可愛くデコって♡鬼面スフレ 完熟いちごジャム添え【神】

文字数 5,086文字

 我は深淵より封印されし者。人間の世界では「魔神」と言われている程の力を持つ。腕を振り上げれば暴風、振り下ろせば重力が生まれる。他にも色々とあるのだが、動くだけでそれなりに影響が出てしまうらしく、むやみやたらと動けないでいる。
 地底奥深くに封印されてどれほどの時間が経っただろうか。我の頭上に細い光が現れ、その細い光に引っ張られるようにどんどんと上昇していく。ようやく……ようやく我も退屈な時間が終わりを迎えようとしていたのだ。この力を持って世界を粉々にしてやろうと意気込み、ひと際眩しい光に吸い込まれ、瞬間的ではあるが意識を失った。

「……った! ……ったわパパ! ……たし、ついに成功したわ!!」
「よくやったな! お前はこの家の誇りだ!」
「すごいわ……最年少のあなたがこれ程の魔力を持ってるなんて……ママ、びっくりだわ」

 なんだ……やけに騒々しいな。我は一体誰に召喚されたんだ……。
目をこすり、ぼやける視界をぬぐった先には今まで見たことのない人間がいた。波打ったかのような形をした飾りが腰あたりについた服に、頭には数多くのリボン、片手にはウサギのぬいぐるみを持った女子が嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。まるで誕生日プレゼントをもらったときのような反応だった。……まさかな。この我がそんなわけ……。
「お前の誕生日プレゼントは……大成功だったな!」
「うんっ!! パパ大好き!!」
 な……ん……だと。この……魔神と恐れられた我が……この人間の誕生日プレゼント……だと。ふざけるな……こうなったらすぐに我の魔力を開放してこの家全て破壊してやろう……。
「ちょっと! なによあんた! 静かにしててちょうだい!」
 うぐっ!!! な……なんだ。この人間に指をさされただけなのに……体がいうことを聞かない……。それどころか指一本動かせない……。な……なんという力を持っているんだこいつは。
「これこれ。お前はこの家の中で一番魔力が強いんだ。制御しなくてはだめじゃないか」
「そうだった! ごめんなさいパパ」
 いやいや……謝るのはそっちじゃなくてこっちなんだが……おい。はやく拘束を解け。喉に力を込めて吠えようとするも、それも叶わずただうがいをしているかのようなゴロゴロと音が出るだけだった。その音が嫌だったのか、その人間は眉をぴくりと動かしまた我を指さした。
「うるさいっ!!」
 あがぁ!!! さ……さっきよりもきつめの拘束が我の体を縛り付け、それこそ本当に動くことが叶わなくなった。くっ……こいつ……思っていた以上に……強い。
「こらこら。シェムケリー。そんなことをしたら、せっかく召喚したのにいなくなっちゃうじゃないか」
「だってぇ。こいつの魔力がぐるぐる唸っててうるさかったんだもん」
「そっか……それなら仕方ないか」
 おいおいおいおいおい。どうなってるよこの家族。我が声を発しているのはうるさいとは……とんでもないところに呼び出されてしまったかもしれないと思うが、これはもう諦めるしかない。この人間から逃げる方法はないわけではないが、その可能性はきっと無駄に終わる。
「もう。うるさいからこいつの魔力を制御しちゃえ」
 ん……なんだ。我の首元に……鍵をかけた……だと?? 見た目はふざけたもだ。こんなもの……すぐに……あれ? あれ?……こ、これ……本当に力封じてる……? 最低限の力しか……入らないんだけど……。
「それと……この子、なんだか可愛くない」
 か!!! 可愛くないだと!!! そもそも魔神が可愛くあってたまるか!! というか、その手に持っているのはなんだ。黄色にピンクに……ふりふりのついたなにか……?? ま……まさか……!!
「さぁ、これで可愛くしてあげる! うれしいでしょ!」
 う……うれしくなぁい!!!! か……勘弁してくれぇええ!!!


「うん! さっきより随分可愛くなったよ!」
 人間にいじられて数十分。頭にはこいつと同じ色のリボン、首には波打ったような形の首輪、そして鍵。きっと、反抗的な態度を少しでも見せればこいつはへそを曲げて、きっと拘束の魔術を使うだろう。そうなると……大人しく従うしかない。
「せっかく呼び出したんだもん。可愛くお洒落しなきゃね」
 ……我にお洒落は無縁。ただ、召喚者の呼びかけに応じて暴れるだけ……(今、物凄く暴れたくて仕方がないのは胸の奥にしまっておこう)
「これからよろしくね! うふふっ♡」
 ……我の頬に触れているときの人間の顔は、さっきと同じ心から嬉しさを感じているときの様子だった。我が来て……よかったのだろうか。いずれ、この力を抑えきれなくなったらお前は……きっとその華奢な体はあっという間に消えてしまうというに……そんな儚い人間という存在に使役されてる我も同じなのだろうかと考えてしまった。今はこいつが召喚者だ。我をあの暗くて退屈な場所から出してくれた……相違ないことに少し……ほんとに少しだけ感謝……している。

「シェムケリー! シェムケリー!! 起きて!」
 こいつの父親が部屋の扉を乱暴に叩く音に我も気が付き、何事かと思い主を揺らす。もぞもぞと動きながら上体を起こし、音のする方へと向かうと父親は血の気が引いたような顔をしていた。
「いますぐ……いますぐどこかに隠れるんだ!! パパがいいよと言うまで出てきちゃだめだよ」
「……パパ? 何を言ってるの??」
「いいかい。クローゼットの中にいるんだ! はやく!」
 主は父親に無理やりクローゼットの中へと押し込まれ、簡単に開かないように細工をしてから部屋を出て行った。いったい何が起こっているのか理解が追い付いていない主はクローゼットの中からどんどんと叩き事情の説明を求めた。
「パパ? 一体どういうことなの? ねぇ、パパったら!!」
 事情を説明もせずに出て行った父親にその言葉は届かず、主はクローゼットの中で更に暴れた。あともう少しで細工がとれそうなのだが……あともう一息たりないところだ。
「……はぁ……はぁ……いるんでしょ。そこに……だったら、手伝いなさいよ……!こんのバカ魔神がぁ!!」
 なっ!!!! ば、我をば……バカ呼ばわりしたな!?? ようし、こうなったらこの細工を壊してもいいってことだな。肩をぐるぐると回し、(今までの無礼やムカついたことを含めた)拳を振り下ろした。首にある鍵のせいか、家は壊れるどころかその細工だけがきれいに壊れ、中から主が飛び出してきた。
「もう……あたしがピンチなんだから言わなくても助けなさいよ。この役立たず」
 ……我慢。我慢だ。これも次に拳を振るう時の力になると思って……我慢だ。鼻でふんと息を漏らした主はなんとしても父親から事情を聞くため、杖を持って外へと出て行った。
「なにぼーっとしてんのよ。あんたもくるのよ。ほらっ!」
 杖と我との間に見えない鎖でもあるのか……勢いよく引っ張られた我はまるで風船のように揺れながら主の後をついていった。……さっきの感謝……忘れちゃおっかなぁ……。

「頼む! うちにはそんな金はもうないんだ。だから、これ以上は関わらないでくれ」
「なぁにいってんすかぁ。こんな豪邸に住んでいるのにお金がないなんて嘘くさいなぁ」
「マジでこいつ嘘ついてるっぽいね。さっさとお金を出しちゃえば終わっちゃう話なんだよ」
「だから! うちにはそんなお金はないと何度も言ってるではないか……」
「パパ!! なにが……」
 無理やり引っ張られているせいか、時々意識が怪しいときがあり白い空間が見えた気が……。頭を振り、意識を戻すとそこには主の父親と、ガラの悪い人間が二人。どうやら金をせびりにきていたようだ。それを父親は何度もないと言っているのにしつこい……という状況だろうか。その現場を目の当たりにした主ははっと息を飲み、動けなくなっていた。そして次の瞬間、二人のうち一人が主を後ろから羽交い絞めにし首筋にナイフをあてていた。
「あぁ!! しぇ……シェムケリー!!! 娘は関係ないだろ。今すぐ離せ!」
「お金がないなら……この子がどうなってもいいのかなぁ??」
「ぱ……パパ……苦しい……た……たすけ……て……」
「あぁ……わかった!!! か……金は出す。だから……まずは娘を解放してくれ」
「いやだね。先に金を用意しな。でなきゃ開放する前に……」
「うっ!! くっ……は……!!」
「ほぉら……可愛い娘が苦しんでるよ~。パパはどうするのかなぁ……」
「くっ……汚いぞ」
「さっさと金を用意しないのが悪いんだかんな……わかったらさっさと……お?」
「お?」

 ……ここは我の出番だ。主が気絶しているせいか、ある程度の力を開放してもいいことになっているようだ。これならこいつをぶっ飛ばすくらいは……容易いっ!!! 思い切り拳を前に突き出すとさっきまで蓄積していた怒りやらなんやらの力が増幅し、強力な風を引き起こしガラの悪い二人(だけ)を吹き飛ばした。
「え……あ……ま……え……可愛い……?? ええ??」
「情報量が多すぎて突っ込みがぁ……」
 何を言いたかったのかはよくわからないが、これで主は解放された。あとは意識を取り戻せば……我は力を調整しながら主の頬に触れた。温かみのあるふっくらした頬から熱を感じ、次第に目を開けた主が我と目が合ってしばらくすると大きな声をあげて泣き出した。
「うわぁあああ!! ま……魔神ちゃぁあん!! こわかったよぉーーーー!! わぁあああ!」
「しぇ……シェムケリー。ご、ごめんよ。怖い思いをさせてしまって……」
「うわぁあああ!! 魔神ちゃあぁぁああん!!! あああぁああぁぁぁ……!!」
 泣く主をどうしたらいいかわからず、我はとっさに主の体に触れた。すると主は我にしがみつき、また泣き出した。
「魔神ちゃん。今はシェムケリーのことを……お願いね」
 そういって家の中に入っていく父親の背中は、どこか寂しさを感じた。

 主を部屋まで抱え、ベッドまで運ぶとまだ涙で溢れる目を擦りえずいていた。そりゃあ突然あんなことがあれば驚くだろう。それも父親が何か関係しているとなれば猶更だ。……つくづく人間という生き物は不思議だ。我は主を少しでも落ち着く時間を設けた方がいいと思い、消えようとすると主が我の人差し指をぎゅっと握った。
「……そばにいてくれなきゃ……いや……一人にしないで……こわいよ……魔神ちゃん……」
 ……我は主の言われるがまま、主の気持ちが落ち着くまで傍にいた。……滑稽だな。魔神と言われ周囲から恐れられている存在というのに、主はそんな素振りを見せずにずっと……。たった数時間しかいていないというのに……こんな気持ちは初めてだった。
 仕方ない。我は主の盾となり武器となり(……時にはおもちゃになり)、従うとしよう。主が気が済むまで……主が「飽きた」というその日まで。


 後日。父親から事情を説明されたらしいが……その時、我は主の部屋を掃除していたからわかならないが、帰ってきたときは顔を真っ赤にして辺りに怒鳴り散らしていた。それを横目で見ていた我は何もできないから知らん顔をしていた。すると、我の背中に衝撃が走った……結構痛い。
「あぁもう! パパがあそこまで意気地なしだなんて思わなかったわ!! しばらく口きいてやんない!! ふんだっ!!」
 相当頭にきているのは、主の蹴りから十分伝わった。まぁ、事情は聞かないでおこう。それを尋ねて思い出してまた蹴られるのはいくら魔神でもごめんだ。
「ねぇ魔神ちゃん……あの時……助けてくれてありがとね」
 我はなんのことかと肩をすくめ、ごみ袋の口を縛った。後片付けを済ませ、主の命令があるまで待機をしてると主は我に体を寄せてきた。
「……ほんとに……あのとき、怖かった。魔神ちゃんがいなかったら……きっと……」
 頼れる存在であるはずの父親も、あの時ばかりは身を挺してまで助けてくれないのを見てしまってか、主は少なからずショックを受けているようだった。
「あたし、わがままでうるさいかもしれないけど……魔神ちゃんがきてくれて……ほんとに嬉しい。ありがとね」
 うっすら涙を浮かべながら微笑む主の顔を見た我は、胸のどこかから何かが壊れる音がした。それは悪いものではない。うまく表現ができないのがもどかしいが……その……人間という偏見が崩れたというか……その……悪くないなって思えた瞬間だった。
「ありがとね。魔神ちゃん。それと、これも付けてくれると嬉しいな」
 そういって主の手にあるものは……新しい色のリボンだった。はぁ……もう好きにしてくだせぇ。
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