男性に手渡すと、そっと手を重ねた。その温もりに男性の目からはうっすらと涙が零れていた。男性はさっそくマナリアから受け取ったマッチを擦ると、小さい灯を見て安堵の息を漏らした。
「はぁ……あたたかいな」
「お買い上げ、ありがとうございます。あ、そうそう。さっき、お代は要りませんって言いましたけど……それはもう貰ってますので」
「え? それってどういう……」

 ボッ

「え、き、急に炎が……う……うわぁあああっ! あつい、あついぃい!!!」
「あっははは、燃えろ燃えろー! お代はあんたの悲鳴っていうことで♪」
「な……ど……い……み……あ……あぁ」
 男性が持っていた小さなマッチの灯は、何か意思を持ったかのように大きく膨れ上がりその膨れ上がった灯は男性をあっという間に飲み込んでしまった。衣服を、皮膚を、爪を、筋繊維をじわじわと燃やされ、窪んだ眼窩から更に大きくなった灯が夜空に向かって猛って吠えるように勢いを増して燃え盛った。一片の肉片残さず燃やした灯は未だ降り続いている雪の冷気により、その勢いを徐々に失っていった。しまいにはさっきまで轟々と燃え盛っていたことが嘘のようにしぼんで消えていった。
「はぁ、すっきりしたぁ。さぁて、次はどんな奴を燃やそうかな~」
 マナリアは鼻歌を歌いながら大通りへ向かった。次なる犠牲者を求めて。
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