情熱あふれるチョコレートドリンク【竜】

文字数 1,684文字

 今日もギルドからの依頼をこなし、自室に帰ると見慣れない封筒が置いてあった。わたし、誰かに手紙書いたっけ? と頭を捻らせながら荷物を片付け封筒に手を伸ばした。無地の封筒には何も書いてなく、裏面にはバラの形をしたシールで封がされていた。それを丁寧にはがし、中に入っていた便箋には簡単にこう書かれていた。

 ─いつもお世話になっているあなたに、とっておきのドリンクをご馳走します。お待ちしております。 フェルナンド─

 フェルナンドとは、いつも陽気な竜人でお酒が大好きでナイスでダンディーな人物。いつもはわたしの話をうんうんと頷きながら聞いてくれるのだけど、お酒の話になると一変し饒舌になる。話しているときのフェルナンドは本当にお酒が好きなんだあと思わせるほど、楽しそうに話をしてくれる。わたしはあまりお酒は詳しくないのだけど、フェルナンドの話なら不思議なことに聞いていられる気がする。そんなフェルナンドが、わたし充てに手紙で呼び出すということは……何かあったかなとまたもや頭を捻ってしまったが、せっかくフェルナンドが誘ってくれたのだから、行ってみることにした。
 同封されていた地図を頼りに道を進んでいくと、たくさんの人で賑わう街に辿り着いた。薄暗くなり始めた街の中の人たちはどこか行き急いでいるような雰囲気を出しながら、それぞれの目的地へと動いているように見えた。せかせかとしている表情からはどこか余裕を感じられない不安をも感じたわたしは、なるべくぶつからないよう避けながら進んでいくと小さなショップサインが出ているお店の前に着いた。地図と見比べるとここで間違いないということだけど……わたしは恐る恐る店のドアノブをゆっくりと押した。

 からんからん

「いらっしゃい。待っていたよ」
 非常に落ち着いた声でわたしを迎えてくれたのは、ギャルソンエプロンを着けグラスを丁寧に磨いているナイスでダンディーな竜人─フェルナンドだった。ブラウンのさらさらな髪に真っ赤な角、薄い褐色の肌、整えられたひげは色気さえも感じてしまうほどに凛々しかった。
「遠いところからお呼びたてして申し訳なかったね」
 確かにちょっと距離はあったけど、そこまで苦ではなかったというとフェルナンドは小さく笑いながらわたしの頭を優しく撫でた。
「ははっ。ありがとう。さ、こちらへ」
 フェルナンドがカウンター席へと案内してくれると、どこからかバラのような香りがふわりとわたしの前を通り抜けた。花は飾られていないけど……まぁいいか。わたしはフェルナンドが案内してくれた椅子に腰をかけると、フェルナンドはカウンターへと入っていきぴかぴかに磨いた
カクテルシェーカーをわたしの前にとんと置いた。
「では、始めようか」
 フェルナンドはシェーカを半分に分割し、片方にチョコレートシロップとバニラシロップ、氷を入れてしっかりと蓋を閉めた。それから手慣れたようにシェーカーを振っている姿はまるで本物のバーテンダーかのような振る舞いだった。何度かシェーカーを振ってから用意してあったグラスに出来上がったドリンクを注いでいくと、何もなかったグラスからまるでバラが咲くまでの瞬間が映った。そしてバラが満開になると今度は花びら一つ一つが激しく燃え、まるで情熱を表しているように見えた。
「お待たせしました。フラッシュ・ローズの完成です」
 目の前で燃えるバラを見つめるわたしに、フェルナンドは「ああ、安心してくださいね」と発したあとに「アルコールは入ってないので」とわたしにウインクした。一瞬、わたしの胸が大きく跳ねたような気がしたけど……き、気のせい気のせい。目の前でめらめらと燃え続けるドリンクに恐る恐る口を付けると、まるで濃厚なミルクチョコレートを口にしたときと同じとろんとした口当たりだった。そしてほんのり広がるバラの香りがなんとも上品だった。ほうと一息吐くと、フェルナンドは嬉しそうに眉を動かした。チョコレートの楽しみ方って何も食べるものだけじゃないんだと思いながら、わたしはフェルナンドが心を込めて作ってくれたドリンクにしばしうっとりしていた
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