神様の果実? ネクタルたっぷり半生ジュレ【神】

文字数 3,284文字

 毎年この季節になると頭を抱える人が後を絶えない。それは子供にプレゼントをせがまれる親もそうだが、それを配達するサンタ側もそうだ。リストにびっしりと書かれた住所を見るだけで意識が飛んでしまいそうな文字量に卒倒しながら配達する先輩サンタを後目に、鼻歌を歌いながら配達の準備をすすめている少女がいた。
 彼女の名前はノエル。サンタになってまだ間もない「見習いサンタ」だが、やる気だけはほかの先輩サンタよりも上を行く期待の新人である。袋の中にラッピングされたプレゼントを入れていると、一人ばたばたとやってきた先輩サンタに声をかけられた。
「通達だ。ちゃんと読んでおけよ」
 力任せに通達を叩きつけて、その先輩サンタはさっさとどこかへ行ってしまった。しばらくしてその通達に目を通したノエルは歓喜、別室からは苦悶の声が漏れていた。
「今年のクリスマスは……きっと素敵になりますねぇ……はぁ……サンタになってよかったぁ」
 ノエルはこうしちゃいられないと言いながら、倍速でプレゼントを袋詰めするとスキップをしながら自分専用のそりに乗り込み星が輝く夜空へと飛んで行った。

 空を飛びながらノエルはさっきの通達を取り出し、読み返した。風でなびくもしっかりとおさえて一文字一文字丁寧に読み上げていった。
「通達。今年のクリスマスは、各世界に一人ずつプレゼントを配達すること。その際に負った怪我や損傷などは自己責任とする。なお、プレゼントは各自で用意し本人もしくは本人宅へと届けること。以上」
 まだサンタになって間もないノエルにとって、

という一文に何とも言えない喜びを感じていた。各世界というのは、主に三つあり世界のあらゆる神々が住まうとされている神、悪魔やいたずら好きな悪魔が住まう世界を魔、猛る炎を吐く者や血の気盛んな戦士たちが集う竜が存在する。今回の通達には、その世界に一人でいいからプレゼントを渡していくようにというものだった。実はノエル、前々から会ってみたいという人物が決まっていたため今回の通達を見て左程困りはしなかった。だが、どういったものがいいのかだけに時間はとられたもののすぐに内容は決まり今ではウキウキしながらそりを滑らせていた。
「さて、最初は……神の世界からで……彼に会いに行きましょう!」
 目的地が決まると、ノエルは小声で何やら詠唱をし小さな扉を出現させると速度をそのままに突っ込んでいった。

 まずノエルが目指したのは神の世界。ここには神はもちろん、妖精なども住む幻想的な世界だった。空のあちこちには浮島があり、その一つ一つに装飾の細かい建造物があり神々は竪琴を鳴らしながら歌を歌っていた。その歌に合わせて踊っている妖精や精霊も心から楽しそうに笑っていた。
「さて……目的の彼はっと……たぶん、あっちかな?」
 手帳を取り出し、彼と呼ばれた人物は予め調べておいたことを確認すると、どうやら彼は昼寝が特に好きで滅多に宮殿や作戦会場等に現れないとか。風の吹くままに現れるというちょっと変わった一面を持っている……と、ノエルの手帳にはあった。
「昼寝かぁ……どういうところで寝るのが好きなのかな……ちょっと聞き込みでもしようかな」
 サンタの帽子を被っていれば大丈夫だよねと、根拠のない理由で自分を奮い立たせ彼に対しての情報を集めることにした。まず声をかけたのは空を眺めていた風の妖精─ウインドスピリットだった。どうやら彼は高い木の枝で昼寝をすることが多いとのこと。特に太い枝が好みでよくそこで寝ているのを見かけたという。最初から有力な情報を得たノエルはウインドスピリットにお礼をし、すぐさまそりを出現させその高さのある木を探し始めた。
 その高さのある木を探すのには、そんなに時間はかからなかった。なぜならそりを走らせて数秒後にその木は目の前にそびえ立っていたのだ。雲をも貫くその木は神秘的かつどこが威厳を放っていて、人間界では決してお目にかかれるものではなかった。そしていつの間にか現れたウインドスピリットがこの木を「ユグドラシル」と呼んでいることを教えてくれた。
「あれ? さっきのウインドスピリットさん? どうして」
「いやあ、話を聞いていたらなんだか楽しそうだから。ぼくも混ぜてもらおうと思ってさ」
「ありがとうございます! あとでお礼をさせてください!」
「うれしいね。ぼく、プレゼントというものをもらったことがないからどういうものか興味があるよ」
「きっとウインドスピリットさんも喜んで貰えると思います! まずは……ウルさんを探しましょう!」
「細かいところはぼくに任せて!」
 こうしてノエルとウインドスピリットはプレゼントを渡す相手である弓の名手─ウルを探すことにした。

 ウルを探すこと数十分。ウインドスピリットが木の幹で休んでいる姿を見つけ、ノエルはそりでそっと近付いた。金色の髪に大きな弓を背負い、新緑のマントは調べた通りの姿だった。目的のウルに会えた喜びを声に出すことはできないが、ノエルの嬉しそうな笑顔にはよく表れていた。ノエルは袋から黄色い紙でラッピングされた箱をウルの傍に置き、起こさないよう静かにユグドラシルを離れた。本当はお話をしたかったけど……でも、自分のわがままで起こすのは悪いと思い今回はプレゼントだけとしきっぱりと割り切った。
 ユグドラシルから離れたところで、ノエルは色々と教えてくれたウインドスピリットにお礼として小さな箱をプレゼントした。そこでウインドスピリットは自身が精霊であり物体に触れることができないと伝えると、ノエルはすぐにウインドスピリットと向き合い一緒にプレゼントを開けるように動作を合わせた。
「ゆっくりリボンを解きますよー」
「うわぁ。ドキドキするなぁ。何が入ってるんだろう」
「もう少しですよー。ほら、あとはラッピングを解いて……さ、箱を開けますよー」
 ゆっくりと箱を開けるとそこには一口サイズのチョコクッキーが入っていた。プレゼントを初めて開けたウインドスピリットは食べることはできないが、いたくそれを気に入りふわふわと空中を泳いだ。
「お友達と分け合ってくださいね!」
「ありがとう! プレゼントってこんなにワクワクするものなんだね。こんな気持ちは初めてだよ!」
「それと……その……」
 ノエルがなんだか言いにくそうにしているのを見たウインドスピリットは、首を横に振って弾んだ声で答えた。
「ぼくのはこの気持ちが最高のプレゼントだよ! 教えてくれてありがとう!!」
 ウインドスピリットの真っ直ぐな答えに、ノエルは驚いた。本来なら受け取った側にも利用ができるものが好ましいのだが、今回はそうではなく受け取った側─ウインドスピリットは

がプレゼントだった。そうか……なにも中身だけがプレゼントではないんだ……と気付き熱くなった目頭を抑えた。
「それじゃあ、ぼくは早速友達にこのことを話してくるね。またね! お姉さん!」
 ウインドスピリットは風を器用に操り、箱をふわふわと浮かせながら飛んで行った。それをノエルは見送り、完全にウインドスピリットが見えなくなるまで手を振り続けた。
「……なんだか、こちらまで温かくなりますね」
 自分の胸の奥にある温もりを感じながら、ノエルは次なる場所へと向かうため手綱をぐいと引っ張り扉を出現させ、迷いなく突っ込んでいった。


「……」
 小鳥たちがウルの頭に止まったときの小さな衝撃で目が覚めたウルは、いつもとなんだか雰囲気が違うことに気が付いた。敵襲でもなければ森の動物たちの様子も変わっていない……だけど、何かが違うと感じていると小鳥の鳴き声に目を向けるとそこには見慣れない黄色い包み紙に真っ赤なひも状のものが巻かれた物が置いてあった。
「……なんだこれは……」
 警戒はしつつも丁寧に紐を解き、包み紙をはがしていくと中から箱が現れた。ゆっくりと開くとそこには……。
「……ふっ」
 そこには

が入っていた。さらに箱の底には小さな手紙が添えられていた。

─メリークリスマス!!─
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