つぶつぶラムネのふわふわキャンディー【神】

文字数 1,130文字

「まだだ……まだ足りない。まだ……」
 うわ言のように呟きながら巨大な槍を杖代わりに歩いている天使の青年がいた。白銀(プラチナ)に揺れる髪、なにか執念に燃えるような瞳、背中から生える羽は青年の髪と同じ色をしていた。彼の名前はルキウス。悪魔や魔族を滅ぼすことを生きがいとしている。完全に討ち滅ぼすことを目的としている彼の眼は、いつも憎悪の炎のような揺らめきを感じると他の天使たちは言う。しかし、そんなことを塵ほど気にしていないルキウスは、今日も今日とて愛槍を片手に悪を滅ぼしに羽ばたく。
 ルキウスが魔を狩ることに執念を燃やすのには訳があった。それは、唯一の家族である妹を魔族の手によって殺されてしまったからだ。それもルキウスの目の前で無残に……。息も絶え絶えの妹を抱え、ルキウスは愛する妹の名前を何度も呼んだ。そして、毎日見ていた笑顔を浮かべながら妹は息を引き取った。その瞬間、ルキウスの中で何かが弾け飛んでしまった。激しい悲しみと憎悪を含んだルキウスの叫び声は天界中に響き渡り、一時天界は騒然とした。声という声を出し切ったルキウスは、愛する妹を丁寧に埋葬した後、愛槍を背中から抜き力の限り握りしめた。激しい歯ぎしり、泣いても枯れない涙を流しながらルキウスは魔族の住む世界へ一人飛び出した。そこではルキウス単体による大量の魔族狩りが行われていた。むせ返るほどの血潮、響き渡る絶叫、悲鳴、怒号。魔族の血で汚れようが構わなかった。たった一人の身内を殺された悲しみがお前たちにわかるかとばかりに愛槍を操り、一体また一体と確実に狩っていた。
「あいつの受けた苦しみはこんなもんじゃない。お前ら全員にわからせてやる!!! それまで我を止めることはできないと思え!!!」
 愛槍を持つ反対の手からは白い炎を燃やし、魔族に対し投げつける。直撃した魔族は悲鳴をあげる時間もなく蒸発していった。それに驚いた魔族は次々に逃げるがそれを許すルキウスではなかった。白銀(プラチナ)の翼をはためかせ、逃げた魔族を追いかけ白い炎を浴びせた。尽きることのない憎悪をエネルギーに、ルキウスは狩って狩って狩り続けた。

 ルキウスが落ち着きを取り戻したのは、辺りが物音がしなくなったときだった。それは即ち魔族の全滅を示していた。しかし、ルキウスの悲しみが癒えることはなかった。なぜなら、ここ以外に魔族は存在しているから。それならば狩らねばならない。愛する妹のために。そう決めたルキウスは次に狩る魔族の巣へと向かった。向かった先でもその猛威を振るい、魔族の一部界隈でルキウスのことを「あいつこそが悪だ」というようになった。かくして、自分の正義を貫くことを絶対の正義と信じて疑わない天使ルキウスは本当に天使なのだろうか。それとも……。
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