たっぷりホワイトムースのぷるぷるプリン

文字数 3,331文字

「次の種目は、障害物競走です。出場する生徒は入場門まで来てください」
アナウンス中に、体育祭実行員がトラックに様々な障害物を設置していく。スタートから順に平均台、大網くぐり、跳び箱、飴玉探し、そしてゴール。難易度は落ち着いてさえいればさほど難しくないものばかりだ。慎重になりすぎてもダメ、急ぎ過ぎてもだめという微妙なラインを生徒たちはどう乗り越えるのかがこの競技の見どころだ。
「今日こそ白黒はっきりつけようぜ。サニア」
「ソレハコッチノセリフダ! アラジン」
 アラジンと呼ばれた褐色の男の子は足をぐるぐる回しながら、サニアと呼んだ人物……に話しかけた。よくよく見るとサニアというのは、アラジンと常に行動を共にしているランプ(の精)の名前だ。知っている人は今日はライバル心剥き出しだねと言うが、見慣れていない人にとってはランプが喋っていると口を揃え驚いていた。
「なんだよ。ランプが喋っちゃだめなのかよ」
「マァ、フツウハランプトイウモノハシャベランカラナ。メズラシイノダロウ。キニスルナ」
 サニアに諭され、少しつまらなそうな声で返事をするアラジン。適度に体をほぐし終えたアラジンは遠くで闘志剥き出しの生徒を見つけた。
「……あれは。先輩?」
 白い肌に白い髪。そして頭から生えた二本の角、背中には立派な尾もあり、見た目のそれは悪魔だった。乱暴な口調がとても印象的なのだが、いざというときは頼りになることで有名な彼の名はベリアル。汚いことが大嫌いで常に良いことでも悪いことでも全力で挑むという姿勢があり、非常に両極端な生徒でもある。そんな彼が挑むのも同じ障害物競走なのだが、一つ学年が上であるベリアルにはもう一つ障害物が追加されている。手には野球部のバットを持っているのだが……それがどうやって障害物競走になるのかがアラジンにはわからなかった。
「オイ! ソロソロデバンダゾ!」
 サニアの声で我に返ったアラジンは、サニアを見て気付いてしまった。それもちょっと重要なことに……。
「なぁ、サニア。お前、どうやって走るんだ? まさかランプの中から出てくるとか言わないよな……?」
「フフン! シンパイゴムヨウダ! スケットヲヨンデイル!」
「助っ人ぉ……? 一体誰だっ……て……ええぇ!!」
 サニアが器用に口笛を吹くと、上空からひらりと一枚の布が風に吹かれてやってきた。
 サニアが助っ人として呼んだのはただの布ではなく、魔法によって意思を持った布─魔法の絨毯だった。いつもはアラジンの移動手段として活躍しているのだが、今回はサニアとタッグを組んで参戦するということらしい。
「サニアと絨毯が相手かよ……」
「フフン! オジケヅイタカ??」
「……いや! 相手にとって不足はねぇぜ! 勝負だ!」
「ノゾムトコロダ!」
 普段は仲間として行動しているトリオが、今回はライバルという変わった展開に会場からは大きな拍手が起きた。

 そして、ついにアラジン対サニア&絨毯の対決が始まろうとしていた。
「いちについてぇ~ よ~い どぉん!」
 ワスピアが空砲を打ち、勝負の火蓋が切って落とされた。出だしはアラジンが優勢で最初の障害物の平均台をすいすいと通過。少し遅れてサニア&絨毯も平均台を通過(飛行)した。
「あぁ! それはずるい!」
「ナニヲイウ! ジュウタンノウエデバランスヲトルノハムズカシイノダゾ!」
「それは知ってるけど……まだ勝負は始まったばかりだ!!」
 次の大網くぐりも素早く通過したアラジンは背後を気にしないで次の障害物へと走った。跳び箱も軽く飛び越えると、今度は机の上にトレーがあり一面粉塗れになっていた。そして、その中から手を使わず飴玉を探し出してゴールへと向かうだけなのだが、ここでアラジンは苦戦を強いられる。
「くっそ……飴玉なんて……ごほっ!!」
 吹く息の量を間違い、大量の粉がアラジンの前で舞う中、サニアと絨毯は大網くぐりで苦戦をしていた。
「コレハ……ナントモ……ヤッカイダ……ヒィヒィ」
 なんとか潜り抜け、跳び箱も文字通り飛び越えてあっという間にアラジンと同じ障害物に到着した。ここでのサニアはランプの先から器用に空気を出し、飴玉を必死に探していた。対する絨毯はサニアが落ちないようしっかりとその場で滞空していた。
「オイツイタゾ!」
「うおっ! 友達だからって手加減はしないからな!!」
「アタリマエダ!」
 ふーふーをして数分後、同時に飴玉を見つけ同時頬張るとゴール目掛けて全力で走った。
「ここまで来て負けるわけにはいかねぇっ!!」
「ソレハコチラモオナジダ!! ジュウタン、フルスピードダ!!」
 言われた絨毯はサニアが落ちないよう加減をしつつ、最高スピードを出してゴールを目指す。
ゴールテープを持っている実行委員の顔が興奮の色に染まりきるとき、二人(?)はゴールテープを切っていた。果たしてどちらが一着なのか……実行委員の目ではわからなかったためビデオ判定が行われた。一方二人(?)は走った勢いに任せグラウンドに倒れていた。綺麗に晴れた青空を仰ぎながら二人は正々堂々と戦いぬいたことを称え合った。
「お待たせしました! 結果が出ましたのでお伝えします! 結果は……同着一位です!」
 会場からは歓声、二人からは驚きの声が溢れた。どういうことかとアラジンが審査員に話をすると、同着の場面を見せてくれた。
「これは……激的瞬間でした」
「ほんとだ……一緒にゴールしてる……」
「ヌゥ……ケッチャクハツカナカッタカ……」
「決着は次までお預けってことだな」
「ソウダナ……ツギコソハマケンゾ」
 二人の熱い友情に審査員は心から拍手を送り、称賛した。遅れて放送委員会のファイロも大きく手を叩いた。手が痛くなろうとも、今はあの二人の素晴らしい友情を称えずにはいられなかった。

「続いて、二年生の障害物競走に参加する生徒さんは入場門まできてください」
「……やっとオレ様の出番か」
 やる気をそのまま顔に張り付けたような表情のまま入場するベリアル。やるからには勝利しかないと宣言し、クラスを盛り上げていた。スタート地点で準備を済ませ、空砲が鳴るのを待っている。
「それではいきますよ~。いちについてぇ~、ようい、どぉん!!」
 空砲が鳴るのと同時に駆けたベリアルは、目にも止まらぬ速さで障害物を次々とクリアしていく。あまりの速さに会場からはどよめきが起こっている。
「こ、これはなんという速さでしょう!」
 実況のファイロも驚きを隠せず、つい声を張った。開始してまだ数秒も経っていないのだが、はやくも最後の障害物(二年生専用障害物)─ぐるぐるバットに到着していた。これは規定数バットを軸に回わらないとゴールができないというルール。ベリアルはどんとバットを地面に突き立て物凄い勢いでぐるぐる回りだした。
「おらぁあああっ! 十とは言わず、百回転くらいしてやるぜぇえええ!!」
 気合の掛け声とともにぐるぐると回り始めたベリアル。その勢いはつむじ風が発生するくらいだったとか……。他のライバルたちそっちのけで回るだけ回り、あとはまっすぐゴールへ向かえば……まっすぐ……まっすぐ……。
「あれ……まっすぐ……ゴールへ……行ってやるよ……おぉぉっぷ」
 ベリアルの中ではまっすぐ進んでいるつもりなのだろうが、実際はゴールとはかけ離れた場所へと向かっていた。ゴールからグラウンドの真ん中、はたまた観客席へと向かうベリアルに笑い声や悲鳴があちこちで起こっていた。
「ゴールはそっちじゃねぇぞ!」
「こっちこないでぇー!」
「いいぞー! もっとふらふらになっちまえー」
 まるで大地が傾いているように、ベリアルの足元では体勢を整えようとその方向へ足を動かせば動かすほど行きたい方向とは真逆の方向へと行ってしまう感覚に狼狽えながら情けない声を発する。
「おおーーーい! 誰かぁあ! オレ様をゴールに連れてってくれーーーー!!!」
 それを聞いて誰も助けるわけでもなく、トップを走っていたベリアルの順位は最下位だったというのは言うまでもない。
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